第18話:琥珀色の解錠と理論の情熱
「……はあ、はあ……っ。カイト、さん……!」 事件が解決し、夕焼けに染まる薬草園で、ニキはカイトに歩み寄った 。彼女の頬は上気し、胸は激しく高鳴っている 。潤んだ瞳でカイトを見つめるその姿は、端から見れば、絶望を救ってくれた英雄に対する「恋心」そのものに見えた 。
(……おいおい。これは、まさかのアレか?) カイトは内心で苦笑した 。極限状態での危機回避、そこからのカタルシス 。心理学で言うところの「吊り橋効果」というやつだろうか 。
「カイトさん、私……こんな感覚、初めてです。心臓が止まらなくて、頭の中が真っ白で……!」 ニキがカイトの手を握りしめる 。カイトは「ここで優しく声をかけるのが正解か」と考え、口を開こうとした――その時 。
「この理論、最高だわ! アキリ先輩の『一点突破』と、私の『汎用管理』を組み合わせれば、都市全体の収穫効率を300%は引き上げられる! ああ、早く報告書を書きたい! 次の観測スケジュールを組まなくちゃ!」
ニキの視線は、すでにカイトを通り越し、背後の薬草園と魔導スクロールへと注がれていた 。彼女の心拍数が上がっているのは、カイトにときめいているからではない 。解けなかった難問が解け、それが「実務」として結実することへの、学術的・仕事的な「快感」によるものだったのだ 。
「……あー、なるほどな」 カイトは握られた手をそっと離し、納得したように笑った 。彼女にとっての「愛情」を向ける先は、特定の個人ではない 。理論を理解し、それを人々の生活を救うための日常業務へと落とし込む「仕事そのもの」なのだ 。
「カイトさん、ごめんなさい! 私、今すぐギルドに戻ってデータの整理をしなくちゃ! この喜びを誰かに伝えたい……ううん、この喜びを『運用』したいんです!」
ニキはカイトに一礼すると、脇目も振らずにギルドの「タウィ」へと走り去っていった 。彼女はもう、迷いの中にある「凡人」ではない 。知の継承を力に変え、現場を動かす「プロフェッショナル」の顔をしていた 。
(……彼女を恋愛のいざこざで惑わすのは、野暮ってわけか。あそこまで『仕事』を愛してるなら、それが彼女の幸せなんだろうよ)
カイトは一人、静かに街を後にした 。背後からは、復活した薬草園を喜ぶ農民たちの声が聞こえてくる 。
賢者の国オグボンで、二人の「変わり者」と「凡人」に、静かな種を蒔いた 。それがいつか、この世界の歪みを正す大きな森になることを願いながら、カイトは次の土地へと足を向ける 。
龍脈の導きは、すでに西の海風を伝えていた 。次は――自由都市連邦ビザラ 。金と欲望が渦巻く港へと、カイトは歩み出す 。
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吊り橋求めて三千里 @nankichi
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