星の雫のリサ

snowkk

第1話 §辺境の町エルドナ§

§ 辺境の町エルドナ §


 この辺りは南の港町ヴェールハーバー、西にある大都市グランド・サンダール、北のダナグランド王国、東の城塞の王国ディオレラ王国の中間地点に位置し、かつては商業の町として栄えていたが、戦乱の世となり、治安が乱れ、町は荒れ果てていた。


 もうここ何年もの間、役人と名乗る者や、周辺の町の何者かもわからない連中が、このエルドナからあらゆるものを奪っていった。

 そして、いつの間にか、盗賊や様々な犯罪者たちが蔓延はびこる治安の悪い町になり、すっかり人が寄り付かない町へと変貌してしまった。


 そんな辺境の町エルドナの宿屋ボルポナルに一人の少年がやって来たのは夜遅い時間だった。

 一頭の馬に乗ってやって来た少年は「一晩だけ泊まらせて欲しい」と宿屋の主人に銀貨を五枚手渡した。

「ほう、銀貨五枚……どこかで盗んだんじゃないだろうな。盗んできた銀貨なら、そんな奴をかくまったってことになりゃ、こっちが命を狙われることだってあるんだ」

「……」

 少年は何も言わずに宿屋の主人を見つめた。

「変な子だ。リサその子の荷物を部屋に運んでやりな」

 宿屋の主人はリサという少女に荷物を運ぶよう命じて店の裏へ行った。


 色の白い華奢なリサという少女は少年と同じくらいの年の子に見えた。ボロボロの服を着てここで働いている様子を見ると、この宿屋の子ではないようだ。

 いくさが続くこの辺りでは、親を失った子どもたちが、宿屋や工場、酒場などで働かされていた。

 見たところ、この子もそういう子なのだろうと察しがついた。

 少女は何も言わず、少年の手に持っている荷物を運ぼうとした。


「いいよ。僕の荷物はこれだけだ。これくらい自分で運べるから」

「困ります。言われた通りしないと叱られるんです」


 少年は宿屋の主人が行った方をチラッと見て、

「荷物はこれしかないんだ」

 と言って、もう一度、手に持った袋を見せて微笑んだ。


「それより何か少しでいいから、外につないでいるあの馬に食べ物をもらえないだろうか。それでいいんだけど」

「馬ですか……ちょっと待ってください」

 そう言って少女は、奥にいる宿屋の主人のところへ行った。


 すると、すぐに主人が現れた。

「馬に食べ物だぁ?」

 少年が頷くと、主人はフンっと言って手を振り、また、奥に行ってしまった。


 少女が困った顔をして少年に言う。

「ここは度々、周り大きな町からの役人さんたちがやって来て、いろいろなものを取っていくんです。泥棒や強盗も……だから、食べ物があまりないんです。この辺は荒れ地で草もあまり生えない土地なので、馬の食べる物は……」

「そうか……無理を言ってすまなかった。明日、朝早く出て行くから食べ物はいいよ。それより、君は、どういう女の子か知らないけど、きっと特別な人なんだね。もとから、この辺りにいた子じゃないね」

「え?」


「その首飾り」

 少年はそう言って少女の胸元のペンダントを指差した。


「え、これ……これが見えるんですか?」

 少女は驚いて少年に問い返す。


「やっぱりそういうものか……見えるよ。宿屋の主人たちには見えてないんだろう」

「はい」


「それは『星のしずく』夜空に輝く星の光を集めてつくったという幻の石だ」


「あなたは?」


「それはある国の特別な種族しかつくるすべをもっていない……そして、その首飾りは、その国のなかでも特別な者しか持っていないはずの秘宝……高貴な紋章だ」


「あなたは一体……そのことは、それを知られると身に危険が及ぶことがあるともいわれ、それを知っている者も……いないはず……あなたは」


「僕は、いつか君を守らなければならない時がくるかもしれない」

「え?」


「まあ、その時は必ず僕が守ってあげるから……今日は寝る」

「は、はい」


「明日、朝早く、ここを出て。隣の町に行くよ。用が終わったら、また、この町に寄る。もう一度、ここに泊まるよ」


 少年は少女の耳元に顔を寄せ小さな声で言った。

「その時、君を助けてあげるよ」

「え? ここから連れ出してくれるんですか? でも、多分そんなことは無理です。この宿屋の主人は怖い人だから」


「へえ、さっきも怖かったね。でも、僕も結構強いかもしれないよ」

「え?」


「なんてね。ハハハ」

「フフ、面白い人ね」


「まあ、今日は寝るよ。おやすみ」

「おやすみなさい」


 少女は嬉しい気持ちになり微笑んで会釈した。


 次の朝、まだ夜が明ける前に少年は宿屋を出た。

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