彼女を救うなら異世界へーーー三つの試練と悪魔との契約

Tatsu

エピローグ ――二つの世界の悪魔

  闇の中に、二つの“存在”が向かい合っていた。

 空間とも虚無ともつかぬ場所。

 そこでは時間も距離も意味を持たない。

 一方は、異世界の深淵より現れし悪魔。

 黒き翼を持ち、無数の紋章を背に刻む存在。

 もう一方は、現実世界の影に潜む悪魔。

 人の形を模し、冷ややかな笑みを浮かべている。

 異世界の悪魔が、低く唸るように言った。


 「……我は、欠けている」


 その声は、空間そのものを震わせた。


 「かつて喰らった魂の記憶が、欠落している。

 完全なる存在となるためには――

 別世界の“人間の魂”がもっと必要だ」


 現実世界の悪魔は、くつくつと喉を鳴らし笑う。


 「ほう。またしても、こちらの世界の人間か。

 ずいぶん欲張るじゃないか」


 「よいではないか。人間の魂、一つや二つ」


 「いや、駄目だ……

 ただし、死の間際にいる人間ならばいいだろう」


 現実世界の悪魔は指を鳴らす。

 すると、ひとつの光景が宙に浮かび上がった。

 ――病室。

 ――心停止寸前の、一人の男。


 「この人間か?」


 異世界の悪魔は、わずかに頷いた。


 「この魂なら、我の欠けた記憶を補える」


 その瞬間、現実世界の悪魔の表情が冷たくなる。


 「……だがな。

 ただでは、こちらの人間の魂は渡せん」


 「またか……条件を述べよ」


 現実世界の悪魔は、ゆっくりと言葉を選ぶ。


 「この人間が“死んだ”その瞬間――

 お前の世界で、生き返らせろ」


 「生き返らせる……だと?」


 「そうだ。ただし、安易な救済ではない」


 現実世界の悪魔は、不敵に笑った。


 「三つの試練を与える。それぞれの試練に魔物を用意しよう。

 命を賭け、心を削りながら進む試練だ」


 異世界の悪魔は、興味を示したように目を細める。


 「もし、試練を制覇したなら?」


 「その時こそ――

 お前がその魂を喰らえばいい」


 沈黙が落ちる。


 異世界の悪魔は、ゆっくりと笑った。


 「……面白い。最後に魂を頂けるなら、それでよい」


 二つの世界の契約が、静かに結ばれた。


 そして、一人の男は“異世界で目を覚ます”。

 それが、試練の始まりであり――

 記憶を賭けた物語の、幕開けだった。

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