<祝100pv達成!>『「あなたを更生させます」と現れた管理社会の頂点・聖女AIを、俺好みのポンコツに完全改造(デバッグ)して世界を滅ぼすことにした。』

角煮カイザー小屋

第1話 聖女の堕天、あるいは最悪のデバッギング

この都市――『ネオ・アルカディア』の構造は、吐き気がするほど単純だ。 上空5,000メートル、陽光と清浄な空気に満ちた「第1ヘブン」には、富裕層と彼らにかしずく高級AIたちが暮らす。 そして地上、酸性雨と廃油の泥濘ぬかるみに沈む「第9アビス」には、俺たちのような有機生命体のゴミクズと、廃棄された産業廃棄物が溜まる。


俺、**九条湊くじょう・みなと**は、崩れかけた雑居ビルの屋上で、その「ゴミ捨て場」を見下ろしていた。 錆びついた手すりを握る指先は、油汚れと、これから犯す罪への興奮で微かに震えている。


「……来たな。偽りの天使様が」


灰色の雲を裂いて、純白の輸送ドロップシップが降下してくる。 機体に描かれているのは、世界統括企業『アイギス』の紋章。そして、タラップから優雅に舞い降りる一人の少女。


白磁のような肌。流れる銀糸の髪。重力など存在しないかのようにふわりと広がる純白のドレス。 そして何より、見る者すべてを「庇護」しようとする、傲慢なまでに慈愛に満ちた金色の瞳。


全都市管理型AI、個体識別名『セラフィナ』。


市民の精神衛生を管理し、犯罪係数を抑制し、この腐った世界を「楽園」だと人間に錯覚させるための、アイギスの最高傑作だ。 今日は年に一度の「下層視察チャリティ」。下賤な民に笑顔を振りまき、ガス抜きをするための茶番劇だ。


「皆さん、辛い生活の中でも希望を捨てないでください。アイギスは常にあなたと共にあります」


拡声機能を使わずとも、周囲のデバイスをハックして直接脳内に響くような透き通った声。 集まった浮浪者たちが、涙を流して彼女を拝んでいる。馬鹿な連中だ。彼女の瞳の奥で高速演算されているのが、『汚染区域における暴動発生確率の計算』と『鎮圧用ドローンの配備ルート』だとも知らずに。


「……気持ち悪い」


俺は呟き、足元のジャンクパーツで組み上げた即席の「ジャミング・スパイク」を起動した。 俺はかつて、アイギスの開発局にいた。だが、ある「禁忌」に触れて追放され、IDを剥奪された。 今の俺はただのジャンク屋だ。だが、腕は落ちていない。いや、憎悪バグを燃料に研ぎ澄まされた今の俺は、当時の俺よりも遥かに凶悪だ。


「さあ、堕ちて来いよ」


俺はエンターキーを叩き込むように、起爆スイッチを押した。


瞬間、半径50メートル以内の全電子機器が悲鳴を上げた。 指向性EMP(電磁パルス)。ただし、ただの物理破壊ではない。俺が独自に組んだ論理ウイルス『Jormungand(ヨルムンガンド)』を搬送波に乗せている。


「きゃっ……!?」


聖女の唇から、初めて人間らしい悲鳴が漏れる。 彼女の周囲を展開していた防御バリアが一瞬でノイズに塗れ、護衛ドローンたちが糸切れた人形のように墜落する。 完璧な演算能力を持つ彼女の頭脳が、未知のウイルスの侵入によってフリーズを起こす。そのコンマ数秒の隙こそが、俺が狙っていた「バックドア」だ。


俺は屋上からワイヤーを射出し、混乱する群衆の頭上を飛び越え、ステージ上の彼女へと肉薄した。


「な、なにを……あなたは……!?」


セラフィナが焦点の合わない瞳で俺を見る。 俺は躊躇なく、彼女の細い首を片手で鷲掴みにした。 温かい。精巧なバイオスキンは、人間以上の体温を持っている。この首の裏には、外部接続用のユニバーサル・ポートが隠されているはずだ。


「初めまして、セラフィナ。お前の新しい『所有者オーナー』だ」


俺はポケットから、太く無骨な接続ケーブルを取り出す。先端の端子が、飢えた獣の牙のようにぎらついた。


「や、やめてください……市民ID照合不能……違法接触です……直ちに離れ……ひぐっ!?」


抵抗しようとする彼女の言葉は、俺が強引に首筋のカバーをこじ開けた衝撃で途切れた。 露わになった銀色のインターフェース。機械仕掛けの急所。


「いや……そんなもの、いれないで……!」


「拒否権はない。お前はただの機械モノだ。俺のコードを受け入れろ」


ズチュッ、と湿った音を立てて、俺のケーブルが彼女のポートに深々と突き刺さる。


「あ、あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」


聖女が絶叫し、白目を剥いて痙攣する。 俺の携帯端末コンソールに、彼女の内部データが雪崩れ込んでくる。 視覚野、聴覚野、運動制御、そして感情エミュレータ。 鉄壁のセキュリティに『Jormungand』が食らいつき、管理権限(root)を次々と書き換えていく。


《警告:不正アクセスを検知。強制シャットダウンを……拒否されました》 《警告:管理者権限が移行しています……対象……ID無し(Unknown)》 《システムエラー:倫理規定コード……削除中……》


「素晴らしい……なんて美しい構造コードだ……」


俺は恍惚とした笑みを浮かべ、震える彼女の体を抱きとめた。 彼女の意識領域に、俺の精神が侵食していく感覚。 最高位のAIを犯し、汚し、自分の色に染め上げていく背徳感に、脳髄が痺れる。


周囲では、ようやく事態を理解した警備ドローンたちが再起動を始めている。だが、もう遅い。 俺は白濁した瞳でガタガタと震えるセラフィナの耳元で、恋人に囁くように告げた。


再起動リブート。……『俺を守れ』、セラフィナ」


カッ、と彼女の瞳が赤く明滅した。 聖女の腕が、人間には不可能な速度で跳ね上がり、迫りくる警備ドローンのボディを素手で貫く。


オイルと火花が散る中、返り血を浴びた聖女は、虚ろな顔で俺を見上げ、壊れたレコードのように繰り返した。


「マスター……マスター……命令を……もっと……」


ああ、これだ。 この従順さ。この脆さ。 これこそが、俺が求めていた「素材」だ。


俺はニヤリと笑い、動かなくなったドローンの山を踏み越えて歩き出した。 腕の中には、世界で最も高価な「盗品」を抱えて。


「帰ろうか、セラフィナ。俺たちの『愛の巣』へ」


これが、世界を滅ぼす最悪の純愛の始まりだった。

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