ダンスホール
@njdmwj
第1章
ダンスホールの夜は、いつも同じ匂いがした。
湿った木の匂いと汗の混じった甘さ、古い塗料の刺すような香りが鼻の奥をくすぐる。踏みしめる床からも古い染みの匂いが立ち上り、呼吸するたび胸の奥がざわつく。音楽の低音が体の芯まで響き、靴の軋み、足音、叫び声、笑い声が渦を巻く。人々は互いの影を重ね、息を吸うたびに空気は重くなる。
三上は壁際に立ち、群衆を見渡していた。
赤と青の照明が交互に点滅するたび、影は揺れ、人々の輪郭は溶ける。手の動き、肩の揺れ、髪の光の反射——すべてを、彼は逃さず見ていた。
彼女は少し遅れて現れた。髪を束ね、友人の肩を軽く叩きながら笑う。音に溶け込む彼女を、三上はただ見つめる。声はかけない。近づかなくても、心はすでにそこにあった。
低音が脳を震わせ、胸の奥のざわめきは鋭くなる。
誰かが先に触れた——その思いが冷たい熱となって膨らむ。
子供の頃、彼は孤独だった。
誰とも触れ合えず、誰も自分を見てくれなかった。
物陰から見つめることしかできない日々。
その記憶は、今夜も胸の奥でざわめき、冷たく脈打つ熱に変わる。
照明が強くなり、赤と青が混ざる瞬間、彼女は群衆に溶けた。
三上の視線だけが残り、じっと追い続ける。
目が合わなかったのは、タイミングのせい——そう、彼は思い込む。
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