第5話 曇天:re―燃えるレスト・イン・ピース
火は、思っていたよりも控えめだった。
旧レストエリアは、高架の影に沈んでいる。
看板の文字は剥げ、ベンチは雨を吸って黒ずんでいた。かつて人が集まっていた痕跡だけが、形式的に残っている。
ライデンはバイクを停めた。
エンジンを切ると、遠くで車が走る音だけが続く。世界は、もう通常運転に戻っている。
少し離れた場所で、ヴェノムのバイクの残骸が燃えていた。
炎は大きくならない。ただ、確実に形を変えていく。
左腕のケースを開き、高周波ブレードを取り出す。
刃は冷え、何も語らない。
通信が入った。
『……終わったのね』
ユナの声。
「終わった」
それ以上の説明は要らなかった。
『回収は——』
「いらない」
短く言って、回線を切る。
ライデンは、レストエリアの中央に歩く。
コンクリートの上に、小さな布切れを置く。
マリーダのジャケット。袖口が、少し擦り切れている。
火を点ける。
布はすぐには燃えなかった。
一度、煙を吐き、迷うように縮む。
それから、ようやく炎が立ち上がった。
ぱち、という音。
それだけだった。
風が吹き、火の形が揺れる。
一瞬、誰かが立っているように見えたが、すぐに崩れた。
「寒いな」
独り言だった。
答えは、もちろん返ってこない。
炎は次第に小さくなり、赤い芯だけが残る。
それも、やがて消える。
曇天は、まだ空に残っている。
だが、重さはない。
ライデンはバイクに戻る。
ヘルメットを被り、エンジンをかける前に、一度だけ振り返った。
何も残っていない。
「じゃあな、マリーダ…」
言葉は、意味よりも先に出た。
次の瞬間、エンジン音が静寂を切り裂く。
バイクは走り出し、ハイウェイへ向かう。
雲の切れ間から、細い光が落ちた。
曇天は、確実に薄くなっていた。
ブレード・ライデン・ハイウェイ zakuro @zakuro_1230
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