ブレード・ライデン・ハイウェイ
zakuro
第1話 2300―ハイウェイでの邂逅
その夜、ハイウェイは静かに光っていた。
まるで巨大な生き物が、眠りながら規則正しく呼吸しているみたいに。
ライデン・ヒガシカタはバイクを走らせながら、その光を見下ろしていた。路面に埋め込まれた発光ラインが、青白く脈打つたび、タイヤ越しに微かな振動が伝わってくる。電流。ここではそれが風や重力と同じくらい自然なものだった。
速度計はすでに意味を失っている。
この道路では、速さは数字では測れない。
左腕のケースが、かすかに熱を持った。高周波ブレードが待機状態に入った合図だ。ライデンはそれを確かめるように、指先で軽く叩く。金属は何も答えなかった。
前方に、赤い尾灯が見えた。
三つ。等間隔。無駄に目立つ。
「やっぱり、いるか」
声に出したが、誰にも届かない。
このハイウェイでは、言葉はいつも途中で霧散する。
自動運転車の列を抜け、彼は車線を変えた。発光ラインを踏んだ瞬間、バイクが一段階だけ速くなる。設計通りだ。世界は、そういうふうにできている。
近づくにつれて、背中の紋章が見えた。
蛇。口を開いた毒蛇。
ヴェノム。
その名前を、ライデンはもう何度も頭の中で繰り返してきた。繰り返すたびに意味は薄れ、音だけが残る。毒、という単語がそうであるように。
空で雷が鳴った。
低く、長く。
ハイウェイ全体が一瞬だけ明るくなり、次の瞬間、また元の青白さに戻る。その切り替わりが、なぜか正確すぎて、彼は少しだけ違和感を覚えた。
ヴェノムのバイクが、わずかに速度を落とした。
誘っているのか、確認しているのかは分からない。
ライデンはブレーキを使わず、距離を詰める。
風がヘルメットの内側で形を変える。
通信が割り込んだ。
『無茶はやめて』
ユナの声だった。感情を抑えた、ほとんど報告みたいな調子。
「無茶の定義は?」
『生きて帰れない可能性が上がる行為』
「じゃあ、もう超えてる」
短く返して、回線を切る。
ヴェノムがこちらを見た。
視線だけで分かる。そういう距離だ。
左腕のケースが開き、ブレードが展開する。高周波が空気を震わせ、刃の輪郭が少しだけ揺らいだ。それは現実と現実でないものの境界みたいに見えた。
雷が、今度は近くに落ちた。
その瞬間、ライデンは思った。
この道は、どこにも続いていない。
ただ、走り続けるために存在しているだけだ。
彼はアクセルを回し切った。
邂逅は、音もなく始まった。
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