元魔法少女(現在、男子高校生含む)ですが、再結成にあたり時給制と労働契約書の締結を要求します

とんこつ

第1話 魔法少女への招待状は往復ハガキでやってくる~

「最近、物騒だよねぇ」


 リビングのテレビから流れるニュースを見ながら、母さんがパンにジャムを塗っていた。

 画面には、都心のビルに空いた巨大な風穴が映し出されている。キャスターは「ガス爆発の可能性」なんて言っているけれど、どう見ても何かに齧り取られたような跡だった。


「そうだね。通り魔とかも多いし」


 私は他人事のように相槌を打ちながら、学校へ行く準備をする。

 私の名前は山田恵子。高校一年生。

 特技は柔道。趣味は節約。

 この異常な事件の多発が、まさか自分の生活に関わってくるなんて、この時はこれっぽっちも思っていなかった。


 ……あの日、ポストにあの『ハガキ』が入っているのを見るまでは。



 ***


 学校から帰宅し、郵便受けを覗くと、見慣れない緑色のハガキが入っていた。

 ダイレクトメールかと思って捨てようとして、手が止まる。


 ――『往復ハガキ』だ。


 令和のこの時代に。しかも、同窓会のお知らせですらない。

 差出人の欄には、下手くそな筆ペンでこう書かれていた。


『喫茶デッドオアアライブ 店主・高橋修』


「……は?」


 聞いたことのない店名だ。怪しい。新手の詐欺だろうか。

 だが、裏面の通信欄を見た瞬間、私の記憶の底にあったパンドラの箱が、ギギギ……と音を立てて開いた。


『拝啓、元・星の守り手たちへ。

 地球がピンチです。至急、集合願います。

 日時:〇月×日 午後四時

 場所:駅前商店街裏 喫茶デッドオアアライブ

 ※返信不要。来ないと地球が滅びます』


 星の守り手。

 その痛々しい単語に、私は頭を抱えた。

 小学生の頃、確かに私はやっていたのだ。フリフリの衣装を着て、謎のステッキを振り回す「魔法少女」というやつを。


「……行くしかない、のかなぁ」


 地球が滅びるのは困る。

 それに何より、当時の活動には「お小遣い」が出ていた。

 今の私に必要なのは、世界平和よりもボロボロになった柔道着の買い替え費用だ。


 ***


 指定された喫茶店は、シャッター商店街の路地裏にあった。


 『デッドオアアライブ』。


 看板のネオンが「デッド」の部分だけ消えかかっているのが不吉すぎる。

 カランコロン、とレトロなベルを鳴らして店に入ると、そこにはすでに先客がいた。


「うィーっす。恵子、遅いじゃん」

「……お久しぶりです」


 一番奥のボックス席。

 派手なギャルと、白衣を着てうつむく少女。

 見覚えがある。


「えっ、もしかして……恵美ちゃん? それに、真由美ちゃん?」

「正解〜! やっぱ恵子、地味なとこ全然変わってないね〜ウケる」


 金髪をいじりながら笑うのは、木村恵美。昔はあんなに純朴なツインテールだったのに、完全なギャルに進化している。 


「……こんにちは」


 蚊の鳴くような声で挨拶したのは、佐藤真由美。ダブダブの白衣に三つ編み眼鏡。こっちは昔から根暗だったけど、さらに拍車がかかっている気がする。目の前には科学や物理の本、毒や爆発物の歴史…と、見なかった事にしたい本が山積みで、何やらぶつぶつと呟きながら持参したであろう怪しい色をした小瓶をカチャカチャと組み合わせて何やらノートに書き込んでいる。

 この子は昔から暇があれば何か実験!とか言って煙をモクモクさせてたなぁ。変わらない。


 懐かしい。まるで同窓会だ。


 魔法少女時代、私たちは五人でチームを組んでいた。

 私、恵美、真由美。あと二人は……。


「お待たせ〜」


 店員が水を運んできた……と思ったら、その店員らしき大男が、ドスンと私たちのテーブルに座った。

 身長は180センチを超えているだろうか。プロレスラーのような体格に、黒縁メガネ。スーツを着せたら用心棒にしか見えない。


「え、あの、相席ですか?」


 私が尋ねると、大男はきょとんとして、野太い声で言った。


「何言ってるんだ、恵子ちゃん。僕だよ、真琴だよ」

「……はい?」


 マコト。

 その名前に、私の脳内データベースが検索をかける。

 鈴木真琴ちゃん。ショートカットで、背が高くて、いつもニコニコしていた優しい……。


「マコトちゃん……?」

「うん」

「……男だったの!?」


 店中に響く声で叫んでしまった。

 だって、魔法少女だぞ!? スカート履いてたぞ!?


「あー、そういえば恵子ちゃんには言ってなかったっけ。当時は小学生だったし声変わりもしてなかったから、恵子ちゃんだけアタシ達女の子と勘違いしてたよねー」


 隣から、呆れたような声が割り込む。

 見ると、もう一人、茶髪ロングの綺麗な子が座っていた。モデルのように整った顔立ち。

 ああ、この子は知ってる。伊藤絵理於ちゃんだ。昔から可愛くて、一番の魔法少女らしかった……。


「ていうかアタシも男なんだけど。恵子ちゃん、マジで気づいてなかったの? 鈍感すぎない?」

「……は?」


 絵理於ちゃんから発せられたのは、男の声……いや、オネェ言葉だった。

 よく見れば、華奢だけど喉仏がある。


「う、うそ……」


 私は目眩がした。


 五年ぶりの再結成。 


 集まった元・魔法少女チームの内訳は以下の通り。


 ギャル、根暗マッドサイエンティスト、用心棒のような大男、オネェ。

 そして、柔道着を持参した私。


「……帰っていいかな」 


 私の呟きは、店の奥から響いてきた「フォッフォッフォ、久しぶりだねキミたち!」という、スピーカー越しの能天気な声にかき消された。

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