ステータス観測者(オブザーバー)、余命168時間の少女を救うまで~他人の心が見える少年と冷徹な弁護士が、歪んだ善意に殺される少女を救う異能サスペンス~
千夜もぐり
第1話 この力は、ギフトか、それともバグか
その朝、空森 湊(そらもり みなと)の視界は、いつもと同じ薄灰色(ライトグレー)の無機質な自室の天井を映しているはずだった。
しかし、まどろみの中で視線を動かした瞬間、視界の端に半透明の青白いプレートが浮かび上がった。
【種別:犬(柴犬)】
【名前:茶々丸】
【年齢:5歳】
【性別:オス】
「……なんだ、これ」
枕元でしっぽを振っている愛犬、茶々丸の上にその文字列は浮かんでいた。湊は何度も目をこすったが、文字列は消えるどころか、茶々丸の動きに合わせて滑らかに追従してくる。
寝ぼけているのか。あるいは、ついに脳の病気でも患ったのか。
不安に駆られながら、洗面台で顔を洗い目を覚ます。そしてもう一度、茶々丸を見る。
【種別:犬(柴犬)】
【名前:茶々丸】
【年齢:5歳】
【性別:オス】
それだけだ。あまりにも簡素で、無機質な情報。
だが、その日を境に湊の世界は一変した。
通学路に出ると、視界は情報の洪水だった。
すれ違うサラリーマン、自転車を漕ぐ主婦、散歩中の老人。
【名前:佐藤 健二 年齢:42歳 性別:男】
【名前:鈴木 恵子 年齢:35歳 性別:女】
「……まるで、RPGの世界だな」
電車に揺られながら、湊は自嘲気味に呟いた。
この力に何の意味があるのかは分からない。ただ一つ言えるのは、他人のプライバシーを一方的に覗き見ているような、奇妙な優越感と後ろめたさだけだった。
私立叡華高等学校の門をくぐる頃には、湊はこの視覚のバグを日常の一部として受け入れ始めていた。季節は4月。桜の季節も終わり、2年になった湊も新しい環境に慣れてきた。慣れたといっても、教室の場所が変わった程度の変化だが。
ガラリと扉を開けて2年B組の教室に入り、クラスメイトたちを見渡す。20人以上の同時に現れるステータス、情報の洪水。
(どいつもこいつも、名前と高校2年生。知ってるっつーの。鬱陶しい……)
視界が名前と数字で埋め尽くされ、クラスメイトの顔さえ満足に見えない。人の顔が情報に記号に変わっていくような感覚に、僕は軽い眩暈を覚えた。
「よお、湊。おはよ」
声をかけてきた友人の頭上にもプレートが出る。青白いプレートがチカチカと点滅し、見慣れない項目が下へ伸びた。
【名前:伊藤 拓海】
【年齢:16歳】
【職業:高校2年生/帰宅部】
【知力:35 筋力:62 魅力:50】
今朝は名前と年齢だけだったはずの情報が、ステータスを覗き見る度に少しずつ詳細を増し始めていた。
「なんだよ、湊。朝から、そんなに熱い視線を向けるなよ。照れるぜ」
(拓海って……知力、低いんだな……)
使い続けるうちに、能力が馴染んでいく感覚がある。
湊は、まるで新しいゲームを手に入れた子供のように、無意識に周囲の人間を観測し続けていた。この力が、自分の何も無い日常を少しだけ埋めてくれるような気がしたからだ。
しかし、この時の湊はまだ知らなかった。
この視るだけの力が、やがて他人の悪意に自分自身を浸し、取り返しのつかない運命へと自分を誘うことになるなどとは。
設定紹介
私立叡華高等学校・・・叡川市にある空森湊が通う進学校
叡川市・・・都心から電車で30分ほどのベッドタウン。再開発された駅前と、古びた住宅街が混在する。
伊藤 拓海・・・空森湊の友人。高校1年の間、青春を謳歌した結果、知力が下がった。
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