ニカの手も借りたい(※やらしい意味ではない)

真野魚尾

朝チュンなんてアニメの中だけの出来事かと思ってたんだ今日までは。

〈前編〉

 私は焦っていた。


 WEB小説のコンテスト締め切りまであと一日。

 参加中の長編もようやく軌道に乗ってきたはいいけれど、規定まで二万文字も足りない。


 プロットはとっくに出来上がってるんだ。何としてでも書き切りたい。



  *



 そんな週末。一人暮らしのアパートで缶詰めになっていた私の所へ、騒がしい彼女がやって来た。


「あ、ニカ。いらっしゃい」


 ちっちゃくて可愛くて、女の子らしい体型をガーリーな服装で着飾った、私とは何もかも正反対な大学の後輩。


「ちわ~っす。めぐ先輩ったら相変わらずダメダメみたいですね~」


 ニカは挨拶もそこそこに、床に散乱した私の脱ぎ跡を物色し始めていた。

 そう、私は片付けられないズボラ女なのだ。実に面目ない。


「ふむふむ……香ばしさの中に漂うほのかな酸味……」

「食レポやめてぇ~」


 私の抗議をよそに、ニカは服を拾い上げては鼻に近づける。


「こっちは鯖サンドのにほいが……」

「もういいから……ってか、それ洗濯済みだし!」

「え~っ!? ダメですよ! ちゃんとつけ置き洗いしましょ! コレとコレとコレ、あたしが全部預かりますからね!」


 ニカは問答無用で私の服をかき集めながら、


「あたしがお手伝いしてる間、先輩は執筆に集中してください!」


 と、釘を刺すことも忘れなかった。




「大漁ですよ~、せんぱぁ~い」


 カゴいっぱいの洗濯物を抱えたニカが、私の横を通ってベランダへと向かう。


「ニカって意外と力持ちだよね」

「ノンノン。これは力ではないのです。物理学なのです!」

「……どゆこと?」


 呆気に取られる私に、ニカは自慢げに説明を始めた。


「持ち運ぶ物の重心を自分の重心と同じ高さに持ってくるんです。二点間の距離は近ければ近いほどベターですね~」

「あー、うん……なるほどね……」


 私の生返事は即刻ニカのパッシブスキルの餌食となる。


「文系の先輩にはちょぉ~っと難しかったっすかね~」

「あなたも文系でしょ! 同じ学科なんだし!」


 ニカとおしゃべりしてるうちに、私も頭の中がリフレッシュされた気がする。

 キーボードを叩く指が軽い。きっと私の視界の隅でニカがせわしなく動き回ってくれているせいだ。


 ありがとね、ニカ。


 なぜだろう。その時私の頭の中では、弾けもしないピアノに合わせて軽やかに踊るニカの映像が浮かんでいた。

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