定時なので魔王を狙撃して帰ります

puraneto

ダンジョン最深部で有給申請をしたら、魔王が空気を読まずに変身を始めた件

  ……斎藤、お前。こんなとこで有給の申請を出すなと言っただろう。

「すいません班長。でも今のうちに送っておかないと、戻る頃には中隊長が帰宅しちゃうんで」

最果ての魔宮。

世界を滅ぼすと言われる「終焉の祭壇」の前で、俺ーーー斎藤三等陸曹は、隊のネットワーク端末と格闘していた。

背後では、勇者が魔王の放つ黒い霧に巻かれ、ああ……もう終わりだ……

と膝をついているが、俺には、関係ない。

来週、実家の妹の結婚式がある。

これだけは、魔王が世界を滅ぼそうが譲れないのだ。

「フハハハハハ!命乞いの時間は終わりだ!貴様らの魂をこの闇の糧として……」

【あ、すいません魔王さん。ちょっと静かに。今、通信中なんで】

俺は魔王に向け、人差し指を立てて「静かに」のジェスチャーをした。

魔王の顔が、怒りで真っ赤に染まる。

「……何だと?貴様、この我を……「静かに」だと……?」

【電波が悪いんですよ、このダンジョン。あ、班長。承認ありがとうございます。よし、これで俺の連休は確定だ」

俺はタブレットを丁寧にバックに仕舞うと、傍らに据え付けられた鉄塊

「12.7mm重機関銃M2」のボルトを勢いよく引いた。

ガシャリ、と冷たく、重い音が祭壇に響き渡る。

【……さて。休みを邪魔されないために、さっさと「掃除」を終わらせましょうか」

フハハハハハ!

見るがいい、これぞ我が真の姿!

この世の全てを飲み込む、終焉の巨神なり!

魔王が叫ぶとともに、周囲のガレキが集まり全高十メートルを超える禍々しいゴーレムへと姿を変えた。

その圧倒的な質量感に、生き残っていた勇者たちが「もうダメだ……」と腰を抜かす。

だが、俺の怒りは頂点に達していた。

「……おい、魔王。あんた、今自分が何をしたか分かってるのか?」

「……ぬ?」

俺は震える手で、タブレットの画面を魔王に向けた。

電波だよ!あんたがそんなデカい岩の塊を呼び出したせいで、せっかく通った「有給申請」の受領確認メールが、受信エラーで止まってるんだよ!

「そんな……知るかぁッ!」

魔王がゴーレムの巨大な拳を振り下ろす。

だが、その拳が届くより早く、俺は「12.7mm重機関銃M2]の引き金(サムトリガー)を親指で押し込んだ。

ドガガガガガガガガッ!

空気を切り裂く、暴力的な連続音。

魔法の杖から放たれる光線とは違う、物理的なエネルギーの塊。

親指ほどの巨大な弾丸が、一秒間に十発以上の速度でゴーレムの胸部へと吸い込まていく。

「なっ!?我がゴーレムの装甲は、オリハルコンを凌ぐ強度だぞ!なぜ削れる!なぜ砕ける!」

【オリハルコンだか何だか知らねえががな、こっちは「面」じゃなくて「点」で叩き続けてんだよ!」

重機関銃の弾道は一点に集中し、ゴーレムの硬質な岩肌を彫刻刀で削るように抉り取っていく。

砕け散る破片が魔王の頬をかすめた。

俺はさらに銃座を回し、弾倉(アモベルト)が空になるまで撃ち続けた。

【妹の結婚式に、泥の付いた制服で行けるわけねえだろ!これ以上俺の私生活(聖域)を汚すなら、ダンジョンごと更地にしてやる!」

最後の一発がゴーレムの「核」を貫通し、巨大な岩塊が無残に崩れ落ちた

砂煙の中から現れたのは、もはや戦意を失いガタガタと震える魔王の姿だった。

「ひ、ひぃ……あ、悪かった。有給、有給なんだな?邪魔はしない、だからその鉄の筒を向けないでくれ……」

【わかればいいんですよ。あ、電波戻った】

ピコン、と軽快な通知音が響く。

画面には「有給休暇;承認済み」の文字。

俺は満足げに頷くと、呆然としている勇者の肩を叩いた。

【じゃ、そういうことなんで、あとの掃除よろしく。俺、明日から休暇なんで」

駐屯地へと戻る高機動車の窓から、俺は遠ざかるダンジョンを眺めた。

世界を救うのは、公務員の立派な仕事だ。

だが、その仕事を完璧にこなすのは、いつだって【最高の休日】が待っているからなのだ。


           完


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