もう一度、愛した理由。 - あなたを忘れるために -

chi.

【第1話】もう一度、愛した理由。

——誰かが言っていた。



忘れられない恋は、

未完成のまま終わったから。



思い出にできた恋は、

最後まで向き合えたから。




私には、ずっと心に残っている恋がある。



———。




十三年ぶりに再会したあなたは、


記憶の中にいた頃のまま、変わらない面影で笑っていた。



大好きだったその声が、私を包み込み、



あの頃と同じように、

心地のいい時間が、静かに、優しく流れていく。




あなたと離れてからの日々を、

私はどう過ごしていたのだろう。



ただ、時の流れに身を任せ、

そのとき、そのときを生きてきたと思う。



側から見れば、

きっと順風満帆な人生に見えるだろう。



守るものも、

守られている場所も、

ちゃんと手に入れて。




でも、たったひとつ。


私の心の奥で、ずっと消えなかったものがある。



——私の心の片隅には、いつもあなたがいた。



ふとした瞬間に、

あなたを思い出しては、切ない夜を、何度も過ごした。




親友に「連絡してみれば?」と背中を押されても、


逃げ続けたのは、きっとあの気持ちに向き合うのが怖かったから。



どうしようもなく臆病な私は、


「どこかで幸せに過ごしていてほしい」と願い、



この想いを、

大切な思い出とともに心の奥にしまい込んでいた。




そして、気づけば十三年が経っていた。




こんなに月日が経ったのに。



あなたからの連絡ひとつで、

私の日々が大きく変わっていった。



懐かしいあなたの声、新たに交わす言葉たちは

私の心を強く刺激していく。



そして、あなたを目の前にした、その瞬間。



心の奥底に沈めていたはずの想いは、

私の願いをあざ笑うかのように、静かに息を吹き返した。



この恋は、何ひとつ終わっていなかった。



もう一度、あなたを愛さずにはいられなかった。



たとえ、消えない罪を背負うことになったとしても。



——今度こそ、あなたを。




忘れるために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る