第6話 男飼 5


 そして秋祭りが始まった。姉さん達が汗を流してこしらえた神輿が繰り出される。

 祭囃子の中、神社から大勢の姉さん達に担がれた金色の神輿は、華やかな出店の間を賑やかに通りすぎる。

  

 出店の前では子供達が飴玉をしゃぶりながら、その勇ましい光景に目と口を丸くして喜んでいる。


「お嬢ちゃん、りんご飴要らないかい、ただでいいよ。これ、きれいにできなかったから」

 店に背中を向けて立って、神輿を見物していた私の後ろで、ほんの少し型崩れしたりんご飴を差し出しながら、はっぴを着た的屋のおばさんが笑いかける。


 私は、甘いの苦手だからと嘘の返事で断って、神社の方に歩いた。

 神輿は一旦神社から下りて、村長の家にいき、村長を乗せて再び神社に帰ってくるのだ。


 秋晴れの太陽がまぶしい。昨日のことが夢か幻のようだ。 

 あまりに現実離れしてるから、遠い過去に起こった不確かな記憶みたい。


 だけど、私の脳の中にはゆかり姉さんがしっかり存在する。

 話さえできそうなくらいだ。実際はそんな事できるはずも無いけど……。


 あのりんご飴はもらってはいけないと、その記憶の中のゆかり姉さんが教えてくれたのだ。

 食べたら眠くなる。そして気づいたときはすべてが終わる時だと。

 ゆかり姉さんからもらったデータは断片的なイメージだったから、男飼を始めとしたこの世界の仕組みがすべてわかったわけじゃない。


 もっとも、ゆかり姉さんがすべてを知ってたはずも無いから、データが完全でもそれは同じことだろう。

 とにかく、今からわかった事を検証していかないといけないのだ。


 いったい男飼はなんなのか。

 的屋のおばさん達はなんなのか。

 愛すべきオトコ達は何処に消えていったのか。


 つい先週まで、そんな事は私とはなんの関係もないことだった。

 でも、ゆかり姉さんのデータが私に中に組みこまれた今は、それを調べて村のみんなに知らせる事が、私の使命のような気にがしていた。


 他の誰かがすればいい、どうして私が?という気も少しはするけど、ゆかり姉さんの悔しさを直接受け取ったのは私なのだから、これは私の仕事なのだ。



「ミチル、探したわよ。昨日はさっさと帰っちゃって、ずるいよ」

 亜由美が私を見つけて走り寄ってきた。あまり一緒にいると的屋の攻撃のとばっちりを受けてしまうかもしれないから、本当は亜由美や他の友達とは離れていたかった。


「急にお腹が痛くなっちゃったんだよ。ごめん」

 大げさに両手を合わせて亜由美に謝った。


「なら許してあげようかな。でも、たこ焼き一皿食べたいな」

 右奥にある屋台から香ばしい匂いが漂ってくる。亜由美はそっちに歩いていく。


「ちょっと待って、今手持ちが無いんだよ。後からもっと良いのおごるから」


「私は今お腹が減ってるの。別におごってくれなくても良いわよ。自分で買うから」

 冷や汗が背中を伝うのが気持ち悪い。まさかとは思うけど……。


「それよりさ、男飼、今日いってみた?」

 食欲に勝てるかわからないけど、亜由美の一番の興味の対象を持ち出してみた。

 亜由美が足を止める。


 でも駄目だった。亜由美は、行ってないよ、今日は中を見せてくれるはず無いからねと言って、振り向きもせずにたこ焼きの屋台に向かう。

 追わない方がいい。あまり親しくしてると亜由美が狙われる可能性が高くなる。

 でも、心配で立ち去る事は出来なかった。


「おばさん、たこ焼きひとつちょうだい。ミチルちゃんにはあげないんだから」

 後の方は振り向いて言った。


 その言葉が亜由美を救うことになったなんて、亜由美は気付きもしないで私に舌を出して見せた。

 的屋のおばさんは、赤い血走った目の顔に似合わない笑いを張りつかせて、あっちのお嬢ちゃんにもあげたら?と言いながら少し多めに包もうとした。


 これ以上構っていたら本格的にやばくなりそうだったので、私はわざと憎まれ口を残して駆け出した。

 神社の社殿では村長のあいさつがもうすぐ始まるはずだ。

 とにかくそれを聞かないと。


 さっき通った勇壮な神輿に、すぐに村長が乗せられて帰ってくる。

 そして神輿は、神社の階段をえっさほっさとクヌギの木を這い登るカブトムシみたいにゆっくり上がってくるのだ。


 300段ある急な階段を上って、神社の祭られてる久里山山頂についた。

 まっすぐ行けば神社にたどり着く道を、右へ反れて木で組んで造られた展望台にやってきた。

 男飼の敷地が真下に見下ろせた。まだ余り人出は無さそうだ。


 男飼デビューは午後の行事だから、今来てる客はよっぽどこの一年男飼を待ち望んでいた姉さん達なんだろう。


 

 そんな事をしてるうちに、神輿が登ってくる音が聞こえてきた。

 ひと時の安らぎは終わりだ。これから戦いが始まるんだ。

 ゆかり姉さんの思いと、この村の姉さん達の未来のための戦いなのだ。

 

 社殿には台が置かれ、そこには村長が鎮座していた。

 それを取り囲むように村の人達が大勢集まって村長の祭り始めのあいさつを待っている。

 台の上で村長がゆるく光りだした。


 丸い滑らかな球体が、始めは水色に、次第にその青を深めていく。

 村長は人間ではない。直径30センチくらいの球体なのだった。

 どういう仕掛け(こんな事を口走ったら不敬罪でお仕置きだろうな)か知らないけど、それが浮いたり色が変わったり、話をしたりするのだ。


 超能力を閉じ込めた塊というのが通説だった。

 周囲の村人達の期待感が手に取るようにはっきり感じられる。村長は毎年ここで今年の成果と来年の予測を語るのだった。


『村の者達、今年も一年ご苦労様でした』

 村長の声は音ではない。直接みんなの頭の中に話しかけられる。


『収穫は去年の95%です。少し落ちましたが、夏に来た台風を考えると、それでも十分です。隣村との交易も順調。人口は27人増えて4人減りました。亡くなった方のご家族には御悔やみ申し上げます。また、今年の男飼デビューは15名でしたが、一名行方不明のため現在捜索中です。今日はその者以外の14名のデビューとなります。では、皆さん秋祭りを存分に楽しんでください』

 

 村長の挨拶が終わると、その横に置かれた樽酒が姉さんたちの木槌で威勢良く空けられた。

 振舞い酒を貰おうと姉さんたちが列を作る。


 12歳以上の子供たちは一杯だけなら飲んでいいことになっていたが、なれないお酒を飲みたがる子は少なくて、無理やり引っ張られてきた子以外はすぐに買い食いしに石段を駆け下りていく。

 私はその列を尻目に、村長の前まで歩いた。


 村長はゆかり姉さんの事をまだ知らないんだろうか。

 的屋の集団に拉致されたことを。そして死んでしまったことを。


 てっきり何か事件のニュースが聞けると思っていたのに、肩透かしを食らってしまった。

 振舞い酒の列とは別に、村長の前にも数人が並んでいる。

 村長に相談事を持ちかけてる人の列だ。

 いつもは忙しい村長だから、どんな相談にも気軽に答えてもらえるのは祭りの日だけなのだ。


「弓の糸が切れやすいんですが、もっといい素材は無いでしょうか」

 私の前で筋骨たくましいユリエ姉さんが村長の前にひざまずいて聞いた。


『オーラ川の上流に湯気を立てて湧き出る鉱泉がある。その湯を組んできて、塩を一握り加えたものに糸を一晩浸しておきなさい。今の2倍は強くなる』

 淀みなく答える村長の思考が周囲に浸透する。


 ありがとうございましたとユリエ姉さんが一礼して立ち去った後は、村長の前には私だけになった。


 私の後ろには誰もいない。数メートル横で振舞い酒の列がにぎやかにしているのに、私の周りには冷たくて静かな空気が周囲の熱気を遮断してるみたいだった。


「私たちは生物兵器なのですか?」

 私は村長の前に立ったまま聞いた。村長の澄んだ水色が微妙に変化した。


『どこからその言葉を知った?』

 普通は村長は聞き返さない。一問一答で終わりなのだけど、今回は聞き返してきた。当然のことだと思った。


「オトコはどこに行ってしまったんですか」

 村長の質問に答えずに二つ目の質問をする。


『オトコはどこにも行ってはいない』

 その答えを聞いて、私はきびすを返した。


 村長から答えを教えてもらうというのは、所詮虫のいい話だと思うから。

 村長はこの村を運営している主体のはずだから、私の聞きたいことを教えることができないのだ。


 村長から離れる私の横に、おそろいの青いはっぴを着て鉢巻を巻いた的屋のおばさんが両脇から一人ずつ寄ってきた。

 目の中の邪悪な光を隠しもしない。私を睨みつけて小声で言った。


「あんたのお母さん、預かってるよ。黙ってついてきな」

 金槌で頭を殴られてみたいにガツンと来た。


 年老いた母を、こいつらは連れ去ったのだろうか。

 縛られて引っ立てられる母の姿が脳裏に浮かんだ。


 いつもなら人目があるからそんなことはできないだろう。

 でも今日は祭りだ。私の家の周りには誰も居なくなってる。

 そんなことに思い至らなかったなんて。下唇がずきんと痛んだけど、顎の力を緩めることができなかった。


 母の事、そしてジロのことが頭の中で繰り返し不吉なシーンとなって現れる。

 母が拉致されたとしたら、ジロは?もしかして殺されたかもしれない。


 どうしてこんなことになってしまったんだろうか。今まで何の問題もなく続いていた人生なのに。

 ゆかり姉さんが少し恨めしかった。

 死んでしまったのは可哀想だけど。


 そんな思いが生まれると、すぐに心の別のところがちくりと痛んだ。

 ごめんなさいと謝る別の人格が、密やかに立ち上がるのを感じた。


 二人に脇を固められて着いたところは、男飼の敷地だった。

 促されて入ったそこは、頬を火照らせた姉さんたちでにぎやかだった。


「男飼デビューの行列だよ」

 遠くから静静と人の列がやってくるのが見えた。


 おまえはこっちだと言われて、私は奥の倉庫に向かった。

 てっきり倉庫に入るのだと思っていたら、そうではなかった。

 倉庫の裏側の地面にスライドする扉があって、そこから地下に押しこまれた。

 こんな地下室があるなんて初めて知った。


「ちょっと、母さんに会わせてよ。もし無事じゃなかったら怒るわよ」

 地下へ向かう階段で私の声がむなしく反響していた。

 

 その後、モニター上で男飼デビューの凄惨な光景を見せられたのだった。

「どうだい、男飼デビューを誤解していたんだろ。男飼はたしかに性交渉をする場だけどね、デビュー戦はちょっと違うのさ」

 モニターの中では儀式が続いている。それを遮るように的屋が立って、膝まづかされた私を見下ろした。


 その的屋の顔がゆっくり変化してまるで昆虫のような複眼を備えた顔に変わる。

 脇の下から黒い二本の腕が伸びて、私に掴み掛かってきた。


 抵抗したらお前の母親は八つ裂きだぞ、と言って私の服を引き裂き始めた。

 5センチもある尖ったカブトムシの爪がきりきりと動いて、私の服の生地は切り裂かれ肌が露出していく。


 笑う的屋は歯のない口を薄く開いて涎をたらし始めた。

 力を使えばこの昆虫を燃やしてしまうこともできる。


 でもそれをすれば母さんの命はない。

 私の中のゆかり姉さんもどうしていいかわからないのだろう、沈黙を守ったままだ。


 このままでは私は力を使ってしまうだろう。

 最後の最後で、使わずにはおれないだろう。

 それで母さんが死ぬことになっても。

 じわじわと切り裂かれ剥ぎ取られる布切れ。とうとう全裸にされてしまった。

 

「さてと、おまえの身体を味見してやろう。そこに寝転んで足を開け」

 そういう昆虫の股にはそれまでなかった物が太く屹立していた。

 先端を濡れ光らせながら30センチくらいある黒い棒がじわじわ近づいてきた。


「待ってください、サンドラ様、村長の使いが視察にきてます。その者のことは後回しにしてこちらへ……」

 昆虫の後ろから声が聞こえた。

 若くて長い髪の女がいた。その女はまだ人間の姿をしていた。

 

 てっきり母さんと会えると思ったのに、奥の檻にはオン以外誰も捕らえられてはいなかった。

 ひょっとしたら騙されたのかもしれない。


 あそこでああ言えば着いてこない訳にはいかなくなる。

 そう考えただけなのかも。

 だとしたらいいんだけど。


 ごそごそ動く音がして、奥で横になっていたオンが起き上がってきた。

 檻の中だから逃げ場がない。襲いかかられたらちょっと痛い目を見させてやらないといけない。

 私は力を放出する心構えを整えた。


 肌の色の妙に白いオンだった 。 薄汚れてはいるけど、それほど毛深くもない。

 ひょっとしてゆかり姉さんの時みたいに、誰かが姿を変えられてるのか、とも思ったけど、そのオンの目をみたらそういう訳でもなさそうだった。


 軽く唸り声を上げた後、へるぷとか言葉をしゃべった。

 続けて話し出すけどオンの言葉はさっぱり理解不能だった。


 でも話ができるとしたら、知能が高い証拠だ。

 このオンは種類が違うのかもしれない。

 身構えていたけど襲いかかってくる気配はなかった。


 言葉が通じないとわかったのか、そのオンは今度は身振りで何かを伝えようとしてきた。

 自分を指して、ジャック、ジャックとつぶやいている。

 このオンの名前だろうか。私も同じように自分を指してミチルと言ってみた。


「ミ、チル」

 そのオンの口から私の名前が出てきた。


 こうなるとはっきりした。このオンは話ができるんだと。

 ただ言葉が違うのだ。違う言葉をしゃべる人が居るなんて考えたこともなかったけど、遠く離れた場所に暮らす人となら言葉が違っても不思議じゃない。


 いや、交流のない人同士では言葉が同じ必要がないということかな。

 ジャックが少しずつにじり寄ってきた。


 真っ裸で無防備な私は怖かったけど我慢した。

 ジャックが檻の扉を指して何か言った。よくわからないけどここから出たいってことだろうか。


 それはこっちも同じだよ。自分を指して次に外を指差した。

 そんなことをしてるとさっき出て行った的屋が戻ってきた。

 昆虫のように変身していたおばさんが、元の人間に戻っていた。サンドラ様って呼ばれていたな、確か。


 そして尋問が始まった。


「ゆかりに何を聞いた。どこまで知っている」

 檻の外に立ったサンドラは無感動な声で私を見下ろしていた。


「母さんに会わせてくれないと何もしゃべりません」


「話せば会わせてやる。話さなければここで死んでもらうぞ。母親共々な」

 やっぱりこっちが立場は弱いんだ。


 母さんが本当につかまってるかはわからないけど、いちかばちかで暴れるわけにもいかない。

 私は仕方なくこれまでのことを話して聞かせた。

 ただ、ゆかり姉さんのデータを私が受け取ったことは伏せておいた。


「それだけじゃないだろう。ゆかりは村長からあるデータを盗み出していた。そのデータがどこにあるか教えてほしいのだ。それが分かれば、おまえも母親も無事に帰してやる」

 やさしい声に切り替えてサンドラが言う。話の辻褄が合って少し安心したってこと?


「そんなこと知りません。ゆかり姉さんが村長のデータを盗んだなんて、初めて知りました」

 連絡のなかった数日の間にゆかり姉さんにいったい何があったんだろう。

 どうして村長のデータを盗む必要があったのか。


「言わなければ、言いたくなるようにしてやろう」

 サンドラの指示で奥に居た手下が毛布にくるまれた人を引きずってきた。

 母さん、思わず声がでた。

 母さんは私を見つけて、力なく微笑んだ。


「ミチル。大丈夫だったかい。母さんのことは……心配しないでいいよ」

 声に生気がない。うつろに響く。


「話さなければ、母親には死んでもらうぞ」

 サンドラの腕が伸び、爪がナイフみたいに飛び出してきた。

 その先端が、母さんの首筋に触れる。


「止めて。そんなことしたら、ここを火の海にしてやるから。みんな殺してやるから」


「ミチル、元気で居てね」

 母さんのしわがれ声。母さんは自分がここに居ることが私を苦しめてると悟って死を選んだのだ。


 止めて、母さん止めて。近くに寄りたいけど檻をあけることはどうしてもできない。

 しっかりした鍵がかかってるから無理なのだ。

 目の前で母さんの命の火が消えていくのがわかった。

 いくら超能力を持たなくなった大人とはいえ、自分で自分の心臓を止めるくらいのことはできるのだ。


 すうっと光が消えて、それまで生きていた身体がただの肉の塊になってしまう。

 しまった、逃げろという声はサンドラの声?


 私は何もわからなくなってしまう。怒りと悲しみが滝のように心から溢れ出して流れ落ちる。

 怒涛のような豪流に自分の身体の感覚さえなくなってしまう。いやだいやだいやだ。死んじゃいやだ。

 感情だけが先走る。どうにもならない。



『落ち着きなさい。もう大丈夫だ』

 キーンと耳鳴りがして、頭の中で声がした。


『ゆっくりと息を吐いて。そう。そうだ』

 村長の声だった。貝の中に閉じこもったような暗い闇の中で、その声はひとつの光の筋だった。


 その細いクモの糸のみたいな光に導かれて、私は心の深海からゆっくり浮上した。

 眼を開けて驚いた。鉄の檻がグニャリとゆがんでる。周囲の機械類はこなごなで床も壁もすすけていた。


 高温の炎が部屋中を焼いてしまったようだった。

 破裂した電灯の代わりに、あちらこちらでプラスティックの破片の燃える光が、うっすらと部屋を照らしてる。きつい匂いに胸が悪くなる。


 母さんはどうしたろう。そっちを見ると母さんは燃えていなかった。

 死んでいるけど、服も肉体もそのままだ。

 オンは?

 同じ檻に入れられていたオンは?


 良かった、生きていた。目を見開いて恐れおののいてるけど、火傷した様子もない。

 心の制御もできない状態だったのに、寸前のところで歯止めをかけたのは、多分私の中のゆかり姉さんだろう。

 

『ミチル、出てきなさい』

 村長は地上から私に呼びかけてるのだ。私は立ち上がって、ゆがんだ檻の隙間から出た。


 手振りでジャックにもついて来るように指示する。

 最初嫌がったジャックだけど、私が心の中を少し押してあげたら重い腰を持ち上げてくれた。


 何か身体を隠すものがほしかったけど、周り中焼け焦げてるのに着るものなんかなかった。

 母さんの衣類以外は。でもそれを剥ぎ取るほどには私の羞恥心は強くない。

 ジャックを連れて地下室から出てみると、辺りは来た時とまるで変わっていた。

 地震でも起きたみたいにプレハブ小屋は倒壊しているし、それより何倍も大きい倉庫も傾いていた。


 正面に4人の姉さんが村長の乗った神輿を担いで立っていた。

 これは私がやったことなんだろうか。疑問にすぐに村長が答えてくれた。


『心配することはない。怪我人は、軽い怪我をしたものが二人だけだ。誰か、着る物をミチルに与えなさい』

 村長の横に控えていた側近の姉さんが、私に薄い毛布を持ってきてくれた。

 もう一枚ください、と言うと怪訝な表情をしたけど、さらに一枚取り寄せてくれた。


「ジャックこれを着て」

 ジャックは私のまねをして、毛布で体を包んだ。

 周囲に遠巻きにして見守っている姉さんや友達たちがざわめく声が聞こえた。


 村中の人が集まってるみたいだった。亜由美の顔も奥の方に覗いてる。

 亜由美って大きな声で叫んだ私に、きょとんとした顔を向けてたけど、手招きしたらすぐに走ってきた。


「びっくりしちゃったよ。いったい何があったの」


「いいから、私の側にいて、フォローしてちょうだい」

 亜由美は不思議な顔をしながらも承知してくれた。


「ここからが大事なところなんだ」

 私は自分自身に言い聞かせるように言った。


 

『皆さん、落ち着いてください』

 村長の話が始まった。もちろん村人たちは全員その声に聞き入った。


『行方不明になっていたゆかりの消息が明らかになりました。この場所に的屋の組織によって拉致され、そして殺されていたのです。なぜ的屋がそれをしたのか、それはこれからの捜査で明らかにしなければなりませんが、彼らが皆死んでしまった以上、捜査は困難を極めると思われます。ここに居るミチルは、ゆかりと同じように拉致され、危ないところでした。ミチルは自分の力でこうして生き延びることができました。とにかくそれは良かった。

 秋祭りは今日で終わりです。男飼はまた来年来ますから、それまでしばらくお待ちください。今度は別の的屋に頼みますのでこのようなことは二度とおきないと村長として私が約束いたします』

 みんな死んだんだ。あの昆虫みたいな人たちは。


「的屋はどうなったの」

 亜由美に聞いてみた。


「私は最後の方しか見てないけど、村長の側近の姉さんたちが殺したみたい。弓で」

 私がやったのではなかったようだ。

 少しほっとした。でも的屋達の無残な最後には同情してしまう。


『それでは、皆さん。それぞれの持ち場にお帰りください。これで一件落着です』

 村長の穏やかな声が、みんなの頭の中に響いていた。


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