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「ありがとうウィル、君のお陰で一つ命をつなぐことができた」
「わかった、それはもういい。あんたたちはいいのか、なにか運ぶものがあったんじゃないのか」
「ああ。あんたたちがエコーを遠ざけられるからこそ依頼したい仕事がある」
エコー撃退から翌日。
ウィルはギークマンと共に、村の「岸」にいた。接岸している船に、エーテルスキャナを通して安全確認を行った物資を運び込んでいる。
現在、PR配送サービスを逆用した悪事が横行しているのだ。
「正規の配達かつ、人の未来を奪わないものならなんでも運ぶ」
ウィルがそう言うと、窓口の男は
「その真逆さ」
「ああ。つまり、精子と卵子の配達だね」ギークマンは言った。
「そうだ。血が濃くなりすぎるのは非常にまずいからね。本来ならそういうのは、人と人が接するべきなんだろうが……」
ウィルは昨日の親子を思った。
たしかに、本来家族とはああいうものだった。
「エコーは可能性を欲することが知られているだろう? つまり、子種や子供が狙われる。ゆえに、世界は閉ざさざるを得なくなった」
相手側の窓口は、昨日の一件もあって相互でゼロタイムの大規模容量通信が可能な「エーテル通信」越しではなく、対面で会話していた。
カフェオレ色の肌をした背の高い男である。
「俺は構わない。どうせ奴らとはケリを付けるつもりだった」
「なんのことだ?」
「こっちのことだ。社長も受けるだろう」
そこへ、テレパスが通じた。ウィルに、「ええ、引き受けてもらえる?」とジーナは言った。
「受けるそうだ」
「ありがとう。ここから北西にある、都市へ送ってほしい。あちらとは人足でやりとしているが……みんなエコーが怖くて、こういう配達は拒否される。密輸人に頼むわけにもいかない」
言葉を濁す理由はいくつもあるのだろうが、あえて言うなら、密輸人は「配達物の改ざん」を厭わない。
「それが普通の反応だ」ウィルは答えて、「じゃあ、配達品の準備をしてくれ。船に積み込んで、こっちの準備ができ次第すぐに運ぶ」
人の命を運ぶ。
しかし、その手段や方法が荷物という扱いなのは、ウィルにはあまり許せることではない。
大人だから感情は抑えられるだけで――はっきり言って、この依頼を平然と受けたジーナにも思うところはある。
そして、子種という可能性を利用し、エコーと戦おうとしている自分にも。
――自己顕示欲。
ちがう、そう思った。
〓
その日の夜。船を北に進め、森林地帯の入口で錨泊していた。
「おかしい」
ギークマンは荷物の比重数値を見ていった。
「なにが」
ウィルはそう聞いた。彼のラボで、ウィルはビーンズフライをぱくつきながら、本棚の漫画を読んでいた。
音楽バンド、サムズアップのハローグッドがエンドレスで流れている。
「この重さ、どう考えても子種じゃない、重すぎるぞ」
「機材だろ。冷却用の。旧式のを使っているボックスは重いんだ」
「現場の意見は聞き入れるよ、僕は。そのうえで計算したんだ。それに見てくれ」ギークマンはモニタを示した。
それは、スキャナ映像ではない。サーモセンサーの画像である。
「ここ。発熱してるだろ。排熱ファンじゃない」
「スキャナにかけるわけにもいかないしな」
エーテルスキャンにしろ何にしろ、そんなことをすれば、子供に何らかの先天的疾病がでかねない。
「アプローチを変えるのは。依頼人を洗えるか」
「あー……内緒にね。僕、文章苦手だから、始末書なんかごめんだよ」
「いいからやれ。言い訳なんかあとにしろ」
ウィルはコミックをおいて、彼のハッキングを見守る。
「依頼人は窓口の男ではないね。彼は本当にただの窓口だ」
「じゃあどこから依頼されてる? 村の病院か?」
「いや、村長だ。子種の配達依頼の主としてはむしろ自然だよ」
「だったらなおさら誤魔化す理由がわからん」
ギークマンはコンソールを叩き続ける。指先が霞むような速度で叩く。
次々ポップアップされるモニター。ウィルはその内容を断片的に読み上げる。
――エコー出現実験。
――密輸入。
――奴らが裏切り。
――生き残るには。
――エーテルを臨界させる。
「ウィルまずい、ボックスを捨てるんだ!」
「ああ――ああわかった!」
察した。ウィルはボックスを掴んで駆け出す。
「ウィルどうした、便所ならいま出たばかり――」クルーの冗談が、今は腹立たしい。
「どいてくれ!」若いクルーを押しのける。
「いてっ。なんだ、どうしたんだよ?」
配達物に偽装した爆弾だ、どけ!
そう言うわけにはいかない――パニックを生む。
ウィルは階段を上がり、ロウアーデッキへ。そして、カタパルトにボックスを固定。
「ギークマン! 射角方位調整、人のいないところへ落とせ!」取り付けられている有線通信機に怒鳴りつけた。
「計算完了、半径十キロ圏内に人はいない!」
「飛ばせ!」
「ああわかった! ごめんなさい船長、船を守るためです!」
ドシュッ、と音がして、圧搾空気がカタパルトを射出。ボックスが宙を舞った。
デッキで休憩したいた整備クルーが、「なんかの訓練か?」と聞いてくる。
「爆弾だ、あれは飽和式のエーテル爆弾だ!」
ボックスが放物線を描いて落下。森林へ落ちて、
「何も起こらないじゃないか」
クルーがそういった。
ウィルは、そんなはずは――と思って振り返りかけ、
次の瞬間、キノコ雲が生じるほどの大爆発に、甲板を転がった。
――ヒトはいなかったかもしれない。だが。多くの生命が消し飛んだ。
船が歩くときは特殊な音響と忌避剤で動物を遠ざけるが……。
「くそ、なんだってんだ、おい、ウィル!」
「配送テロだ」ウィルは咳き込みながら言った。「俺達を嵌めた野郎がいるんだよ!」
「なんだって……」クルーは愕然としていた。
ウィルは眉根を寄せる。
いよいよきな臭い。
――そして彼らは、この一件の数時間後で、依頼人が心筋梗塞で亡くなった、という出来すぎたニュースを知ることになる。
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