3


「ありがとうウィル、君のお陰で一つ命をつなぐことができた」

「わかった、それはもういい。あんたたちはいいのか、なにか運ぶものがあったんじゃないのか」

「ああ。あんたたちがエコーを遠ざけられるからこそ依頼したい仕事がある」


 エコー撃退から翌日。

 ウィルはギークマンと共に、村の「岸」にいた。接岸している船に、エーテルスキャナを通して安全確認を行った物資を運び込んでいる。

 現在、PR配送サービスを逆用した悪事が横行しているのだ。


「正規の配達かつ、人の未来を奪わないものならなんでも運ぶ」

 ウィルがそう言うと、窓口の男はサムズアップいいねで応じた。

「その真逆さ」

「ああ。つまり、精子と卵子の配達だね」ギークマンは言った。

「そうだ。血が濃くなりすぎるのは非常にまずいからね。本来ならそういうのは、人と人が接するべきなんだろうが……」


 ウィルは昨日の親子を思った。

 たしかに、本来家族とはああいうものだった。


「エコーは可能性を欲することが知られているだろう? つまり、子種や子供が狙われる。ゆえに、世界は閉ざさざるを得なくなった」


 相手側の窓口は、昨日の一件もあって相互でゼロタイムの大規模容量通信が可能な「エーテル通信」越しではなく、対面で会話していた。

 カフェオレ色の肌をした背の高い男である。


「俺は構わない。どうせ奴らとはケリを付けるつもりだった」

「なんのことだ?」

「こっちのことだ。社長も受けるだろう」


 そこへ、テレパスが通じた。ウィルに、「ええ、引き受けてもらえる?」とジーナは言った。

「受けるそうだ」


「ありがとう。ここから北西にある、都市へ送ってほしい。あちらとは人足でやりとしているが……みんなエコーが怖くて、こういう配達は拒否される。密輸人に頼むわけにもいかない」

 言葉を濁す理由はいくつもあるのだろうが、あえて言うなら、密輸人は「配達物の改ざん」を厭わない。


「それが普通の反応だ」ウィルは答えて、「じゃあ、配達品の準備をしてくれ。船に積み込んで、こっちの準備ができ次第すぐに運ぶ」


 人の命を運ぶ。

 しかし、その手段や方法が荷物という扱いなのは、ウィルにはあまり許せることではない。

 大人だから感情は抑えられるだけで――はっきり言って、この依頼を平然と受けたジーナにも思うところはある。


 そして、子種という可能性を利用し、エコーと戦おうとしている自分にも。


 ――自己顕示欲。

 ちがう、そう思った。


 〓


 その日の夜。船を北に進め、森林地帯の入口で錨泊していた。


「おかしい」

 ギークマンは荷物の比重数値を見ていった。

「なにが」

 ウィルはそう聞いた。彼のラボで、ウィルはビーンズフライをぱくつきながら、本棚の漫画を読んでいた。

 音楽バンド、サムズアップのハローグッドがエンドレスで流れている。


「この重さ、どう考えても子種じゃない、重すぎるぞ」

「機材だろ。冷却用の。旧式のを使っているボックスは重いんだ」

「現場の意見は聞き入れるよ、僕は。そのうえで計算したんだ。それに見てくれ」ギークマンはモニタを示した。

 それは、スキャナ映像ではない。サーモセンサーの画像である。

「ここ。発熱してるだろ。排熱ファンじゃない」

「スキャナにかけるわけにもいかないしな」

 エーテルスキャンにしろ何にしろ、そんなことをすれば、子供に何らかの先天的疾病がでかねない。


「アプローチを変えるのは。依頼人を洗えるか」

「あー……内緒にね。僕、文章苦手だから、始末書なんかごめんだよ」

「いいからやれ。言い訳なんかあとにしろ」


 ウィルはコミックをおいて、彼のハッキングを見守る。

「依頼人は窓口の男ではないね。彼は本当にただの窓口だ」

「じゃあどこから依頼されてる? 村の病院か?」

「いや、村長だ。子種の配達依頼の主としてはむしろ自然だよ」

「だったらなおさら誤魔化す理由がわからん」


 ギークマンはコンソールを叩き続ける。指先が霞むような速度で叩く。

 次々ポップアップされるモニター。ウィルはその内容を断片的に読み上げる。


 ――エコー出現実験。

 ――密輸入。

 ――奴らが裏切り。

 ――生き残るには。


 ――エーテルを臨界させる。


「ウィルまずい、ボックスを捨てるんだ!」

「ああ――ああわかった!」


 察した。ウィルはボックスを掴んで駆け出す。

「ウィルどうした、便所ならいま出たばかり――」クルーの冗談が、今は腹立たしい。

「どいてくれ!」若いクルーを押しのける。

「いてっ。なんだ、どうしたんだよ?」


 配達物に偽装した爆弾だ、どけ!

 そう言うわけにはいかない――パニックを生む。


 ウィルは階段を上がり、ロウアーデッキへ。そして、カタパルトにボックスを固定。

「ギークマン! 射角方位調整、人のいないところへ落とせ!」取り付けられている有線通信機に怒鳴りつけた。

「計算完了、半径十キロ圏内に人はいない!」

「飛ばせ!」

「ああわかった! ごめんなさい船長、船を守るためです!」


 ドシュッ、と音がして、圧搾空気がカタパルトを射出。ボックスが宙を舞った。

 デッキで休憩したいた整備クルーが、「なんかの訓練か?」と聞いてくる。


「爆弾だ、あれは飽和式のエーテル爆弾だ!」

 ボックスが放物線を描いて落下。森林へ落ちて、


「何も起こらないじゃないか」

 クルーがそういった。

 ウィルは、そんなはずは――と思って振り返りかけ、

 次の瞬間、キノコ雲が生じるほどの大爆発に、甲板を転がった。


 ――ヒトはいなかったかもしれない。だが。多くの生命が消し飛んだ。

 船が歩くときは特殊な音響と忌避剤で動物を遠ざけるが……。


「くそ、なんだってんだ、おい、ウィル!」

「配送テロだ」ウィルは咳き込みながら言った。「俺達を嵌めた野郎がいるんだよ!」

「なんだって……」クルーは愕然としていた。


 ウィルは眉根を寄せる。

 いよいよきな臭い。


 ――そして彼らは、この一件の数時間後で、依頼人が心筋梗塞で亡くなった、という出来すぎたニュースを知ることになる。

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