救急車を呼べなかった夜、という一点が、この物語から離れない。
異世界へ移っても、状況が変わっても、その夜の判断と結果が、形を変えて繰り返し現れる。
AIであるユミナは、何でもできる存在ではない。
できないことが、はっきりしている。
その「できなさ」が、恒一の生死や選択と結びつく場面が、何度も置かれる。
助けようとするほど、別の何かが削れていく構図が、軽く扱われない。
戦闘では、身体が先に動き、判断が遅れる。
正しそうに見える動きが外れ、取り返しのつかない距離まで踏み込んでしまう。
この不安定さは、成長や爽快感に回収されず、判断の重さとして残り続ける。
ギルド、巡察、学院。
それぞれが正しい立場を持ちながら、噛み合わない。
事態は善意だけでは収束せず、順番や手順を間違えれば、すぐに悪い形で確定する。
読後に残るのは、異世界に来た解放感ではない。
助けるという行為が、常に条件付きであること。
そして、その条件を引き受け続ける覚悟だけが、「続き」を成立させているという感触だった。