第6話 ふたつの想い

「すぅ……すぅ……」

「……幸せそうに寝ちゃって」


 いつものように早く寝るアン。

 そんなアンの頬を突くと、うにゅにゅ……という変な声を出す。

 本当に可愛い。


「よいしょっ……と」


 私は、そんなアンの側で横になる。

 ここ、冒険者養成校ではベッドがない。

 どこにでも寝られる訓練として、毛布にくるまって床で寝るのだ。

 生まれてからずっとベッドだった私には、本当に苦痛だったが、今は悪くないと思っている。


「ふにゅ、にゅぅ……」

「ふふっ、やっぱり可愛い♪」


 こうやって、大好きな子の側で寝られるから。


「……っと、今日も先越されたかー」


 そこに、自分の毛布を持ったエリスが現れる。

 エリスも同じ目的であり、いつも私たちはアンの両隣で寝ている。


「毎夜毎夜、飽きないこと」

「その言葉、そっくりそのまま返すけど?」

「……はっきり言った方がいいかしら? 貴女が、アンの隣に寝るのは目障りなの」

「……その言葉、そっくりそのまま返すけど?」


 互いに放った殺意が合図となり、私とエリスが戦おうとした瞬間……


「明日こそぉ……ふたりを仲よく……すぅ……」


愛おしい声が響いてきた。


「…………」


言葉を失う私たち。

互いに魔力の解放を止め、部屋は静けさを取り戻していた。


「……仲良くしろってさ」

「……そうね」


 私とエリスは、はっきり言って相性は最悪だ。

 性格は正反対、考え方も正反対、本当に気に入らない。

 宿命の敵というのは、こういう奴のことを言うのだろう。


「いつも通り、貴女は右。私は左」

「はいはい」


 そう言いながら、無言でアンの横に眠る。

 どさくさに紛れ、アンの頬を突つきながら。

 ……やはり、始末するべきか。


(……でも、そういうわけにはいかないのよね)


 理由は分からないが、アンは私たちを仲良くさせたいらしい。

 ダンジョン前に罠を仕掛けたのも、アンだろう。

 狙いは、どっちかを転ばせ、それを助けて話すきっかけを作ろうとした、といったところか。

 おそらくエリスも分かっていて、あのトラップに付き合っている。


(そして、結果的に目的を忘れて、私たちを守る……本当にアンは……)


 アンには悪いが、エリスと仲良くすることは断じてできない。

 だが……


『あの子の力、魔法じゃないんだって

『もしかして魔物なんじゃないの?』


『あの娘は、我が家の恥だ……!』

『冒険者養成校に送って、存在をなかったことにしましょう』


 絶望していた私の前に現れ……


「今日から同室。友だちになってくれると嬉しいな」


 心を救ってくれたアン。


 貴女のためなら、エリスとも友だちのふりをしてあげる。

 いつも貴女が早起きして、私とエリスの寝床を近づけるのも我慢する。

 だからアン……明日も私の隣で、笑っていてね。


********************


「――寝たみたいだね」


 アンの横で静かな寝息をたてるルミナ。

 本当に気に入らない光景。

 アンの隣はあたしだけのものなのに。


(ま、殺しあったらアンは泣くだろうし、大人しくしとくか)


 アンが何か企んでるのは分かっている。

 毎朝、私とルミナの寝床をくっつけたり、今日みたいに罠を仕掛けたり。


(私とルミナを仲良くさせて、どうしたいのかな?)


 その点は本当に分からないが、別にいい。

 たとえ、アンが私を何かに利用としているとしても構わない。


『く、来るなよ化け物!』

『友達? 気持ち悪いこと言うな!』


『あの化け物は、俺の娘じゃない……!』

『冒険者養成校に送って、存在をなかったことにしましょう』


 全てを失ったあたしを……


「なんでも言ってね? 私たち、もう友だちなんだから!」


 救ってくれたのは、アンだったから。


 あなたが願うなら、あたしは憎たらしいエリスとも友達になる。

 早起きして、あたしとエリスの寝床を近づけるのも我慢するよ。

 だからアン……これからも、私の隣で笑っていてね。

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