第2話 自称女神様

「――世界崩壊ですか?」

「ええ。貴女のルームメイトである、未来の勇者エリス・ミレディアと、未来の魔王ヴィルヘルミナ・スフルーフの戦いがきっかけで、世界は崩壊します」


 夜寝ていたら現れた自称女神様が、とんでもないことを言ってくる。

 色々と言いたいことはあるが、とりあえず全裸で正座はキツいので、服を着させてほしい。

 寝るときは全裸だが、普通にしているときは服を着たい。

 いや、着させてください、寒いです。


「あら、気がつかないでごめんなさいね」


 自称女神様が指を鳴らすと、いつの間にか私は漆黒のドレスを着ていた。


(……ヤバイ、この人本物だ)


 私の心を読んで服の錬成……これは間違いなく『神』だ。


「あ、あの、女神様。お話は分かりましたが、私にどうしろと?」

「この世界を救って欲しいのです。あなたには、その才能があります」

「え、私に……?」


 自分で言うのもなんだが、私は本当に普通だ。

 ゴブリンと戦おうものなら、『酷い目』に合わされる自信がある。

 そんな私が、世界のために何ができるというのだ。


「自分が気付いていないだけで、貴女は素晴らしい才能を持っていますよ」


 ナチュラルに私の心を読みながら、手から黒い光を発する女神様。

 そして光が消えた瞬間に……


「これが、貴女に才能がある証拠です」

「そ、それはぁ……!」


 女神様の手にあるのは、1冊の本。

 内容が過激すぎるゆえに、知る人ぞ知るレベルの恋愛小説。

 ……私の秘蔵の1冊だ。


「あらあら、これは向こうでもない性癖ですね。女性が男性の顔に……」

「わぁ~! わぁあああ~~!!」


 言わせませんとばかりに、とにかく叫ぶ!

 そして、そんな私を心底楽しそうに見つめる女神様。

 この人、邪神なんじゃないだろうか。


「こ、これのどこが才能の証拠ですか! 私が神官のくせに、恋愛脳かつ、ピンクな妄想が好きってだけじゃないですか!」

「――それですよ。私はそれを求めている」

「え……?」


 女神様はゆっくりと立ち上がり、私に顔を近づける。


「未来の勇者と未来の魔王……ふたりの少女が争わなければ、この世界は滅びない。つまり、争わせなければいいと思いませんか?」


 そして女神様は、また新しい本を出す。

 本は私の目の前で勝手に開き、その内容があらわになる。


 内容は女性同士の恋愛ものだが、とにかく可愛らしく動きのある絵。

 アクシデントによる、強烈なスキンシップ。

 な、なんというか、その……


「……興奮しちゃいました?」

「は、はひいぃ……って、してませんから!」

「あら残念♪ でも、私はとても良いと思いますよ」


 女神様が指を鳴らすと、自動でページが捲られる。


「同室になった先輩と後輩が、ひとつしかないベッドを一緒に使う……」

「そ、そして、寝ぼけた後輩が、先輩の胸を、その……」

「ああ、おっぱい吸ってますね♪」

「表現! 表現をもう少し考えてください、女神様!!」

「ちなみにこのふたり、最初は喧嘩ばかりでしたが、絆を育みこんなことをする程の仲になったんです」


 ……女神様の言いたいことが分かってきた。

 つまりこの本のように、エリスとルミナが仲良くなれば世界崩壊は防げるということだろう。

 だがこれで、余計に女神様の目的が分からなくなった。


「えっと、質問の繰り返しになって申し訳ないんですが……私にどうしろと?」


 私の思考に合わせて、勝手に捲れるページを見ながら話す。

 漫画のふたりは惹かれあったのは、誰かに強制されたものではない。

 まあ、ストーリー展開という『偶然』が手助けになっているが。


「まさにそれですよ。あなたには、『偶然』を意図的に作ってほしいのです♪」


 またナチュラルに私の心を読みながら、指を鳴らす女神様。

 すると、私の周りを別の本が取り囲む。


『老人がバナナの皮を捨てたせいで』、ふたりの少女が転んで重なって初キス。

『同級生が急に体調を崩したせいで』、ふたりっきりで祭りを回る少女。


 これらがきっかけで、ふたりは互いを意識したり、仲が進展していく。


「偶然は、起きないから偶然……だったら、作るしかないと思いませんか?」


 まるで、悪戯好きの子どものように微笑む女神様。

 その笑顔に、軽く寒気がする。


「――改めて、お願いしましょうか」


 そして、女神様は私の頬に手を這わせ……


「偶然……いえ、『百合フラグ』を創り出し、ふたりをこの本の少女たちのように、恋人にしてくれませんか?」

「で、でも、ふたりは大切な友だちで、こんなことは……」

「……ふたりが仲良くしてほしいと、日頃から思っているのでしょう?」


 それは、誓ってそうだ。

 もっとふたりが、仲良くなってほしい。


「これは別に、友達をだます行為ではない……」


「見たいのでしょう? 貴女が魅力的だと思うふたりが、美しい百合の世界で戯れる姿を……」

「あ……あぁ……」


 まるで、悪魔の囁きにように、女神さまの囁きが私の耳に優しく響く。

 その誘惑に対する、私の答えは……


「……恋愛小説よりも過激で、愛おしい、『貴女だけの最高の物語』をつづりましょう♪」


 ――YES一択だった。

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