7年目

@159roman

7年目

 パチパチと薪が音を立て、暖かな炎が揺らめく。

 祖父から相続した別荘のお気に入りの暖炉の前で、私は鼻歌を歌いながらお祝いの準備をする。


 真っ白なテーブルクロス。手慰みに作ったテーブルセンターは落ち着いて上品な色合いだ。花を飾り、キャンドルを灯す。ひとり分のごちそうを並べ、ワイングラスをひとつ。


 今日は何回目かの結婚記念日。たぶん、10年目。


 「10回目の結婚記念日に開けよう」とあなたがねだった高いワインも、今夜私が一人で飲むことにする。だって、お祝いだから。



 「これは付き合い始めた頃にあなたがくれたものだったわね」

 写真、手紙、プレゼント。思い出の品を手にとり、過去に思いをはせる。

 そうして、ひとつひとつ暖炉にくべる。


 まだ若い私とあなたが笑っている写真。もう原因も覚えていないケンカの後の仲直りの手紙。「ごめん」とだけ書かれた手紙がなぜか嬉しくていつまでも手元に置いていた。それも炎の中へ。


 あなたの裏切りを知り傷ついた過去に、心がうずく。

 バツの悪そうな顔で別れを切り出したあなた。見せつけるように少し膨らんだお腹をさするあの人。

 私にはまだ早いと言っていたのに、あの人とは子供を作っていたことが許せなかった。


 それでも好きだった。


 だから、それからの日々は地獄だった。泣いて縋って懇願したけど、あなたはとりあってくれなかった。


 「呪いって本当にあるのね」


 あの日、あなたは私の目の前からサラサラと砂のように消えてしまった。


 7年。私なりに喪に服してきた。

 今日、正式にあなたは死んでしまった。


 思い出の品を次々と暖炉にくべていく。パチリと薪がはぜる。


 ゆらゆらと揺らめく炎を眺めながら、最後に左手の薬指から指輪を外して暖炉に放り込んだ。



 空になったグラスにワインを注いで、窓を開ける。ストールを羽織りバルコニーに出るとほてった体に夜風がひんやりと肌を撫でる。


 綺麗な星空を眺めていたら

 「『祝い』と『呪い』って文字が似ているわね」

 と具にも付かない言葉が口から飛び出して、思わず笑ってしまった。


 あなたが消えてから誰も住まなくなったあなたと暮らしていたマンションは、処分するわ。


 あなたと同時期に消えたあの人と、あなたがどこかで幸せに暮らしていても、もうどうでもいいと思えるようになった。それだけの年月が経ったわ。


 「きっと近いうちに私はあなたじゃない人を愛して、あなたじゃない人の子供を生むわ」


 だって、私の人生はこれからも続いていくから。


 夜空に向かい「乾杯」と手を伸ばし、グラスのワインをあおる。



 そして私は暖炉の火があたたかく揺れる部屋に戻った。

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