第10話 渡さねー

 そりゃそう思うだろう。あんなことをしてきた奴の顔なんて、二度と見たくはないだろう。婚約なんて、真っ平ごめんだ。


「ネネ! 行かなくて良いよ! あんな奴に会わなくていい! 兄様がネネを守る!」

「おにいちゃま、でも……」

「王家の招待をお断りするなんて、できないわね」


 奥様は当然のことを言っただけなのだけど、その場にいた全員が大きくため息をついた。


「断ることはできない。なら、どうするかを考えないと」

「父上は平気なのですか! あんな奴にネネはいいように利用されたのですよ! しかも12年間ものネネの我慢と努力をあいつは……!」

「ブレイズ、それはまだ起こっていない未来のことだ」

「ですが!」

「ブレイズ、落ち着きなさいな」


 どうもブレイズ様は、お嬢のこととなると冷静ではいられなくなるらしい。

 巻き戻す前の時だと、今頃はまだ一人別邸にいるはずだ。それが今回はもう完璧に魔力制御をして、家族と平和に暮らしている。家庭教師にもついて勉強している。

 普通の勉強から当主としての勉強、それに魔術の勉強もしている。

 そして何を思ったのか、前の時には一切興味を示さなかった剣術や体術まで習っている。


「僕は悪夢だと思っていたんだ。だけど、どんな場面でもネネを守ることができるようにしなきゃと」


 ああ、それで色々やり始めたのか。自分の中にある記憶が何なのか分からないというのに、そのようなことが起こった時に対処できるようにと努力していたんだ。

 不確定なことに対しても、用心し対処できるようにする。その危機管理だ。筋金入りのシスコンだからとも言える。


「おにいちゃま、ありがと」

「可愛いネネを守るためだからね」


 優しい手つきでお嬢の頭を撫でている。目はとろけるように優しい。


「いや、おじょうは、わたちゃ渡さねー」

「ベルも、ありがと」


 くぅー! 可愛い! やっぱ抱きしめたいぞぅ!


「おじょうは、おれがヨメにちゅるんだ」


 そう言った途端に、親父にポコンとげんこつを落とされた。


「だから、おやじ! いちいちなぐるなって!」

「お前にお嬢様は勿体ないだろうが!」

「なんでだよ! じぇったい絶対に、ヨメにちゅる!」


 お嬢本人の前で堂々と『ヨメにする』と何度も公言したものだから、お嬢がほっぺを真っ赤にしている。

 奥様は、あらあら〜と笑っているが、旦那様はため息をつきながら呆れている。どうせちびっ子の言うことだと思っているのだろう。

 だけど俺の決意は固い。二度とあんなお嬢を見たくない。あんな思いをさせたくない。俺が腕の中で大切に守り癒し、愛でるんだ。


「落ち着きなさい。もっと現実を見なければならない」


 旦那様が言った。何故なら、そのお茶会は顔合わせといっても、婚約者候補を選ぶものだからだ。公爵家が不参加なんてことはできない。

 前の時はそこでお嬢が、王妃にロックオンされてしまった。翌日には、婚約者に決められていた。こっちの気持ちなど、お構いなしだ。

 よし! と旦那様が何かを決意した。


「とりあえず、私が大臣を辞してこよう」

「あなた、そうですわね」


 おっと、意味の分からないことを言い出した。現実を見ようと言ったのは、旦那様だぞ?

 この頃、旦那様は国防大臣の任に就いていた。国の防衛を統括する役目で、全ての武官の長で、統括・指揮する責任を持つ。

 それを辞することが、お嬢の婚約者を回避することとどう関係があるんだ?

 俺はすぐには理解できなくて、キョトンと首を傾けた。


「そんなことも分からないなら、ネネを任せられないな!」


 ブレイズ様は、何故か勝ち誇った顔をしている。そう言うブレイズ様だってまだ子供なのに、腕を組んで超偉そうだ。

 お嬢より5歳上のブレイズ様。俺はこう見えて、もっと年上だからな。竜人の年の取り方は人とは違うんだ。


「おれのほうが、としうえなんだじょ」

「まだチビドラゴンじゃないか」

「チビだけろ!」


 むむむむ! とブレイズ様と睨み合う。なんだ? 喧嘩を売るなら買っちゃうぞ。


「落ち着きなさいと言っただろう」


 ふぅーッと、旦那様が何度目かのため息をついた。


「断ることはできない。なら、できるだけ目につかないようにするしかない。王妃に第2王子の後ろ盾に良いと思われないようにだ」

「だから、大臣を辞するのですね」

「ブレイズ、そうだ。そして、我が家は一切の公の仕事からは手を引く」

「あなた、この際ですから領地に帰りましょうか?」

「それも良いな」


 いやいや、この人たちは何を言っているんだ。親父、なんとか言ってくれよ。


「旦那様、今すぐに国防大臣をお辞めになることは現実的ではありません。それに奥様、四家しかない公爵家なのです。領地に引っ込むなど無理というものです」

 

 そうだよ、親父の言うとおりだ。落ち着かないといけないのは、旦那様と奥様の方だぞ。

 旦那様が、ガビーンと音が聞こえてきそうな表情をしていたが、すぐに立て直して言った。


「すぐに辞任できなくとも、意思表示をしておくことは大切だろう」

「私も貴族院の婦人会副会長を辞めると、会長に話してきますわ」


 とにかく権力に少しでも繋がりそうなことからは手を引く。王妃に王子の後ろ盾に良いと思われないために。





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大変困ったことになりました!

今まで溺愛なんて書いたことがないので、どう書けば良いのか分かりません(^◇^;)

令嬢ものを読み漁ってます。

ちびっ子ベルくん、頑張って!

お嬢を溺愛してね。任せたよ!(๑•̀ㅂ•́)و✧

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