第2話 起因 2

 ネーネルヴァはふぅ~ッと静かに息を吐き、背筋を伸ばして凛とした態度で言った。


「殿下、わたくしに至らないところがございましたか?」

「そんなことを言っているのではない!」

「わたくしは精一杯お仕えしたつもりなのですが」

「だからそうではない! 私の気持ちの問題だ! お前はいつも私に小言ばかりを言って、お前といてもちっとも楽しくない! この聖女といる方が胸が高鳴るのだ! そうだ、お前は側室にしてやろう! だからお前は今までどおり、私の執務の補佐だけをすれば良い! 私を生涯支える栄誉を与えてやろうと言っているのだ! そんなことも分からないのか!」


 そう言ったかと思ったら、あろうことか王子がいきなりネーネルヴァを突き飛ばした。

 まさか一国の王子がそんな暴挙に出るとは誰も思わない。

 しかも令嬢は突き飛ばされた弾みでバランスを失い、磨き上げられた大理石のような床に倒れこんでいる。

 周りの貴族たちの中から、冷ややかだが驚愕の声が上がる。それに気付きもせず、王子が腕に掴まっていた令嬢を抱き寄せた。


「私はここにいる聖女である、アユティ・ミファリファと婚約する!」


 大広間にいた貴族だけでなく、ネーネルヴァ本人も冷え切った眼差しで第2王子を見ていた。

 そして誰にも聞こえないような小さな声でつぶやいた。


「侮られたものだわ。ふふふ……胸が高鳴る……ですって……? どこのどなたが聖女ですって……!?」


 優雅さを感じさせる所作でゆっくりと立ち上がり、小刻みに震える手をギュッと握りしめ、心の叫びとも取れるような声色で言った。


「何度もハッキリとご辞退いたしましたのに、無理矢理婚約を結ばせたのは王家ではありませんか……! わたくしだってなんにも、これっぽっちも! 苺の種ほども、楽しいことなどありませんでしたわ! ただただ……必死で耐えておりました!」


 ネーネルヴァの長い髪がフワリと舞い上がり、ゆっくりと風が渦を巻き始めた。

 ホルハティ家は代々強い魔力を持ち、炎を自在に操る家系として知られている。それが瞳の色に現れる。ホルハティ家の直系は瞳が赤い。

 ネーネルヴァもしっかりとそれを受け継ぎ、ストロベリーレッドの瞳が印象的だ。その上『蒼炎の乙女』という二つ名があるくらいに膨大な魔力を有している。それが今、暴走を起こそうとしている。

 ネーネルヴァの纏う風がどんどん強く、そして熱を帯びていく。そのうち風の中を火花のような炎がチラつき出し、見る間に大きくなっていく。

 ネーネルヴァの足元には大きな魔法陣が幾つも現れた。


「わたくしの……わたくしの12年間を……返してくださいませッ! わたくしの……心を返して!」


 真っすぐに第2王子を睨みつけそう呟くと、魔法陣から炎混じりの竜巻のような風が吹き出した。

 炎がより大きくなり渦を巻く中、ネーネルヴァの長い白銀の髪が舞い上がりドレスの裾がはためいている。


「わたくしの……時間を返して! 婚約なんて、こちらから願い下げだわッ!」


 ゴオーッ! と、勢いよく渦を巻き炎が天井目掛けて燃え上がる。ネーネルヴァの爆裂魔法だ。火属性魔法の中では最上級魔法に当たる。

 まさか最上級の爆裂魔法を発動するなんて! 誰もがそう思い、悲鳴を上げながら一目散に出口目指して逃げ出す。


「……返して!!」

「お嬢!!」


 一人の青年がそう叫びながら、炎が舞う中に飛び込み後ろから抱きしめる。

 ネーネルヴァが叫んだ途端、紅蓮の炎の柱が幾つも立ち上がり王城の屋根を吹き飛ばす。大きな炎の柱が、この国の中枢である王城を原型を留めないほどに破壊していく。

 ガラガラと頭上から落ちてくる天井に逃げ惑う貴族たち。

 一際大きな炎の中で青年に抱きしめられ、魂が抜け落ちたような表情をしたネーネルヴァが立っている。

 身体を小刻みに震わせ、声も出さずに静かに涙を流していた。





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後ほど、もう1話投稿しちゃいます!

なんせ主人公がまだラストにちょびっと登場しただけなので(^◇^;)

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