これは、多面相の月を聴く物語だ。

 隣室から響くドビュッシーの『月の光』。それは聞く人の心ひとつで、いかようにも表情を変える。それは月の裏側と表側のように、あるいは歴史が歩んできた月の解釈のように多様に、様々に移ろっていく。

 はじめ関心から始まった物語が、やがて怒りへ、そして慰めへ、最後には愛へと移ろっていく過程は、あまりにも端的に、しかし詩的で情感豊かに描かれていく。

 この物語は、私達が月を見て、それを知り、感じることによって、表情を変える月の光を、視覚ではなく聴覚で表している点に、面白みがある。
 奇妙で、不気味でありながら、不思議と安らぎを感じる愛情の物語を、是非紐解いてみてはいかがだろうか。