メガネなし、チートなし、視力うっすら、

あひる12号

第1話

「いや見えねぇって!!」


叫んだ瞬間、俺は自分がどこにいるのか分からなくなった。

視界はぼやけている。

――いや、正確に言うと「見えてはいる」。

光も色もある。

人影のようなものも分かる。

ただ、全てがひどくぼやけている。

輪郭がない。

距離感も曖昧だ。

近いのか遠いのか、静止しているのか動いているのかも怪しい。

例えるなら――

メガネを外すした状態で、ワープされたみたいな感じ、

まぁ、実際そうなんだけど。

そう、あれは数時間前の話。

数時間前までは、普通に生きていた。


今日は大事なゲームの大会があった。

俺は、このゲームのランカーだ、まぁ一位じゃなくて16位なんだけどな。だけど今日の大会に勝てば10位以内に行ける、しかし母が

「目が悪くなるからやめなさい」

と言ってくる、しかしもう俺は、目が悪い!

だから母の言葉は無視!無視!

しかし俺の目の悪さは異常だ。

風呂も、寝るときも、ずっとメガネ。

外したら世界が消える。

それくらいの視力だ。

だから外出するときも、当然メガネをかけていた。

……かけていた、はずだった。

しかし今日の大会は体力を使うからカップラーメンを食べようと思いコンビニに行こうと思った。

しかし、夜道で誰かとぶつかった。

前から走ってきた影。

「前見ろよ!」と言おうとして、

その瞬間――

メガネが落ちた。


「あっ、メガネ!」

反射的に下を向いた。

その瞬間、地面の色が変わった。

暗かったはずなのに、急に明るい。

アスファルトの感触じゃない。

空気が違う。


目をこすった。

瞬きした。

何度もした。


でも、変わらない。

そのとき、脳内に浮かんだ言葉は一つだった。


(……異世界?)


よくあるやつだ。

ニートが転生、ハーレム、チート能力ゲット。

でも俺の場合――

そもそも

「いや見えねぇって!!」


異世界に来たところで、視力がない。

魔法があっても、剣があっても、見えなきゃ意味がない。

いやでもまだメガネも一緒に転移してきたのかもしれない!

そう思い探そうとしたら、遠くから声がした。


「……おい、大丈夫か?」


男の声。

位置は右前方。

距離は……5メートルくらい?

誰だ?


「あの誰ですか?」


「あぁ、すまないお前が何か叫んでいたから気になってきてみたんだ。」


前の男の人は多分いい人だよな?今こそ異世界か確かめる時だ!

「えっと……いきなりで申し訳ないんですけど質問いいですか」


「ほんとにいきなりだな。」


「ここ、どこですか」


一瞬、沈黙。


「……王都の外れだが」


王都。

はい確定。

これは異世界だわ。


「それともう一つ」


「なんだ?」


俺は深呼吸して言った。

「メガネ、落としたんで、拾ってくれませんか?」


「……拾う?」


男の声が、少し引きつった。


「お前、その……何を拾えと?」


「メガネです。俺の命です」


「……は?、メガネとはなんだ?そんな魔道具はないぞ?」


「えーと俺の周りに丸が二つ付いている、棒みたいな物落ちてません?」


「何を言っているんだ?そんなものないもないぞ、周りになんも落ちてないぞ」


はい、終わったー。俺の異世界生活、チートスキルで成り上がる、できません、詰んだー、

こんなにぼやけている視力じゃ、何もできませーん。すると


「……お前、もしかして、目が見えないのか?」


「そうですね、目は見えないと言うか少し見えるんですけど、ぼやけて見えているんです。、それよりなんで分かったんですか?」


「いや、まぁお前私のことを見ていなかったからだ、ずっと私に背中を見せつけていただ…」


「え…」

はっず!マジかずっと背中向けてたのかよ…


「はい、実は見えてないんです、視界がぼやけていると言うか、少しは見えるんですけどね」


「はぁ、だからか、しかしお前、この辺りの人間じゃないな」


やばい。

怪しまれてるのか?

しかし俺には、アニメで学んだ。

怪しまれていた時の対処法がある!


・嘘はつかない

・でも全部は話さない

・相手の情報を引き出す


「……旅の途中で、事故にあって」


「事故?」


「頭と、あと……目に」


半分は本当だ。

メガネを失ったのは事故みたいなものだし。

男はしばらく黙った後、言った。


「……ついて来い、王都に連れて行ってやる。」


「え」


「このまま放っておいたら死ぬ顔をしているからな」


正直、その通りだった、だからついてくことにした、歩きながら、俺は音とぼやけた視界で情報を拾う。


人の声。

金属音。

石畳らしき感触。


中世ファンタジーっぽい。


「なぁ」

男が言う。


「名前は?」


一瞬迷った。

本名を言うか。

異世界用の名前を名乗るか。


(……今は)


「……まだ、決めてません」


「は?」


「事情があって」


男は呆れたように笑った。


「変な奴だな」


そう言われて、少しだけ安心した。

数分歩いたところで、俺は言った。


「すみません」


「なんだ」


「段差あります?」


「……ある」


「何段です?」


「5段」


「じゃあ今、二段目ですよね」


「……いや、一段目だが、」


「あっ…」


「まぁ、目が見えないんだから、仕方がないことだぞ、」


フォローされてしまった。恥ずかしい…

ぼやけては見えるはずだが…


で俺は思った、やっぱり

(……メガネ、欲しい…)


「もう着いたぞ、王都に、」


(すごい確かに大勢の人の声とうっすらと見える肌の色、でも見えない!ぼやけて、見えない!)


「もう大丈夫なので、ありがとうございました。」


「本当に大丈夫なのか?」


「はい!大丈夫です。感はいい方なので」

大丈夫じゃない、ないけどこれ以上迷惑をかけるわけにはいけない。


「そうか、キヨつけろよ」


そう言い別れた。うーん、しかしなんも分かんない。

しかし歩いてみると前に人混みがあるのが分かった、多分市場だな、そう思い前の人らしき物に聞いてみた

「あの、ここは市場ですか?」


すると、聞いた瞬間、周囲がざわついた。


「お前、姫様に何を話しかけている!」


……え?

視界がぼやけていても分かる、俺は、どうやら

姫の行列に、ドンピシャで声をかけていたらしい。


「いや、その、目が悪くて……」


「言い訳は通じん!」


やばい!でもこんな時こそアニメから学んだことを使わなければならないのに、出てこない、そうだ

「あっ、前に敵だ!」

すると、甲高い金属音と、悲鳴が同時に響いた。


「敵襲だぁぁ!!」


え、なに、敵?本当に敵?


俺は反射的に肩をすくめた。

というか、音が多すぎる。

足音、叫び声、金属音、馬のいななき――

もう訳が分からない。


(やばいやばいやばい)


状況が分からない。

視界がぼやけてよくわからない、音がうるさい。


「姫様をお守りしろ!」


「前列、前へ!」


怒号が飛び交う。

どうやら本当にヤバい場面らしい。


(いや待て、俺、完全に場違いだろ!?)


俺はとにかく危険そうな場所から離れようとした。

足音が一番多い方向――つまり人が密集している方向を避け、

無意識に一歩、後ろへ下がる。


その瞬間だった。


ゴォンッ!!


すぐ目の前で、何かが地面に叩きつけられる音がした。

風圧が顔をかすめる。


「うわっ!?」


思わず腰が引ける。


「……な、何だ今のは」


誰かが呟いた。


「今の一撃、避けただと……?」


え?


(え? 今の、俺が避けたの?)


知らん知らん!

俺はただ何かが一瞬ぼやけて見えて、下がっただけだ!


だが周囲は違ったらしい。


「今の距離で反応できるとは……」

「姫様の前に出ず、わざと一歩引いた……?」

「いや、敵の狙いを読んだんだ」


なにその高度な解釈。

俺は必死に頭を回す。

(落ち着け……今は何も喋るな……)

余計なことを言えば、絶対墓穴を掘る、

しかし、喋らずにいると、いきなり何か黒い物体が飛んできた。


――大きい。

いや、正確には大きくなった気がした。

視界の端で、黒い影がじわっと膨らんだように見えて、反射的に俺は半歩だけ横へずれた。

避けたというより、音と気配が嫌で体が逃げただけだ。


次の瞬間。


ズドンッ!!


俺のすぐ横の地面に、それは深く突き刺さっていた。


「……投槍だ」

誰かが低く呟く。


(は? 槍? え、今の?)


遅れて心臓が跳ねる。

もしさっき一歩動いてなかったら、たぶん俺、今ここにいない。


「今のを……最小動作で……」

「いや、最初から当たらない位置に立っていたのか」

「敵の間合いを完全に把握している……」


(違う違う違う)


俺は必死に否定したくなるが、口を開く勇気が出ない。

そもそも、見えていない。


完全に真っ暗なわけじゃない。

輪郭はあるし、人の形も分かる。

ただ、全部が水の中みたいに滲んでいる。


速いものほど、近いものほど、よく分からなくなる。


(だから……動かない方が安全だ)


俺はそう判断して、意識的にその場で止まった。


――動かない。

――音だけ聞く。

――変なことはしない。


それだけのつもりだった。


「……微動だにしない」

「この戦場で、か……?」

「姫様……あの方、相当な手練れかと」


なぜか、周囲の空気が変わる。


(いや、やめて。

 俺、ただ目が悪くて固まってるだけだから)


だがそんな俺の事情など知る由もなく、

周囲は勝手に、俺を**“理解不能な強者”**として見始めていた。


そのとき――

今度は、さっきよりもはっきりと、嫌な音が近づいてくる。



しかし、喋らずにいると、いきなり何か黒い物体が飛んできた。

「っ!?」


反射的に俺は身をすくめ、顔を背ける。

ただそれだけだった。


次の瞬間――

背後で金属が地面に突き刺さる音がした。


「……今の、矢か?」

「いや、あの距離で避けたのか……?」


(え、今のなに? 矢? マジ?)


俺はゆっくりと顔を戻す。

視界は相変わらず滲んでいて、何が起きたのか正確には分からない。


(見えねぇ……ほんとに見えねぇ……)


「動くな……」

誰かが息を呑むように言った。

「この状況で、あそこまで冷静とは……」


違う。

動けないだけだ。

俺は地面を見つめながら、ぼそっと呟いた。


「……メガネ、あったら全部説明できるのに……」


誰にも聞こえなかったのが、

唯一の救いだった。

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