third class


「やった……倒した……!」


 俺はその場にへたり込み、肩で息をしていた。氷の槍を放った手が、まだじんじんしている。


 けれど、完全に消えたと思った“Wordless Beast”は、黒い霧のまま、ふわりと漂っていた。


「……まだ、残ってる?」


 Lexiが俺の肩でぽつりと言った。


「ううん、これは……“核”だけが残ってる。言葉を持たない存在は、倒されると“空白”になるの。だけど、そこに“名前”と“意味”を与えれば――」


「……仲間になるってこと?」


 Lexiはうなずいた。


「試してみる?」


 俺は立ち上がり、黒い霧の前にそっと手を伸ばした。


「えっと……名前、名前……」


 思い浮かんだのは、さっきの戦いの中で感じた、あのビーストの動き。静かで、でもしつこくて、どこか寂しげだった。


「……シャドウ。お前の名前は“シャドウ”だ」


 霧がふわりと揺れた。


「そして、お前は……“ガイド”だ。俺と一緒に、この世界を旅する仲間」


 その瞬間、黒い霧が光に包まれ、小さな影のような生き物の姿になった。丸い体に、つぶらな目。どこか愛嬌のある顔をしている。


「……シャドウ?」


「……シャドウ、ガイド。ユウト、トモダチ」


「しゃ、喋った!?」


 Lexiが微笑む。


「言葉を与えられたことで、存在が定義されたの。これからは、君の“Word Spell”に反応して動いてくれるはずだよ」


「マジかよ……英単語で魔法撃って、敵を仲間にして……なんか、ゲームみたいだな」


 俺はシャドウの頭をそっと撫でた。ふわふわしてて、ちょっと冷たい。


「よし、行こうぜ、シャドウ。Lexi、次はどんな単語を覚えればいいんだ?」


 Lexiが空中でくるりと一回転して言った。


「その前に、日も落ちてきたので拠点を確保すべきでは?」


 見上げると、空はすっかり茜色に染まり、森の影が長く伸びていた。風も冷たくなってきて、シャドウが俺の足元にぴたりと寄り添ってくる。


「……確かに。夜の森とか、絶対ロクなこと起きないやつだな」


「このあたりに“Safe Zone”があるはず。そこならモンスターも入ってこられない」


「セーフゾーン……安全地帯ってやつか。どうやって探すんだ?」


「“Search”と“Shelter”を組み合わせて。“Search Shelter”。これで近くの安全な場所を探せるよ」


「よし……サーチ・シェルター!」


 俺が叫ぶと、足元に小さな光の矢印が現れ、森の奥へと続く道を指し示した。


「おお、ナビ機能つきかよ。便利だな、これ」


 シャドウがぴょこぴょこと先を歩き、俺たちはその光を頼りに森の中を進んだ。


 やがて、木々の間にぽっかりと開けた小さな空間が現れた。苔むした岩に囲まれた、静かな場所。中央には、ぽつんと石造りの祠のようなものがある。


「ここが……セーフゾーン?」


「うん。ここなら一晩は安全に過ごせるよ」


 俺はほっと息をついて、地面に腰を下ろした。シャドウも俺の隣にちょこんと座る。


「なあ、Lexi。俺、ちゃんとやれてるかな」


「もちろん。今日だけで、三つのWord Spellを覚えて、一体のWordless Beastを仲間にした。上出来だよ」


「……そっか。ありがとな」


 夜の森に、虫の声が響く。焚き火の代わりに、Lexiが“Light Orb”を浮かべてくれた。淡い光が、俺たちを優しく包み込む。


「明日は、もっと強い単語を覚えよう。な、シャドウ」


「ユウト、ガンバル。トモダチ、マモル」


「……お前、ほんとにかわいいな」


 俺は笑いながら、シャドウの頭をもう一度撫でた。


「なあ、メイク・シェルターでよかったんじゃないのか?」


「……やっと気づきましたか。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る