Lv.9999の魔王が事故でLv.1になって勇者パーティに加入した件について

ミヤザキ

プロローグ: Lv.9999の魔王、俺(勇者)の仲間になる


魔王(Lv.9999)によって世界は壊れる――はずだった


 崩れ落ちる魔王城。空は裂け、雷鳴が地を引き裂き、魔力の嵐がすべてを飲み込む。

 その中心で、二人の男が向かい合っていた。


「……ここまでだな、魔王」


 剣を構える男――勇者。

 だがその肩書きに、彼自身はいまだに慣れていなかった。


 勇者は、生まれながらに勇者ではなかった。

 かつて故郷の村に魔物が出て、たまたま剣を振ったら倒せて、気づけば“勇者様”と呼ばれていただけの男だ。


「そうだな、勇者よ」


一方、魔王は違う。

 生まれた瞬間から、王であり、世界の敵であり、勇者に討たれる存在だった。漆黒の髪と鮮血の瞳はその証だ。


 こんな、種族も立場も正反対の二人だが、互いのことを知り尽くしていた。

 何年も続いた戦争。何度も刃を交え、仲間を失い、国を滅ぼし、それでも進んだ末に今の最終決戦があるからだ。


「では勇者よ…行くぞ!!!」


 魔王の背後で、魔力が爆発的に膨張する。

 Lv.9999。

 世界が許容できる限界を、とうに超えた力。


「……来い!」


 勇者が魔力を切り裂くように剣を振り下ろした、その瞬間――


 光が、すべてを呑み込んだ。




「――起きろ! いつまで寝てる!」


 頭に、鈍い衝撃。


「痛っ!? な、なんだ!?」


 勇者は飛び起きた。

 そこは、魔王城でも、戦場でもない。


 草原。

 朝露に濡れた草。

 見覚えのある――勇者結成当時の集合場所。


「夢……じゃない?」


「何を寝ぼけている。早く準備をしろ」


 声の主を見て、勇者は固まった。


 見覚えのある黒髪、赤い瞳。

 マントを羽織った青年。


「……魔王?」


「は?」


 青年は首をかしげた。


「誰だそれ。俺の名前は――」


 言いかけて、青年は一瞬黙り込む。


「……名前?」


 困惑した顔で、青年は頭を押さえた。


「……おかしい。思い出せない」


 勇者は、嫌な予感しかしなかった。


 震える手で、青年のステータスを確認する。


名前:???

種族:魔族(?)

Lv:1

職業:なし


「……は?」


「なんだその顔は。俺が何かしたか?」


 その時、後方から声が飛んできた。


「おーい! 勇者様! もう一人の仲間も揃ったか?」


 振り返ると、神官、戦士、魔法使い――

 最初の勇者パーティが、そこにいた。


 全員、若い。

 誰も死んでいない。

 世界は…巻き戻っている。


「なあ……お前、本当に何も覚えてないのか?」


 勇者が聞くと、青年は真剣な顔でうなずいた。


「気づいたら、ここにいた。

 それに……なぜか分からないが、胸がざわつく」


「ざわつく?」


「……お前を見ると、だ」


 勇者の背筋が、冷たくなった。




 その直後、空が歪んだ。


 黒い渦が生まれ、異様な魔力が溢れ出す。


「な、なんだあれは……!」


 神官が叫ぶ。


 渦の中から、**玉座に座った何か**が現れた。


「――我こそは、新たなる魔王」


 声は、若く、傲慢で、どこか未完成だった。


「世界は一度、壊れた。

 ならば、次は――私が支配する」


 勇者は、剣を握り締める。


「……なるほどな」


 彼は隣を見る。


 Lv.1の青年――かつての魔王。


「どうやら、お前の席を奪った奴がいるらしいぞ」


「……そうか」


 青年は、しばらく空を見上げてから、静かに言った。


「なら、取り戻しに行こう」


「正気か?」


「正気だ。理由は分からないが……」


 青年は、勇者を見て、少しだけ笑った。


「――あいつは、気に入らない」


 勇者は、ため息をついた。


「……まあ、いい。どうせ俺は、流される人生だ」


 こうして――

 魔王(Lv.1)は、勇者パーティに加わった。


 事故の真相を探すために。

 新たな魔王を倒すために。


 そして、かつて世界を壊した勇者が、もう一度“世界を救う”ために。

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