なくてはならないもの

ヨモギ メイジ

なくてはならないもの

私の家には、サンタがきたことはない。新年にお年玉をもらうことも、誕生日にケーキを食べることもなかった。

けど、クリスマスの日には母が『ジングルベール、ジングルベール!』といつもは出さない大声で歌っていたし、お正月にはいつも寝たきりなのに『これが寝正月ってやつ?』と冗談を言ったり、誕生日には『生まれてきてくれて、ありがとう。』と言って私の小さい時の話を長々と聞かせてくれた。

お祝い事のときは、生まれてきてからずっとこんな感じで、私はこれを当たり前だと思っていたし、私も楽しんでいた。だから恥ずかしく思ったり、母に対し恨めしくなることもなかった。


小学3年生の冬休み明けに、クラスの友達から


すずちゃんはクリスマス、何貰ったの?


と聞かれて、初めに浮かんだのは単純な疑問だった。

クリスマスにはいい子のもとにサンタさんがきて、プレゼントを置いていく。

知識としては知っていたけれど、サンタさんなんてものは実在しない人物であり、だからクリスマスプレゼントなんてものも貰えるものだとは思っていなかった。実際、私の家にサンタが来たことはなかった。


だから、純粋に気になって聞いた。サンタさんってほんとにいるの?とか、みんなはプレゼントをもらってるの?とか。


私がもっともっと純粋だったら、『私がいい子じゃないから、サンタさんは来てくれないんだ。』なんて考えていたかもしれない。けど、流石に自分の家が裕福かそうじゃないかくらいはわかっていたし、なぜ自分にだけサンタさんが来てくれないのかも大体予想がついた。


私はなぜかものすごく腹が立っていた。それは、私以外の子たちがプレゼントをもらっていることや、豪華なケーキを食べていることに対してではなく、それをわかっていて黙っていた母親や、そうとは知らず能天気に楽しんでいた自分に対して腹が立った。


私はこの怒りを母親にぶつけた。なんで言ってくれなかったのとか、私を騙していたのとか、プレゼントとかケーキのないクリスマスなんかやる意味がないなんてことも言っていた気がする。

こんなことを言うと、言い訳になってしまうかもしれないが、私は別に母親を貶めるためにこれらの言葉を放ったわけではない。ただ、恥ずかしかった。それは自分の生まれた家庭と他の家庭を比べて、より一層自分の家庭の貧乏を認識したからと言うのもあったし、友達にそれがバレてしまった恥ずかしさもあったと思う。何より、そんな自分の置かれている環境を理解しながらも、こんなわがままなことを考えてしまう自分が恥ずかしかった。そんな恥ずかしさを私は、母に向けてぶつけてしまった。

一通り騒いだあと、母は静かに、私に言い聞かせるように語った。


すずちゃん。ママね、すずちゃんが生まれてきた時、本当に幸せだった。私のお腹の中から生まれてきた小さな子。その小さな手のひらに指を乗せたら、キュッと握り返してくれる。本当に、人生でこんな幸せなことはないってくらい幸せで。だからママね、その時に決めたの。決して裕福じゃなくて、辛い思いもさせてしまうかもしれない。けど、そんな私の元に生まれてきてくれたこの子だけは、何がなんでも幸せにするって。

すずちゃんは、そのお友達のお話を聞いた時に、恥ずかしかったの?羨ましいって思ったの?

…うん、そっか。じゃあ、それはママが悪いね。ごめんなさい。でもこれだけは信じて欲しいの。ママはね、すずちゃんに恥ずかしく思ってほしくて、お祝い事してたわけじゃなくて、すずちゃんに楽しんでほしくて歌ったり、笑ってほしくて変なこと言ってみたり。すずちゃんに、生まれてきてよかったって、ちょっとでも思ってほしかったの。こんなのはママのわがままだけどね。

…確かにこのお家は、貧乏って思われちゃうかもしれない。みんなとおんなじようにはできないかもしれない。けどね、ママは何をするかじゃなくて、どう思ったのかが大切だと思うの。満足するようなイベントじゃなくても、すずちゃんが楽しいって思ってくれたのなら、ママはそれで幸せなの。


その時は母の言葉に納得できなかった。私を騙してたってことは変わらないし、言葉だけで自分の全ての感情を飲み込めるほど大人でもなかった。


…元々体が弱かった母は、私が高校生になる頃にこの世を去ってしまった。

その時は悲しいと言う感情よりも、碌な親孝行ができなかったと思った私は、すごく悔しくて涙していた。

今になって、母に対する一番の親孝行は、私が元気に育つことだったのかななんて思うようになったが、その答え合わせはもうできない。


毎年、母の日にはカーネーションをお墓の前に供える。

もう、この世の母はいないけど、こうやって母の日を祝う。

そうすればきっと、母は喜んでくれるって思うから。


私にとってそれがいちばんの幸せだから

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