第5話 経営産業調査室:対馬調査官の記録

 商務経営省は通商産業省と農林水産省を解体、再編した省だ。一九七五年、第三次世界大戦後、混乱状態の日本を立て直すためという名目で行われた大規模省庁再編。商務経営省はそのときに設立された。

 特別内部部局制度はそのときに外局庁を増やしすぎないようにするために作られた制度だ。今やそれが省を統べるオカルトの司令塔とは、誰がそうなると思っていただろうか。いや、そうなるように仕組まれていたのか? 私は無駄に歴史の資料を漁っている。

 私の属する大臣官房 経営産業調査室は商務経営省の特別内部部局だ。各省には基本一つは特別内部部局が設置されている。


対馬つしまさん、こちらにおられましたか」


 私は資料から視線を上げる。内省の資料室に現れたのは淡路あわじだ。


「何かありましたか?」


「こちらを見てください」


 そう言って一つの紙を見せてくる。


 ————・————

  【拡散希望!】

 日本政府は隠している!

 日本政府は隠している!

 真実を探せ!

 真実を探せ!

 我々を見つけろ!

 我々を見つけろ!

 真実を拡散しろ!

 真実を拡散しろ!

 嘘つきを見つけろ!

 嘘つきを見つけろ!

 我々は待っている!

 我々は待っている!

——日の入りラヂオ——

 ————・————


淡路あわじくん、これは?」


 なんて幼稚なビラだ。単純に繰り返すだけの、考える意味すら与えない。自分たちだけは真実を知っているとの優越感に浸りたいだけの、活動家らしいビラだ。

 そして、大した情報もない。“日の入りラヂオ”。確か反日本的活動を行う団体の一つだったはず。


「小さな印刷会社を摘発した際に、依頼されたものだと言っていました」


 小さな印刷会社はよくこういう団体の依頼を受けてしまうことも多い。大きい企業なら調査するんだがね。


「これはもう、刷られたのか?」


「いえ、それがわからないのです」


 それは困った。これは不適切情報の不拡散条項に抵触する可能性がある内容だ。まあ、不適切情報に該当するかは個人的な見解でしかないから、それこそ、ちゃんとした協議を行うべきだろう。


「それで、第三主任経営産業調査官傘下の調査官に何を求めているのかしら?」


 第三主任経営産業調査官は企業支援の調査を主たる任務としている。私の所属するのはその主任の傘下だ。


「第四主任経営産業調査官傘下の調査官として依頼です。企業支援の名目で類似事例を検索してほしいのです」


 第四主任経営産業調査官は産業監督を主とする。そちらからの依頼か。


「これは正式なものですか? それとも非公式で?」


「私がここ資料室で話している。その事実でわかりますでしょう?」


 ああ、非公式なのか。だが……。


「このビラのことは聞いてまわっていいんですね」


「ええ、出所さえハッキリさせなければ大丈夫です」


 まあ、しょうがないだろうけども、ビラの情報拡散を手助けしているようで、少し嫌だった。

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