焼肉勇者

日月のぞみ

第1話

 火・風・水・土。世界を脅かす脅威が現れた際に現れる4人の勇者が持つとされている力だ。私たちのパーティーリーダーは『火』に選ばれた勇者――エンジ。


 世界の支配を目論む悪の魔王討伐を目標に掲げ、世界を救う旅に出た。……のが二カ月ほど前のことである。


 私たちは、問題に直面した。

勇者が……動かないのだ。食ノ国『ボウイン』から。数日前に食べた魔物食がやたら気に入ってしまったようで、連日近所の魔物を狩っては王と焼肉に勤しんでいる。


 お陰で私たちのレベルは右肩上がりなのだが、少しずつ成長が遅くなっていくのを感じる。もうそろそろ次の街へと出るべきなのだ。それを――


「おー! アイリスじゃーん! お前も肉食う?」


 左手の串を私に差し出し、微笑む。

この勇者は……私たちがどれだけ困っているか分からないのか。バカが。


「おお、僧侶殿であったか、ご苦労じゃのう」


 お前もお前なのだ。王様、連日肉ですよ。朝・昼・晩、全部肉。飽きましょうよ。老体には重すぎるはずなのに……!


「あ、王様それまだ焼けてないですよ」


 エンジの剣が火をまとい、飛ばした斬撃が王の肉を焼く。それはもう、こんがりと。


「これでよし!」


 こいつ……伝説の剣を。世界を救う力でバーベキューしやがった。


 いや最初はさ、私だって「エクスカリバーでバーベキューしてんだけど〜。も〜! ばかだなぁ!あははははははっ――」てな感じで、別に良かったのよ。でもさ、もう1週間経つわけ。


 流石にムカついてきたのですよ。私も。

美人僧侶ともてはやされ、品行方正、国色天香と謳われたアイリスちゃんも、「ばか」が「バカ」になるくらいにはイラついているのです。


「……勇者様」


「ん、何? モツ食べ――「食べません」


「この旅の目的、なんでしたっけ?」


「あはは、ばかだなぁ、魔王討伐だろ?」


「スッー……ですよね」


「たりめーよ」


「じゃあ、最近は何してましたっけ?」


 瞬間、勇者の目が泳ぐ。

カメラのピントを合わせるように、瞳孔が少し大きくなって、縮んだ。


「……近隣の魔物退治」


「焼肉ですよね」


「いやっ、食ノ国のみんなも凶暴な魔物に困ってるだろうし……これもっ、魔王討伐の一環というか、なんというか……」


「違いますよね?」


「……あ〜、いやその」


「目を合わせてください??」


「に、肉食べなよ、イライラ落ち着くぜ?」


「最近は狩ってきた魔物もその聖剣で捌いて王様と焼肉ばっか!」


 勇者と王の肩がビクリと跳ねる。

さっきから話の合間合間で隠れて肉を食っていたが、王よ、貴方も当事者なのだ。責任を取ってもらう。


「あなた、今みんなからなんて呼ばれてるか知ってます!?」


 エンジが眉をひそめて首をかしげる。

なるほど、知らないか。教えてやろうじゃん


「紅蓮の勇者エンジ?」


「焼肉勇者チャッカマンですよ!! ここ最近王様と肉焼いてばっかじゃないですか、わかるでしょ!? 普通!」


「え? あ、そ〜お? そっかぁ……へへ」


 ……なぜ誇らしげにする。

肉を焼くだけで世界を救う素振りがない事を揶揄されてんの! バカにされてんのよ!


「それに、王様も王様です!」


「え!? ワシ?」


「今民からなんて呼ばれてるか知ってます!?」


「食ノ国の王ベルベラ?」


「焼肉キングですよ!!!」


「ね? 嫌でしょ!? 分かったら早く旅に出ましょうよ!」


「 「えー……」 」


 双子か貴様ら……。


「なっ、おいチャッカマン!肉を焼くな肉を! 戻れ! ほら!」


 しかし、押しても引いても体は動かず、美しい姿勢を保ち、網から肉を裏返す。畜生っ!肉体は勇者そのものかっ!


「……そうだ、王様! 王様は嫌ですよね? こんな、チェーン店みたいな名前……」


「そうか、そんなに親しまれておったか……それは、それは、ほほほ!」


 おい、クソジジイ! テメェ肉食ってるだけで仕事してねぇて揶揄されてんだよ! とっとと仕事しろテメェら!


「肉は飽きたのかのぉ……」


「あ、魚なら肌に良いらしいし、どうだ? アイリス?」


「こンの……」


 私の拳が音を立て握られてゆく。こいつら……何も分かってない。もう時間がないのだ。既に『水』と『土』の勇者は死亡。『風』の勇者は行方不明になっている。


 信じたくは無いが、今現在、こいつが人類の希望なのだ。信じたくは無いが。

とにかく、私たちパーティーだけでなく、人類が焼肉勇者の焼肉停止を望んでいるのだ。


 なんなら、近頃食ノ国でも現状を悲観し、労働をしない若者が増え始めている。それは王も認知しているはずだし、この現状維持では困るのはみんなそうなはず……。


「いや、待ってください」


「ん? やっぱ肉食――「食べません」


「なんじゃ僧侶殿、やはり肉を――「食べません」


「王様、知っていますよね? 現在、他3名の勇者が事実上死亡しており、勇者様……つまり、エンジに世界の命運がかかっていることを」


「うむ、無論だ」


「え!? 他死んだの!? ヤバいじゃん」


 この勇者は……


「王様、この国にも、最後の勇者が焼肉しかしなくなった事から絶望した若者達が労働を辞め、酷い者だと自殺に及んでいる事実、確認していますね?」


「……無論だ」


「……まじで?」


「なのに、なんで勇者様を引き止めるのですか?」


「それはだな……」


「ふははっ、それは――」


メキメキと音を立て、人間のガワが変容し始める。人の王が、魔の王になろうとしている。


「それは、明らかだ。私が魔王軍幹部、暴食のベルゼブブであるからである」


 先ほどまで皿に盛られていた肉たちには、蝿が群がり、その集団が、おぞましい"それ"の降臨を祝う。


「え、あ? 敵なの?」


 ……バカが


「んじゃ、殺して次の街行くか」


 火。辺りを包み、ハエを塵に変える。

反撃の隙を与えず、敵の首をサイコロ状に切刻む。焼肉パワーだ。


「ぐぁあああああ!!!」


 王は、地にのたうち回り火をかき消そうともがく。そして、二……三メートル程離れた時、羽が開く。跳躍。しかし勇者、逃さない。焼き肉で鍛えた跳ぶ斬撃で羽を散らす。


 落ちた王。キュウと鳴いては数十の足を蠢かせ、死から逃げる。勇者、胴を分断。

今まで食べた魔物が、消化液と共に溢れる。

次第に弱くなる動き。……勝利であろう。


「アイリス……ごめん」


「エンジ……さん」


「え? なんか距離ない」


「いや、気のせいよ」


「そう?「そう。絶対に」


「そっ……か、とにかく今までごめん!」


「……ばか。早く次の街いくよっ!」


 これは、歴代最強の勇者、エンジに関する伝説の一つである。後に魔王を討伐し、焼肉チェーン店「焼肉勇者」を経営する事となるのは、また、別のお話。

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焼肉勇者 日月のぞみ @hituki-nozomi

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