英雄破り?


俺は寝室で、頭を抱えていた。

この屋敷と財産を守りつつ、

英雄から逃げる方法はないか。

……あるわけがない。

そう思いながら部屋を見回すと、

本棚の奥に、一冊の古い日記があった。

『英雄になるために』

――バスタルのものだろう。

ページを開くと、文字がびっしりだ。

・自己犠牲

・見返りを求めない

・すべての責任を負う覚悟

同じ言葉が、何度も書かれている。

さらにページをめくる。

・もっと早く動くべきだった

・英雄なら、こうすべきだった

……反省ばかり。

向上心の塊かよ。

半分ほど読んだところで、

胸が痛くなり、日記を閉じた。

そのとき、一枚の紙が落ちる。

「火は火として、灰は――」

A4一枚分の、意味深なポエム。

異世界では、こういうのが流行ってるのか。

バスタルも、案外可愛いところがある。

俺はメモを日記に挟み、本棚に戻した。

――トントン。

扉を叩く音。

「失礼します」

ミーナが入ってくる。

「なんだ」

「お客様が来ています」

「誰だ」

「英雄候補様です」

……は?

英雄候補?

まさか、道場破りならぬ英雄破りか?

俺が弱いとバレたら、

王や貴族の前で――処刑だ。

全力で追い返す。

「ミーナ、後ろで援護しろ」

戦うのは、俺じゃない。

ミーナだ。

意を決して、扉を開ける。

バスタル力――凄みと威圧感を全開にする。

「俺を誰だと――」

……思って……

…………子供?

身長130センチくらいの赤毛の少年。

生意気そうな目。

英雄候補って、子供なのか。

油断はできない。

異世界は年齢=実力じゃない。

「貴様、なぜ我が屋敷に来た」

低く言い放つ。

すると少年は、

いきなり地面に肘をつき、深く頭を下げた。

「すまねぇ、師匠」

……師匠?

「弟子として情けねぇが、

 どうしても助けてほしい」

弟子。

一気に安堵する。

……いや、待て。

屋敷の前で、

子供が英雄に土下座している。

通行人の視線が痛い。

やばい。噂が広まったら終わる。

俺は慌てて少年の手を取り、立たせた。

「……中で話そう」

屋敷へ招き入れる。

――まさか。

英雄の弟子。

しかも子供。

しかも土下座案件。

めんどくさい予感しかしない。

ほんと、

俺は英雄から逃げたい。

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