第2話 プラトン ─2500年燃え続ける復讐の炎─

ソクラテスが毒杯を飲み干した、あの日。

法廷の外で、拳を握りしめて震えてた若者がいた。


その男の名はプラトン。


誰よりもソクラテスを敬愛し、師事した男だった。


ソクラテスが死んだとき、同時に彼の中でも何かが死んだ。


そして同時に、何かが永遠に燃え始めた。

彼の手には、ソクラテスのバトンが握られていた。


なぜ俺たちは「完璧な勇気」を知っている?


戦場で震えて逃げた兵士も、


裏切られた恋人に捨てられた人間も、


誰も完璧な勇気を見たことはない。


それでも、魂の奥底で「これが本当の勇気だ」とわかる瞬間がある。



プラトンは叫んだ。


「それはこの世界にないからだ!完璧なものは、別の場所にある!」


その場所にだけ、本当の勇気がある。

本当の美がある。

本当の正義がある。


彼はその場所に名前つけた。


イデア


と。



僕たちが生きてるこの世界は、全部偽物。

イデアの、歪んだ影。

粗悪なコピー。

下手くそな模倣品。


だからプラトンは許せなかった。

ソクラテスから受け取ったバトンを強く握りしめた。


「民主主義ごときに、ソクラテス先生を殺す資格はない」


師は「民」という名の群衆に殺された。


真実などどうでもいいと叫ぶ、知恵のない多数に殺された。



だから彼は吠えた。


「国家を動かすのは、無知な民意じゃない。

イデアを直視できる者だけが、王になるべきだ」



これが哲学王だ。


これは理想じゃない。

復讐だ。


ソクラテス先生を殺したこの世界を、

焼き尽くし、

新しい国家を立てる。


それがプラトンの生涯の戦いだった。



だから彼は学校を建てた。


「アカデメイア」と名付けた、魂の闘技場を。


後に大学の起源となるアカデメイアの門の上に、彼はこう刻んだ。


「幾何学を知らぬ者、この門をくぐるな」


冗談じゃない。


中途半端な覚悟の者は来るな。


20年、30年、死ぬほど鍛える。


数学、弁証法、天文学──


すべてはイデアを見据える目を得るため。


ここから哲学王を生む。


必ず生む。

それがソクラテス先生への弔いだ。



そしてついに。


一人の怪物が現れた。


プラトンが「こいつこそ次代の王だ」と認めた、唯一の弟子。



だがその男は、静かにこう言った。



「先生、イデアってどこにあるんですか?

見えないし、触れないものが、どうして世界を説明できるんですか?」


万学の祖、アリストテレス──


その人だった。



(続く)

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