ハーフエルフの従兄として
えちの瀬亜
第1話
その白く透き通った生糸のように白い肌を初めて目の当たりにしたのは、忘れもしない。
中学3年生の1月にあった伯父の葬式に参列したときだった。
正直言うと、僕はこの式に参加することには気乗りしていなかったのだ。
高校受験をひと月後に控えているというのもそうだけれども、おじさんに関する僕の思い入れが特別強いわけではなかったことがその理由の多くを占めていた。
おじさんにあったのは遠い過去の記憶で、最近めっきり交流がなかったところに突如訪れた訃報。悲しいとか淋しいとかそういった感情は湧いてこなくて、とにかく驚くばかりであった。
あの人はまだ40代だったはずだ、と。
それからすぐに通夜の用意が始まって、気持ちの整理とか、昔よくしてもらった時の思い出を集めるとかそういった心づもりもさせてもらえないまま、当日の式を迎えることになった。
自分ぐらいの希薄な関係の人間は、どのようにして故人と向き合うべきなのだろうか。
悩みながらも会場に入ると、その戸惑いが丸ごと吹き飛んでしまうぐらいの出来事が起こった。
彼の眠る棺桶の最も近い席に座る二人の女性の姿を目にした瞬間のことだ。僕はその二人から目が離せなくなってしまったのだった。
二人の肌はとても白かった、真っ白だった。
その肌があまりにまぶしすぎるから、身にまとっている礼服の黒がやけに引き締まって見えて、聡明な印象を抱いた。けれども、その純白の肌が故に、二人の目じりにはくっきりと泣きばれた赤い跡が残っていて、二人が平常心ではないことが手に取るように分かった。
長いブロンドヘアーの上からトークハットをかぶった華奢な女性と、その隣で車いすに乗ったまま泣き続けている、母の特徴を色濃く受け継いでいる少女。
彼女たちが、伯父さんの妻と娘であるらしかった。
おじさんの妻子を見たのは今日が初めてで、それは血のつながった妹である僕の母さんにとってもそうであったらしい。彼が結婚したことはなんとなく耳にしていたようだけれども、親戚や家族に対しておじさんはその人たちの姿を見せようとはしなかった。
とはいえ実際に目にすると、どうしておじさんが彼女らを隠そうとしたのか分からなくなる。それぐらいきれいだった。
僕の知ってるおじさんなら、この二人を自慢せずにはいられないはずなのだけれど。
奥さんの方は、いくつなのだろうか。
30前半、下手したら20代なのではないかというぐらいとてつもなく若々しい人で、今座っている席からでは、耳を覆い隠すほどの長い髪とトークハットではっきりとその容貌を確認することはできない。
しかし、キリリと整った目元に高い鼻、それと小さくまとまった唇。わずかばかりに見えたそれらがすべてが高水準で、まるでこの世の人だとは思えないくらいの魅力を放っていた。
対する女の子の方も、実年齢が分からないという点で女性と同じであったかもしれない。立ち振る舞いには幼さが残っているけれども、見た目はそれよりちょっぴり大人びているように見えたのだ。
彼女こそ、ずっとうつむいたまま泣きじゃくっていたから素顔ははっきりと見えてはいないが、あの女性の子供とあらばある程度の美貌は保証されていると言って差し支えない。しなだれる長い髪の間から見えた横顔から考えても、そのことは覆らないと考えられる。
少女は車いすに座っていた。
生まれつき足が悪いのだろうか、使い込まれた車いすに座りながら動かせる上体をこれでもかとねじらせて、悲しみを表しているようだった。
母はその傍らで、用意されたパイプ椅子に腰かけながら、必死にその娘を慰めようとしていた。けれど彼女自身だって心中穏やかなはずもなく。
トークハットの向こうから時折見える翠色の瞳からは、娘に負けず劣らず大粒の涙が流れ出ていた。
こんなにきれいな人とかわいい娘さんを残して逝ってしまうなんて。
僕はおじさんを恨めしく思った。
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