第2話 反撃の手立て

 翌日の学校。

 私は謙也とも会わず、紗羅とも顔を合わせないまま、自分の席に着いた。すると、スマホ画面が光った。


【綾瀬紗羅(あやせ・さら)】

『言っとくけど広めても無駄だから笑』


 胸の奥が、ずっと冷たい。

 私にはもう何もない――そう思うほど、今まで積み上げてきたもの全部を否定された気分だった。


 それでも。


 この痛みだけは、私だけのものにしない。

 受けた分の見返りは、必ず受け取らせる。

 あの二人には、私が味わった苦しさを"同じ温度"で返す。


 そう決めた瞬間、昨日のことが脳裏に浮かぶ。

 あの出来事の直後、震える手で"ある人"に電話したことを。


「……絶対に返り討ちにしてやる」


 呟いた、そのタイミングでスマホが震えた。

 画面を見下ろすと、届いていたのは一件のメッセージ。


『大体の状況は把握したわ。生徒会に来れないかしら?』


 私は、頼れる人がもうこの人しかいないと思っていた。

 だからこそ、昨日、全部が壊れたあの瞬間に――私はこの人へ連絡したのだ。



 ※ ※ ※


 生徒会室の前。

 私は廊下の冷たい空気の中で、扉を前に立ち尽くしていた。


 ノックしようと拳を上げ、扉に触れかけた、その時――


「あら。先に来ていたのね」


 聞き覚えのある声。

 私は反射的に振り向く。

 そこにいたのは、長い黒髪を揺らした風華だった。

 背筋の通った立ち姿。清楚で、凛としていて、近寄りがたいほど整った空気。


 ――春波風華。


 私には、もうこの人しかいなかった。


「風華……」


「話は聞いてるわ。中で話しましょうか」


 風華とは、昔から縁があった。

 小学生――いや、もっと前。保育園の頃から、私に気を配ってくれていた。家も近所で、遊ぶことも多かった。

 私にとって"困った時に最後に思い出す人"が、風華だった。


 風華と一緒に生徒会室へ入る。

 扉が閉まった瞬間、張り詰めていた糸が切れた。


 私は、堰を切ったように事情を話した。

 途中からは、言葉が乱れて、声も震えて、視界が滲んだ。


 初めて寝取られた悔しさ。

 信じていた友達に裏切られた痛み。

 自分が惨めで、情けなくて、でも許せなくて――。


 風華は、何も言わずに最後まで聞いてくれた。

 慰めの言葉よりも、ただ"受け止める沈黙"が、今の私には救いだった。


「分かったわ。事情は大体把握した。……よく我慢したわね」


 風華の声は落ち着いていて、私の中のぐちゃぐちゃを少しだけ整えてくれる。


「それで、柚葉ちゃんはどうしたいの? 注意する? それとも……復讐?」


「見返してやりたいです」


 即答だった。

 迷いは、もうない。


「私はそんな軽い女じゃないってことを……そんな、ちょろい女じゃないってことを……!」


 言いながら、胸の奥が熱くなる。

 強がりじゃない。これは本心だ。

 嘘や、まやかしなんかじゃない。


 風華は一瞬だけ目を細めて――それから、ふっと笑った。


「そう。なら、いいわ」


 その笑みは優しいのに、どこか鋭かった。

 頼もしさと、怖さが同居している。


「私に考えがあるわ」


 その一言で、私の中に小さな灯が点いた。

 涙の代わりに、火が残ったみたいに。

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