【悲報】彼氏を親友にNTRられた私、なぜか学園の美少女たちに激推しされて逃げ場がない件 ~元カレ? 誰でしたっけ?~

沢田美

第1話 私ってそんな女?

「なぁ、柚葉(ゆずは)」


「なに? 謙也(けんや)」


 春風が心地よく吹く四月。

 私たちは、周りが呆れるほどお互いに夢中だった。


 私は謙也を愛していた。謙也も私を愛してくれている――少なくとも、そう信じていた。


 その日も、いつも通りデートをした。

 ショッピングモールを手を繋いで歩いて、お気に入りのカフェでランチをして、夕方には公園のベンチで並んで座って。


 楽しかった。幸せだった。


 でも、ほんの少しだけ――物足りなさもあった。


 「愛してる」「好き」って言葉はたくさん交わすのに、それ以上の関係には進まない。キスだって、軽く唇が触れ合う程度。

 謙也は紳士的で、私を大切にしてくれているんだと、自分に言い聞かせていた。


 ――でも、それは私の勘違いだった。

 彼が求めていなかったのは、"進まないこと"じゃない。

 私だった。



 ※ ※ ※


 新学期が始まって、私たちは二年生になった。

 クラスは別々。でも、これからも変わらず愛し合っていける。そう思っていた。


 謙也とは別のクラスになったけれど、親友の紗羅(さら)とは同じクラスになれた。

 紗羅とは中学からの付き合いで、お互いの恋愛相談もするような仲。謙也との交際を最初に報告したのも紗羅だったし、デートのたびに「どうだった?」ってLINEが来るのも彼女だった。


「柚葉、また謙也とデートしたんでしょ? 今度は私も混ぜてよー」


 軽口を叩き合える、大切な友達。

 少なくとも、私はそう思っていた。



 ※ ※ ※


 新学期三日目の夜。


 家でベッドに寝転がり、SNSを眺めていた時。

 謙也からLINEに動画が送られてきた。


 何気なく再生した私は、その場で固まった。


 画面に映っていたのは――裸の謙也と、同じく裸で寄り添う私の友人・紗羅だった。


「……は?」


 何これ。謙也……だよね? でも、どうして?

 え、待って。これって――。


 頭が真っ白になる。思考が追いつかない。

 そんな私に追い討ちをかけるように、新しいメッセージが届いた。


『ごめんねー!✨ 柚葉の彼氏、寝取っちゃった! by紗羅』


「な……何言って……」


 声が震える。理解を、脳が拒絶する。


 私の謙也が――大切な友達だった紗羅に、奪われた?


 つい昨日まで、同じ教室で笑い合っていた紗羅が。

 私の恋愛を応援してくれていたはずの紗羅が。

 どうして――。


 受け止めきれない現実。理解したくない事実。

 それでもスマホの画面は、容赦なく真実を突きつけてくる。


 私は震える指で謙也に電話をかけた。


 プルル、プルル――。


 コール音が一度鳴った直後、即座に切られた。


「……ふざけ……んな……!」


 二人で築いてきた関係も、紗羅との友情も、全部嘘だったっていうの?

 今まで積み重ねてきたもの全てを、否定されたような気分だった。


『どういうこと? 嘘なら嘘って言って』


 必死に送ったメッセージに、すぐ返信が来た。


『嘘じゃないよ☆ 今日からもう謙也は私のモノだから💕』


「ふざけるな! 何言ってんの、紗羅!」


 怒りで身体が震える。

 それでも私はスマホから目を離せなかった。


 その後も、何度も送られてくる動画。

 謙也と紗羅が――私には見せたことのない表情で、絡み合う姿。


「……ふざけんな……!」


 私はスマホを投げ出したい衝動を必死で堪えた。


 明日、絶対に謙也と話す。

 そして紗羅にも――。

 これは悪質な冗談なのか、本気の裏切りなのか。確かめてやる。



 ※ ※ ※


 翌朝。


 ほとんど眠れないまま迎えた朝。

 怒りと疑問を胸に、私は校門をくぐった。


 周りの生徒はいつも通り笑い合っていて、何も変わらない日常がそこにある。

 でも、私だけが違った。私の世界だけが、昨日の夜から止まったままだ。


 校舎へ向かう途中の廊下で、人だかりができているのが見えた。


「おはようございます、春波先輩!」

「今日も素敵です!」


 中心にいるのは、長い黒髪を綺麗に整え、清楚な雰囲気を纏った少女――春波風華。

 二年生でありながら生徒会会長を務める彼女は、学年トップの成績を誇り、誰に対しても分け隔てなく優しい人柄で、学校中から慕われている。


「おはよう、みんな。今日も一日頑張りましょうね」


 柔らかな笑顔。

 私にはそれが、別世界の出来事みたいに見えた。


 あんな風に笑えていた頃が、私にもあったはずなのに。

 今の私には、あの輝きが遠すぎる。


 私は人混みをすり抜け、足早に教室へ向かった。


 謙也になんて言う? どんな顔で会う?

 そして紗羅には――。


 そんなことを考えながら教室のドアを開けた、その瞬間。


 そこにいたのは――私の彼氏を奪った張本人、紗羅だった。


 自分の席でスマホを弄っている紗羅を見た途端、身体が勝手に動いた。


 いつもなら「おはよー!」って言える相手。

 でも今日は違う。


「ねぇ、紗羅」


 憎しみを押し殺した声で呼びかけると、紗羅はゆっくり顔を上げた。

 まるで私が来るのを分かっていたかのように、余裕の表情で。


「昨日のコレ、どういうこと?」


 私は昨夜送られてきた動画と写真を、紗羅の目の前に突きつけた。


 紗羅は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。

 ――けれど次の瞬間、にやりと口角を上げた。


「やっぱり見てたんだ。そのスマホの通りだよ? 私が奪ったの、柚葉の彼氏」


「アンタ……今、自分が何言ってるか分かってんの? これ、全部学校中に広めてやるから」


 友達だと思ってた。信頼してた。

 なのに、どうしてそんな平気な顔ができるの?


「やってみれば?」


 紗羅は涼しい顔で言ってのけた。


「でも、それやっても状況は変わらないよ?」


「……それ、どういう意味?」


「さぁ? どういう意味だろうね」


 小馬鹿にした態度に、怒りが沸騰する。


 私が恋愛相談していた時も、紗羅は笑って「謙也くん優しいよね」って言ってくれていた。

 あれも全部、演技だったっていうの?


「まあ、周りに言いたければ言えば? どうせあんまり広まらないから」


「……アンタ、何か仕組んでるの?」


「さぁ、どうでしょう?」


 不敵な笑みを浮かべたまま、紗羅は教室を出て行った。


 一人取り残された私は、握りしめたスマホが悲鳴を上げそうなほど、ただ強く、強く握りしめた。


 中学からの友情も、信頼も、全部裏切られた。

 これが、私の親友だと思っていた紗羅の本性――。


 ふと、さっき廊下で見た風華の笑顔が脳裏をよぎる。


 あんな風に、誰かを信じて笑える日が、私にまた来るんだろうか。



 ※ ※ ※


 昼休み。


 私は謙也を探して校内を歩き回った。

 クラスにはいない。いつもいる中庭にもいない。


 ――どこにいるの、謙也。


 校舎裏へ足を運ぶと、聞き覚えのある笑い声がした。


「マジで? 謙也、紗羅とやっちゃったの?」


「ああ。昨日な」


 その声は、間違いなく謙也のものだった。


 私は壁の影に身を隠して様子を窺った。

 謙也は友人の男子数人と一緒に、楽しそうに話していた。


「柚葉にバレたんだろ? 大丈夫なのかよ」


「別に。どうせあいつ、何もできねーよ」


 心臓が凍りつく。


「冷たくね?」


「冷たいも何も、あいつマジでつまんねーんだもん。デートもただ手繋いで歩くだけ。正直、付き合ってる意味なかった」


 下品な笑い声が混じる。


「でも柚葉って可愛いじゃん? もったいなくね?」


「顔だけだよ、顔だけ。中身は真面目で堅物で退屈。あんな女、お飾りにしかならねーって」


 言葉が、胸に刺さって抜けない。


「つーかさ、柚葉って俺のこと本気で好きだったんだろうな。マジでウケる」

「うわ、それ言っちゃう?」

「だって事実じゃん。ちょっと優しくすればすぐ信じ込むし、チョロすぎて逆に飽きた」


 笑い声。

 視界の端が滲むのに、涙は出なかった。熱いのに、冷たかった。


 愛していたのは、私だけ?

 私が信じていたものは、全部嘘だった?


「どうせ泣いて戻ってくるだろうけど、もう相手にしねーよ。紗羅の方が百倍マシ」


「謙也、お前マジで鬼だな」


「鬼? 現実見えてるだけだって」


 笑い声が遠ざかっていく。


 私は壁に背中を預けたまま、膝から力が抜けるのを感じた。


 優しかった謙也。愛してくれていたはずの謙也。

 全部、嘘だった。


 私は、ただの暇つぶしだった。



 ※ ※ ※


 放課後。


 ぼんやりと下駄箱へ向かいながら、頭の中には謙也の言葉が反響していた。


 ――お飾り。

 ――チョロい。

 ――退屈。


 私って、そんな風に見られてたんだ。


 上履きを履き替えようとした時、隣から声が聞こえた。


「春波先輩、今日もお疲れ様でした!」


「ありがとう。あなたも一日頑張ったわね」


 風華だった。後輩の女子生徒と穏やかに会話をしている。


「先輩みたいになりたいです。いつも凛としていて、誰にでも優しくて……憧れます」


「そんな、私なんてまだまだよ。でもね――大切なのは、自分を信じることだと思うの」


 自分を、信じる。


 その言葉が胸に落ちた。

 私は謙也を信じすぎて、紗羅を信じすぎて、自分のことは何も見えていなかった。


「あれ? 柚葉ちゃん? どこか元気なさそうだけど大丈夫?」


 風華の声が、私に向けられていた。


 顔を上げると、心配そうな表情と目が合った。


「あ、いえ……大丈夫です」


「そう? 無理はしないでね。辛い時は、誰かに頼ってもいいのよ」


 優しい声に、喉の奥が詰まる。

 涙が溢れそうになるのを、私は必死で堪えた。


「ありがとうございます。でも……私、まだ何もしてないんです」


「何も?」


「はい。泣いて、怒って、それだけで……何も変わってない」


 風華は少し驚いたように瞬きをして、それから柔らかく微笑んだ。


「それなら、これからよ。何かを変えたいなら――自分から動かなきゃ」


 そう言って、風華は校門へ向かって歩いていった。


 私はその背中を見送りながら、拳を握りしめた。


 ――私って、そんな女?


 チョロくて、つまんなくて、何もできない女?


 謙也にそう思われて、紗羅に馬鹿にされて、それで終わり?


「……違う」


 小さく呟く。


 私は、そんな女じゃない。

 少なくとも――これからは、そうじゃない。


 私はスマホを取り出して、ある人物の名前をタップした。


 謙也も紗羅も、まだ私のことを何も知らない。


 本当の私を――これから、見せてやる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

あとがき

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

「先が気になる!」という方はフォロー&☆☆☆で応援をお願いします!

このあと13時と14時にも二話更新します!

応援が次回更新の励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る