第21話 【推し変】「非処女は解釈違いだ!」と暴れる厄介オタク魔物に、グループ唯一の『処女』を差し出したら即落ちしました

 俺の人生は、何もない空っぽなものだった。 富山県のホタルイカ漁が盛んな漁村で生まれた。その村の役場職員の息子、それが俺だった。


 村では漁師の息子たちが、その筋肉を見せつけながら女を片っ端からさらってた。 そんな俺にとって、唯一の光。それが『スターライト・ガールズ』のセンター・メグだった。


「メグにいつでも会いたい」


 そんな思いから、村を飛び出した。県立大学を卒業したら役場職員になってほしい、そんな親の希望を不意にすることなんてどうでもなかった。


 『わあ! いつも来てくれてありがとう!』


 握手会で彼女が向けてくれる笑顔だけが、俺の生きる意味だった。 彼女は天使だ。トイレなんて行かないし、男となんて付き合わない。 守らなきゃいけない、ガラス細工のような純潔の象徴。


 だか、ら。  認めない。絶対に認めない。


 目の前にいる、あんな……男に抱きついて、頬を赤らめて、だらしない声を出している女は、俺のメグたんじゃない!  俺のメグたんは、もっと清らかで、男のことなんて何も知らないはずなんだ!  あんな「開発済み」の顔なんて、見たくないッ!!


『チガウ……チガウ……ッ!! メグタンハ……ソンナ顔シナイ……! 非処女ハ……死刑ダァァァァァッ!!』


 俺の絶望が、嫉妬が、ドス黒い泥となって体を形作る。 許さない。俺の「理想」を汚したあの男(リア充)を。 そして、あんな「メスの顔」をして男に媚びている――”中古”のアイドルを、俺の手で修正(コワ)してやる。


◇◇◇


「ひぃッ……! く、来るぅ!」


 ネビュラ本社ビル、2階層。 俺たちの前で、黒い泥の巨人が暴れまわっていた。  他のグールたちが「ハーレム幻覚」で成仏する中、数体だけは、逆に怒りを増幅させて合体し、巨大な『厄介オタク・ゴーレム』に変貌していたのだ。


「ユ、ユウト様! 幻覚魔法が効きません! 弾かれます!」

「『解釈違い』とか叫んでるわよ!? なんなのコイツら!」


 ミナとレナが攻撃魔法を撃つが、泥のボディがそれを吸収してしまう。 物理も魔法も通じない、強固な「拒絶」の結界。  


 これは手強い。自分の信じたい世界以外を認めない、狂信者特有の精神障壁だ。


「……あ、あの声……覚えてる」


 俺の背中で震えていたメグが、青ざめた顔で呟いた。


「いつも最前列にいた人だ……。 『ホタルイカ食べたことある?』って聞かれた……『俺の実家は漁師の家だ』って……。 それに……私のこと、『処女じゃなきゃ死ぬ』って……握手会でずっと言ってた人だわ……。」


「なるほどな。こじらせた『処女厨』の成れの果てってわけか」


 俺は冷静に分析した。 彼らが拒絶しているのは、俺の幻覚魔法そのものではない。 幻覚の中で、メグが俺に対して「恋する顔(メス顔)」を見せたこと――それが、彼らの理想(妄想)と食い違い、逆鱗に触れたのだ。


 そして何より、先程の救出劇で、メグは俺の魔力によって「開発」されてしまっている。 悲しいかな、オタクの嗅覚は鋭い。メグから漂う「男を知った女の匂い」を敏感に感じ取り、拒絶反応を起こしているのだ。


『メグタンヲ……汚スナァァァ……ッ!! 中古……中古……! 許サナイィィィ!!』


 ゴーレムが巨大な腕を振り上げる。 その拳には、歪んだ愛と殺意が込められている。


「ユウト様、どうしますか!? 今のメグさんを見せれば見せるほど、逆効果です!」

「一度下がって体制を……!」


 レナとミナからの提案だ。


「いや、逃げる必要はない」


 俺は一歩前に出た。 厄介オタクが求めている商品は「純潔」だ。なら、話は早い。在庫がなければ、別の商品を提案すればいいだけの話だ。


 俺は、後ろに隠れている5人のアイドルたちを振り返り、大声で尋ねた。


「おい、お前ら! この中で『処女』はいるか!?」


「「「はぁぁぁぁぁぁぁッ!?」」」


 この緊急事態に、あまりにデリカシーのない質問。 アイドルたちが絶句し、レナとミナが「最低……」という目で俺を見る。 だが、俺は大真面目だ。


「急げ! もう一度聞く! 帝に改造される前、男を知らなかった奴はいるか!?」


 俺の剣幕に押され、アイドルたちが顔を見合わせる。 メグは気まずそうに目を逸らす(知ってる)。他の3人も「あー……」「その……」と口ごもる。  


 やはり芸能界、色々あるらしい。 だが――…ひとりだけ。  


 一番端にいた、小柄でおどおどしたショートカットの子が、おずおずと手を上げた。


「あ、あの……。わ、私……は……その……」


 ハナ。グループの最年少で、妹キャラで売っていた子だ。 彼女は顔を真っ赤にして、消え入りそうな声で言った。


「まだ……誰とも……手も繋いだこと、なくて……」


 たしか、ゴーレムたちがぺ〇ス(のようなもの)を肉棒として武器にしたとき、「私、処女だから、ほんもの(のペ〇ス)見たことないけど、こんなに長いの!?!?」と叫んでいるメンバーがいたことを俺は思い出した。


「(あれは君だったか……)よし! 採用!」


 俺はガシッとハナの肩を掴み、前に押し出した。


「え、えぇっ!? ゆ、ユウト様!?」


「ハナ、お前が今日からあいつにとってのセンターだ。 あいつらの『理想』になってやれ!」


 俺はハナの背中に魔力を流し込む。 戦闘用ではない。彼女の持つ「清楚さ」「未通のオーラ」を100倍に増幅して発散させる、特化型支援魔法。


「――スキル発動! 【純潔強調・聖女の輝き(ヴァージン・オーラ)】ッ!!」


 カッッッ!!!!


 ハナの全身から、雪のように白く、混じりけのない光が放たれる。 それは、男を知らぬ者だけが持つ、絶対的な聖域の輝き。


「い、行ってこいハナ! ファンサだ!」

「は、はいぃっ! ……あ、あのっ!」


 ハナが泣きそうな顔で、暴れるゴーレムの前に立ちはだかる。泥の拳が振り下ろされる――寸前、ピタリと止まった。


『ア……?』


 ゴーレムの動きが止まる。 彼らの「処女探知センサー」(※そんなは能力はないが)が、目の前の少女に反応したのだ。


「わ、私……何も知りません……!  キスも、デートも……男の人の連絡先も、ひとつも入ってないんです……!」


 ハナが恥ずかしさで涙目で訴える。  


 その姿。その匂い。そのオーラ。 どこからどう見ても、紛れもない「新品(サラ)」だ。


『オオ……オオオオ……ッ!?』


 ゴーレムの全身が震える。 彼らの視線が、穢れてしまったメグから、目の前の無垢なハナへと釘付けになる。


『清ラカダ……』

『汚レテナイ……』

『コレハ……俺タチガ求メテイタ……聖女(アイドル)……!』


 俺はすかさず、ハナに耳打ちした。


「ハナ、トドメだ。あいつに『貴方だけを見てる』って言え」

「えっ、そ、そんな……恥ずかしい……」

「世界のためだ! 言え!」

「うぅ……! ……お、お兄ちゃんたちだけが……ハナの、一番だよ……♡」


ズキュゥゥゥゥン!!!!


 ハナの上目遣いと、破壊力抜群のセリフが、オタクたちの心臓(コア)を撃ち抜いた。


『グオオオオオオオオオオッ!!!!!』

『ハナタン……! ハナタン……ッ!!』

『メグタンハ……モウイイ……』

『俺ノ推シハ……今日カラ……ハナタンダァァァァァッ!!』

『ワカラセ……ワカラセシテアゲルゥゥ!!』


 推 し 変 完 了。


 彼らの中で、「非処女のメグ」という解釈違いの存在が消え、「処女のハナ」という新たな信仰対象が爆誕した瞬間だった。 彼らの泥の身体が、真っ白な光に包まれていく。  


 それは、新しい推しを見つけたオタク特有の、憑き物が落ちたような晴れやかな昇天。


『アリガトウ……』

『コノ世ニ……マダ……希望ハアッタ……』

『ハナタン……結婚シテクレ……(成仏)』


 パァァァァァァ……ッ!!  巨大なゴーレムが、光の粒子となって崩壊した。  最後に残ったのは、ハナへのファンレター(のような遺言)と、綺麗な魔石だけ。


 その一部始終を見ていたコメント欄が、再び爆発する。


『ちょwww 推し変で解決したwww』

『切り替え早すぎて草』

『オタクの鑑だな』

『ハナちゃん処女確定演出キターーー!!』

『メグちゃんの立場よwww』


「……ふぅ。なんとかなったな」


 俺は汗を拭った。 横では、役目を終えたハナがへたり込み、そして……メグが呆然と立ち尽くしていた。


「あ、あれ……? 私……捨てられた……?」


 メグが、かつてのファンがあっさりと自分を見限った事実に、ショックを受けている。 俺は苦笑して、メグの肩を抱いた。


「気にするな。顧客のニーズが変わっただけだ。  ……それに、お前には俺がいるだろ?」


「! ……はいっ♡ ユウト様ぁ……♡」


 メグが一瞬で機嫌を直し、俺に抱きついてくる。 一方、新しいセンターとして覚醒(?)したハナも、頬を染めて俺を見上げていた。


「あ、あの……ユウト様……。 私……まだ誰のものでもないんですけど……ユウト様になら、その……もらってほしい、かも……なんて……」


「「「はぁぁぁ!?」」」


 他のアイドルたちと、レナ・ミナが嫉妬の声を上げる。 どうやら、厄介オタクを成仏させた代償に、俺のハーレム内での新たな火種を生んでしまったようだ。


「……ま、それは後だ」


 俺は騒がしい美女たちを宥め、天井を見上げた。 これで、この「ネビュラ・ダンジョン」の2階層を守る番人は全て消えた。


「待ってろ、帝。 お前の歪んだ性癖も、俺たちの『愛』で全部上書きしてやる」


 俺たちは、光の粒子が舞う階段を、力強く踏み出した。


~~~~~~~~~~

#19~#21 お読みいただきまして、ありがとうございました。


まさかの「推し変」で解決!

オタクの愛は重いですが、切り替えも早いのです。(真理)

そしてハナちゃん、ちゃっかりユウト君にロックオンしてますね……。


「続きが読みたい!」「ハナちゃん可愛い!」と思った方は、

ぜひ【★】で応援&作品フォローをお願いします!


明日も祝日のため、1日3話投稿になります!

1月12日 14:20/17:20/19:20に公開いたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月12日 14:20
2026年1月12日 17:20

【放送事故】「君の支援魔法、卑猥だからクビ」と追放された俺、捨てられたSランク美女を『絶頂強化』したら、喘ぎ声が全世界に流出して伝説になりました。~いいぞもっとやれ~ 👿米澤淳之介⚔ @yone0806

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画