フードコートが大好きな令嬢の食いしん坊と食べログな日々~私にはこれしかない~

一ノ瀬 彩音

第1話 フードコート①

私はフードコートが大好きな侯爵令嬢のミーナ。

小さい頃に食べた病院食のご飯だけはどうしても納得できず、こっそり屋敷を抜け出してレストラン街で子供ながらに安い料理を食べあさったことがきっかけで、食べ物への敬意を抱くようになっていたのです。

ですから、幼い頃から貴族の義務として入れられていた趣味の悪いフリルだらけのドレスも嫌いでしたし、毎日食べたいものも自由に食べられない日々なんて想像もしたくありませんでした。

なので、学園に入学した今は毎日クラスメイト達から一線を引かれつつも、唯一の憩いの場であるフードコートに入り浸り、好物を食べているのです。

それこそ、平民みたいだと罵られようと、関係ありません。

私の人生は私自身のものです。

誰にも文句は言わせない!

そう思って過ごしていましたが……。


今日もいつものように友人たちとフードコートへ向かい、席に着きます。

最近、やたらと視線を感じます。

ふと、隣の席を見てみると、黒い覆面を被った人物がそこにいました。

ミーナは気になりつつも、そんなことよりも早く食事がしたかったので、気にすることをやめました。

そして、今日の目星であるラーメンに手を伸ばし、口に運びます。

そうすると、突然、隣の覆面の人が私の腕を掴みました。


「ちょっと!  何してるのよ!」


私は思わず大声を出してしまいました。

そうすると、覆面の人は私に向かってこう言いました。


「申し訳ございません……」


覆面の下から聞こえてきたのは、驚くほど透き通った声だった。

目の前の人物、恐らく女性は深々と頭を下げると、私の腕を離し、自分のポケットから一枚の紙を取り出した。


「あなたをずっと見ていました。あなたの食べる姿を……」

「え?」


困惑する私をよそに、彼女はその紙を差し出す。

そこには丁寧な文字で書かれたある種の計画書のようなものが描かれていたのです。


~美食探究委員会結成計画~


目玉マークやハートマークが散りばめられたその計画書には、こんな内容が記されていた。


1.ミーナ・フォン・ハイドラー侯爵令嬢を名誉顧問として迎える

2.王都中のフードコートおよび飲食店を調査し、優良店リストを作成

3.その結果を社交界に広報し、“美しき舌”を持つ者が真の文化人であること知らしめる

4.最終目標:貴族社会における“美食至上主義”の確立


「なんなのコレ……!」

読み終えた瞬間、私は思わず吹き出してしまったのです。

冗談にしては大掛かりすぎるし、そもそもフードコートから出禁にされてもおかしくないくらいだし、何より……。


「食べてる人をずっと見てた? しかも、その理由が“美しき舌”を持ってるかどうかって!  今の私は間抜けな貴族ってことじゃない!」


ミーナは思わず叫んだのでした。

しかし、覆面の女は動じないのです。

それどころか、ミーナの怒りをさらに煽るような行動に出たのだ。

彼女はミーナの食事している姿を写真に収めたのです。

そして、その写真を私に見せてきたのです。

そこには、私が美味そうにラーメンを食べている姿が写っていました。

しかも、私が食べていたのは、写真に写っているものと全く同じもの。

つまり……。


「ちょ、ちょっと! これ隠し撮りじゃない!」


ミーナは慌てて写真を奪い取ると、スカートのポケットにしまい込んだのです。

そうすると、覆面の女はこう答えたのです。


「はい、そうですが何か?」

とまるで悪びれた様子もなく言う彼女に私は驚きました。

(この人は一体何を考えているのでしょう?)

そんな疑問を抱きつつも、私は反論しました。


「ダメに決まってるでしょ!  なんでそんなことするのよ!」


そうすると、彼女はこう返してきたのです。


「……だからですよ」


その一言に込められた意味を理解する前に、覆面の女は続けて言いました。


「あなたは本当に美しい」


そう言いながら、彼女は私に近づいてきたのです。

その行動に恐怖を覚えながらも、彼女の手が私の頬に触れた瞬間、私は思わず目を瞑ってしまったのです。

しかし、予想に反して何も起こりませんでした。

恐る恐る目を開けてみると、そこには誰もいなかったのです。

その代わりに一枚の紙切れだけが残されていました。


~名誉顧問、就任おめでとうございます~

そこにはただ一言だけ書かれており、その下には地図のようなものも描かれていました。

どうやら、この場所に来いということでしょうか?

私はそう思いつつも、立ち上がってその場から立ち去ったのでした。

それからしばらくして、フードコートでの食事を終えた私は、その紙切れに書かれている場所へと向かっていました。

そこは王都でも有数の高級料理店が並ぶ通りの一角にあるフードコートだったのです。

店内に入ると、既に覆面の女は席に着いており、私を見るなり立ち上がり、恭しくお辞儀をしました。

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