2:ペテン師を殺しに来た狐娘

「……ふむ、なるほどな」


 広く豪華絢爛な自室にて本を捲る。

 メルステラは俺の頼み事で出ており、俺はかれこれ三時間ほど本を読みふけっていた。

 この世界の文字についての知識は皆無であったが。

 メルステラに書いて貰った適当な自分の印象について書いた文。

 長文も長文であったが、それを声に出して呼んでもらった後。

 それを受け取り自分で読み……この世界の文字と文章の法則性は分かった。


 後は適当な理由をつけて本を持ってこさせればそれで済む。

 広い部屋の中には無数の本が山積みであり。

 そのほとんどがウロボロス関連であったが……まぁいい。


 世界の成り立ちや主要な国々。

 偏った視点からの国々の文化や風習など。

 そういったものが分かっただけでも上々だ。


 後は冒険者なるものが使っているような教本。

 この世界に存在する魔物や鉱石。

 魔術やルーンなるものなど……知るべき事はかなり多い。

  

 全ての本を読み終える。

 そうして、近くにあった山に本を載せて眉間の皺を揉む。


 予想通り――此処は地球ではない。


 異世界であり、龍人族以外の種族も存在している。

 戦争も起こっており、差別や迫害もあった。

 混沌の世界であり、そんな世界ならカルトがあっても何ら不思議ではないだろう。


「そうだな……よし」


 俺は椅子から腰を上げる。

 すると、扉をノックする音が聞こえた。

 俺は入室を許可する。


「失礼します……っと」

「すまんな」

「い、いえ……お待たせして申し訳ありませんでした。ウロボロス様」


 扉を開けてメルステラが入室する。

 が、俺が頼んで即席で仕込ませた“ばね入りの床板”に少し足を取られていた。

 彼女からすれば、何故、扉の前にばね入りの床板を嵌めるかなどおかしいだろう。

 しかし、俺にとっては必要なものであり……51㎏か。


「……?」

「あぁすまん。少しな……して、収穫はどうだ?」

「はい、ウロボロス様の言う通り……信徒の中には、貴方様の事を疑うものが僅かながらにいるようです」


 メルステラは少しだけ怒りを滲ませている。

 が、それらの信徒の疑念は当然であり、寧ろ盲目的に俺をウロボロスと信じている彼女こそが異常だろう。

 俺はその報告を聞き終えて、それならばさっさと行動に移そうと考えた。


 俺は再び椅子に座り直し。

 メルステラに対して、信徒を順番にこの部屋へと招くように伝えた。

 すると、彼女は首を傾げながらも俺の命令に従い礼をしてから部屋を出て行く。


「……何処まで信用を勝ち取れるか……まぁ何とかしよう」


 俺はそんな事を考えながら、眼を細めて――にやりと笑う。



 ◇



「――ありがとうございました!」

「あぁ、存分に励め」

「はい! 失礼します!」


 信徒の一人が頭を下げて去っていく。

 これで、ほとんどの人間との会話が終了しただろう。

 肩を動かせば、さっと傍に立つメルステラが近寄り俺の肩を揉む……あぁぁ。


「流石です、ウロボロス様。まさか、信徒一人一人の“過去”を見て、“未来”へのアドバイスを送るとは」

「ふぅん、アレくらい神として当然だ」


 俺が信徒を呼んでやったことは簡単に言えば――“占い”だ。


 プロがやっているようなものであり。

 心理学なども織り交ぜたものになるな。


 相手の人相や手相。

 喋り方や趣味趣向。

 思想など細かい事まで聞いてやれば。

 そこからその人間が辿って来た足跡やらは何となく分かる。

 どれくらいで挫折を経験し、どれほど大きなトラウマがあるか。

 最高の出来事やら今何で困っているかなど。

 その他にも、触診をしたりすれば、体の何処に問題があるかも分かる。


 本を読んでいたからこそ、この世界の医学なども大体わかった。

 民間療法が主であり、ちゃんとしたものであっても外科手術までには至っていない。

 “魔術”と呼ばれるものと“奇跡”と呼ばれる神の力。

 それらで病気や怪我を治すのが主であり、科学的なアプローチはあまりなさそうだった。


 故にこそ、現代社会で生きていた俺は。

 魔術や奇跡が使えない分。

 それらの知識を使って、大体の問題を解決してやった。

 本の中には運の良い事に薬草などが書かれたものもあった。

 細かい成分まで書かれており、メルステラに頼んでこの教団にある薬草や毒草を全てかき集めさせた。


 大量にあったのはカルトだったからこそだろう。

 それら一つ一つを取り、口に含んだりして成分の確認を己の肉体でし。

 そこから、日本に自生する植物との共通点を見つけ。

 即席ではあったが調合してみた。


 簡単な湿布薬や解熱剤。

 後は栄養剤であったりなどは簡単だ。

 後は、痛みを和らげる為の鎮痛剤なども毒草から調合できた。


 信徒たちは不健康のものが多い。

 カルトであるからこそ、食生活も乱れていたのだろう。

 俺は医者のように食生活の見直しなどを命じ。

 関節痛や手足のしびれを訴える人間たちには、決まった時間に俺の元を尋ねるように指示した。

 簡単なリハビリテーションであり、それくらいなら俺にも出来る。


 その他には、恋愛相談やら不眠症など。

 的確なアドバイスと治療法を伝えて……まぁこれでいい。


 手応えとしては十分だ。

 完全ではないにしろ、問題が解決していけばおのずと信頼は得られるだろう。

 そう考えながら、メルステラの賛辞を受け入れて――扉が蹴り破られる。


「邪魔する――お?」

「……! 貴方!!」

「……ほぉ」


 部屋の中に入って来たのは――美女だ。


 それも異種族の美女で。

 頭からはキツネのような耳が生えて、赤い袴のようなものの尻の部分からはもふもふの真っ白な尻尾が生えていた。

 真っ白な髪は後ろで結んでいる。

 赤い瞳はとても挑戦的であり。

 他の信徒とは違い白装束ではなく、“青白いアングステン鉱石”で作られた鎧のようなものを着ていた。

 手足は服の上から見ても分かるほどにがっちりとしている。

 が、身長が百八十はありそうでプロポーションは完璧だ。

 恐らく、鎧の下は豊満なバストで……ふむ。


「――把握した」

「……あぁ? チッ……にしてもこいつがウロボロスか……はっ、違うな。偽物だろ、お前?」

「貴方!!! 何て事を!!!」

「よい。許す……我が名を呼ぶ獣人の娘よ。名を名乗ってはくれないのか?」

「テメェに名乗る名なんざねぇよ、ボケが。いいからさっさと――死んでくれや」


 彼女がそう言った瞬間に。

 光と共に虚空から槍が出現し――金属音が響く。


「……ほぉ」

「……テメェ、何しやがる」

「それはこっちのセリフよ」


 俺の前で美女二人が得物をぶつけ合っていた。

 一方は血のように赤い禍々しい“ルーン文字が刻まれた”槍で。

 もう一方は黒くはあるが、何かの骨で作ったような変わった形の双剣だ。

 互いにオーラのようなものを発しており。

 それがバチバチと弾けて、床には亀裂が走る。


 俺は愉快だとそれを見つつも。

 このままでは殺し合いに発展するだろうと考えて――手を叩く。


「「……!」」

「やめよ。我が子たちの殺し合いなど――余は許さぬぞ」

「う、ウロボロス様。ですが、この者は!」

「……お前、余が偽物だと、そう言ったな? つまり、信じられぬからこそ、教団の為、排除しようとした……違うか?」

「あぁそうだよ。決まってんだろ? ただでさえ、俺たちはハグレなんだ。テメェのような何の力も感じない奴を信用するほど俺は馬鹿じゃねぇ」


 メルステラと獣娘は互いににらみ合いながら話す。

 俺はそれを聞き、それならばとある提案をした。


「お前、武芸に自信があるな。それも槍を使った戦闘……速さも自慢か?」

「あぁ? 何が言いてぇ。命乞いならもっと」

「――1回」

「……あぁ?」

「1回だけ相手をしてやろう。自慢の一撃で余を殺して見せよ。何の力も無いペテン師だ。殺せなければお前は余を認めざるを得ない……そうだろ?」


 俺は笑みを浮かべながら提案する。

 すると、女は野性的な笑みを浮かべて「上等!」と言う。

 メルステラは戸惑っていたが、その目に俺への疑いはない……さて。


 先ほどの一撃。

 槍を出す瞬間は辛うじて見えたが。

 攻撃の瞬間は全く見えなかった。

 気が付けば、二人が目の前でぶつかりあっていたんだ。

 そもそも、俺は戦争も知らないイケメンであり。

 平和な国、日本の出身だ。

 スポーツなどの格闘は経験はあっても、本気の殺し合いなど知らない。

 それでも、俺が奴に一度きりの戦闘を許可したのは……まぁ懸けだな。


 死ぬかもしれない。いや、ほぼ死ぬ。

 一手で決まるんだ。掠めただけでも死ぬ。

 あの攻撃を見たからこそ、今の俺と目の前の女には果てしない差があると分かった。

 真面に戦えば絶対に勝つ事は出来ない相手で――それがどうした?


 勝てないから、負けるのは確実……そんなものは当然だ。


 数多の競争、幾たびの死闘。

 数字との戦いであり、結果が全ての社会。

 命を懸けた戦いのようなものであり。

 何度も勝てない戦いはあった。


 諦めるのが普通。

 が、俺の辞書に諦めるという文字は無い。

 勝つことが全て。故にこそ――勝てるようにすればいいだけの事だ。


 俺は山積みの本の中から適当に本を取る。

 そうして、メルステラに戦いに向いている場所に案内するように伝えた。

 彼女はしっかりと頷き俺を案内し。

 俺の背後から、女はニヤニヤと笑いながらついてくる。


 情報だ。

 見えるもの、聞こえるもの。

 全てを感じ、全てを記憶し――勝利へ繋げよう。

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