恋愛の行方

二ノ宮恒一

本編

 私には好きな人がいる。

 クラス一のイケメンな勇輝くんだ。

 今日、私は彼に告白する。

 髪もセットして、目元もぱっちり。体型良し、口臭良し。

「じゃあお母さん、行ってきます!」

「行ってらっしゃい、気をつけるのよー」

 私の足は学校に向かいたくてうずうずしていた。早く勇輝くんに告白しなくちゃ。

「なぁ?」

「びっくりした、何?」

 幼馴染の和也が寝癖をつけて視界に入ってきた。なんて間の悪いやつ。

「何ってことはないだろ。学校に登校してるだけだ」

「あっそ、話しかけてこないで」

「そういえば、今日の二時限目ってなんだっけか?」

「話聞いてた? ……社会よ」

「社会かあ。あの先生怖いから嫌いなんだよな」

「あんたの好みなんて知らないわよ」

 こいつらいっつもそう。私の恋路を邪魔するだけ邪魔して。あんたみたいな奴が私の人生に介入するから、いつまで経っても付き合えないのよ。

「ところでさ、この前、佐々木のやつが面白いことを言ってて……」

「――あのさ」

 私の言葉にきょとんとする和也。

「私、今話しかけられたくないんだけど」

「……いや、それで、佐々木のやつがさ」

「話聞いてた!?」

「最後まで聞けって、ここからが面白いところで……」

「――もう知らない!」

 私は和也を振り切って、さっさと学校へ行った。あんなやつ、放っておくに限るんだから。

 そして放課後。誘っていた勇輝くんが校舎裏にやってくる。勇輝くんは目の前。私の言葉を待っていた。

「それで、話ってなに?」

「そ、それは、その……わ、私、勇輝くんのことが……」

「――何してんの?」

「うわぁ、え、な、か、和也!?」

 私の側には和也が立っていた。何食わぬ顔で私に話をかける和也。ふざけんなよお前。

「ねぇ、わかってる? あんた、今ここに居てほしくない人一位なんだけど!」

「……まあ聞けって、佐々木の話」

「まだ続けるの!?」

「……もう帰っていい?」

「ああ、勇輝くん、帰らないで」

「佐々木がな、言ったんだよ」

「ああ……もう! だから、あんたはここから居なくなってよ!」


 ――ピッ。


 私には好きな人がいる。

 クラス一のイケメンな勇輝くんだ。

 今日、私は彼に告白する。

 髪もセットして、目元もぱっちり。体型良し、口臭良し。

「じゃあお母さん、行ってきます!」

「行ってらっしゃい、気をつけるのよー」

 私の足は学校に向かいたくてうずうずしていた。早く勇輝くんに告白しなくちゃ。

「なぁ?」

「びっくりした、何?」

 幼馴染の和也が寝癖をつけて視界に入ってきた。なんて間の悪いやつ。

「何ってことはないだろ。学校に登校してるだけだ」

「あっそ、話しかけてこないで」

「――佐々木の話」

「は?」

 佐々木って、誰のこと。そんな話もした覚えがない。こう言うわけのわけのわからないやつだから、和也は嫌い。

「佐々木は言ったんだ。『告白しなきゃよかった』ってさ」

「……だから、佐々木って誰よ」

 和也はそれだけ言って、私の元から去っていった。本当に訳がわからない。

 私はさっさと学校へ行った。あんなやつ、気にする必要もないんだから。

 そして放課後。誘っていた勇輝くんが校舎裏にやってくる。勇輝くんは目の前。私の言葉を待っていた。

「それで、話ってなに?」

「そ、それは、その……わ、私、勇輝くんのことが……す、好きなの!」

「……そっか。それで?」

「え、えっと、だから私、勇輝くんのことが好きで……」

「――まさかそれだけ? いや、マジかよ。めんどくせー。ほんと迷惑なんだけど」

 勇輝くんは心底呆れたようにため息をついた。

「わ、私、勇輝くんのためなら、なんだってするから、だから私と付き合――」

「……なんでもするの? ならさ、ここでスカート捲れよ。あ、できるならパンツも脱いで欲しいなあ」

「ひ、ひぃ、な、な、なんで!?」

「いや、なんでもできるんだろう? 俺だってサッカーの大会近いのに、わざわざここまで来たんだし。それくらいの報酬があっても良くない?」

「――わ、わかった」

 私は勇輝くんの命令を何でも聞いた。どんなにエッチで私が辛いようなものでも、犯罪じゃなければ何でも。

 いつしか学校を卒業した。私は勇輝くんとの子供を孕っていた。

「勇輝くん、赤ちゃん……できちゃった」

「は、堕ろせよ。じゃ」

 電話はあっという間に切られた。きっと、他の女の人と遊んでいるんだ。私はもう用済みなんだ。

「なあ……」

「……なに? 私を笑いに来たの?」

「雨の中じゃ、お腹の子が死んじゃうぞ」

 和也がやってきた。こいつの言葉でやっと、私が雨に打たれていることを知った。

「いいよ、だって勇輝くんは『堕ろせ』って言ったんだから。私はその命令に従う。ただ、従うだけ……だから」

 和也は隣に寄り添った。傘に私を入れてくる。

「い、いらないって!」

 私はその傘を払った。

「あんたはいっつもそう。私の言葉を聞きもしない! だから私は大っ嫌い……でも、私は私が、一番嫌い……」


 ――告白、しなきゃよかった。


 和也は頷いた。なぜかはわからない。

「……お前ってさ、ほんと馬鹿だよな。勇輝のやつはイケメンだけど、女を食うだけ食うクソ野郎だって知らずに告白して無様を晒してさ。ほんと、見る目ない女だよ」

「あんたに、あんたに何がわかるって言うの! あんたなんて……どっかに行っちゃえば……いい……のに」

 私は目を疑った。

「あんた、なんで泣いて……」


 ――ピッ。


 私には好きな人がいる。

 クラス一のイケメンな勇輝くんだ。

 今日、私は彼に告白する。

 髪もセットして、目元もぱっちり。体型良し、口臭良し。

「じゃあお母さん、行ってきます!」

「行ってらっしゃい、気をつけるのよー」

 私の足は学校に向かいたくてうずうずしていた。早く勇輝くんに告白しなくちゃ。

「なぁ?」

「びっくりした、何?」

 幼馴染の和也が寝癖をつけて視界に入ってきた。なんて間の悪いやつ。

「俺さ、いろいろ考えたんだよ。幸せって何かって」

「え、なに、哲学?」

 こんな時間のない時に哲学を話すなんて。こう言うわけのわけのわからないやつだから、和也は嫌い。

 幸せなんて、私が勇輝くんに告白した後にやってくる未来にしかないんだから。

「いろんなお前を見てきたんだ。辛そうに見えたけど、実は幸せだったのかなって。俺はお前のこと、よく分からないから」

「だから、何言ってんの? 自分語りなら、別のところで……」

「――でも!」

 急に大声を出す和也。びっくりする私。何なのもう。

「もう、考えない。お前のことを考えたって考えたって、きっと俺じゃ分からない」

「当たり前でしょ。ただの幼なじみで、赤の他人なんだから」

「だから、赤の他人じゃなくて……恋人になりたい」

「……は?」

 はああああああああああ?

「何言ってんの、あんた。馬鹿なの?」

「ああ、馬鹿だ! もっと良い方法だってきっとある。でも、六十四万五千二百四通りの果てで、お前を――佐々木を好きになったんだ! だから、俺に告白させてくれ!」

「はああああああ? あんた何言ってる訳、本当に訳わかんない」

「訳わかんなくてもいい、それでもいい。もし好きになれそうにないなら好きにさせる。俺はお前のことがよく分からない。おっちょこちょいで、勉強はそこそこで、右利きで、寝る時はいつもペンギンの抱き枕を抱えてて……」

「ち、ちょーっと待って。それ以上わたしの情報を公の場で公開するのはやめて!」

「と、とにかく、もっと俺はお前を知りたいし、知らなくちゃいけない。幸せを掴んでもらうためにも、俺がお前を知り尽くして、お前を幸せにするから、だから……!」

 は、恥ずかしい。な、何なのこの人。怖いって、怖すぎるって。もう……あーもう。

「っ――はぁ。なんなの、もう。わかったから、もうこれ以上、口を開けないで」

 和也は口を両手で覆った。

「ふふ、あははは。そこまでしなくてもいいよ。ほんと、おかしなやつ」

 和也は泣いていた。目から沢山流して、鼻水まで垂らして、本当に汚い嫌なやつ……でも。

「わかった。私も、少し、ほんの少しだけ、あんたが知りたくなった。好きかどうかは分からないけど、話し相手になってあげる」

「本当か!?」

「あ、口あけた。やっぱりやめよっかなあ」

「そ、それは無い……はっ、むぐっ」

 和也は濡れてぐちゃぐちゃな顔を両手で塞いだ。

「もう、それじゃ前見えないでしょ。本当しょうがないんだから。近くの公園で顔洗ってきなさいな……あーあ、一時限目は誰かさんのせいで遅刻かな」

 私は渋々、和也と一緒に行動した。

 華やかさも、美しさも、神々しさも何も無い。なのに、私は不思議と……。


 ――嫌な感じがしなかった。

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恋愛の行方 二ノ宮恒一 @Ninomiya_Koichi

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