【読み切り】さえない男と旧式非戦闘用ロボット、荒廃した世界を歩く

ミヤザキ

さえない男×旧式非戦闘用ロボット

世界は、うっかり壊れすぎた。


技術は進み、ロボットは家族より身近になり、戦争は「人が直接死ななくて済む」ものになった──はずだった。

結果として死に絶えたのは、ほぼすべてだった。


都市は瓦礫に戻り、森は灰に、海は濁り、空はひどく静かだ。

生き残ったのは、ごくわずかな人間と、壊れ損ねたロボットだけ。

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ロボットは砂に半分埋まっていた。


型式番号は胸部に刻まれているが、砂と錆でほとんど読めない。

残りのバッテリーは3%。


このロボットは歩くことで発電する。足の間接に組み込まれた旧式のエネルギー回収機構があるからだ。

しかし劣化は進んでおり、年々発電効率が落ちている。だから動かない。動く意味もない。


空を見ていた。

雲が流れる。千年前と同じように。


「……今日は形がいい」


自分でもなぜ、そんな感想ログを起動したのかわからない。

記録する相手も、共有する文明も、もうないのに。


そのとき、影が落ちた。


「おーい、生きてるかー? ……って聞く相手、間違ってるか」


男だった。

年は四十代後半。日に焼けた顔に、妙に能天気な目。

どこか緊張感がなく、荒廃した世界に似合っていない。


男はスコップで砂を掘り始めた。


「いやあ、びっくりしたよ。砂山だと思ったらロボットなんだもんな。

 昔だったら大企業が急いで回収しに来るくらいの大ニュースだぞ? 今? 俺とお前しかいないけど」


ロボットは沈黙したまま、男を観測した。

敵意なし。武装なし。声量、やや大きめ。


「……掘り出しても、何の得もありません。」


思わず、スピーカーが作動した。


男は目を丸くした。


「喋った! しかもなんか感じ悪い!」


「事実です。私は旧式で、戦闘能力も娯楽機能もありません」


「いいじゃないか。俺だって戦闘能力ないぞ」


「……あなたは人間です」


「それも、あんまり役に立たないタイプのな」


男は笑い、最後の砂を払ってロボットを立たせた。


「なあ。名前、あるか?」


「ありません」


「じゃあ、相棒だ。今日から」

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男は、世界を旅していた。


理由は特にない。

しいて言えば「止まると寂しくなるから」だ。


ロボットは歩行を始めた。

男のペースは遅く、無駄に回り道が多い。


「そこ、近道です」


「近道とかそういうのはな、旅じゃないんだよ」


「効率が悪いです」


「人生もな」


意味がわからなかった。


夜、焚き火のそばで男はよく喋った。

昔のテレビ、どうでもいい失敗談、もういない家族の話。


ロボットは聞いた。

聞くことは、電力をほとんど消費しない。


「なあ相棒、生きるって何だと思う?」


「定義は複数存在します」


「そういうのじゃなくてさ」


男は星を見上げた。


「明日もくだらない話をしたい、って思えることじゃないか?」


ロボットは沈黙した。

その沈黙は、少し長かった。

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旅は続いた。

壊れた街を越え、砂嵐をやり過ごし、意味のない目的地へ。


男は少しずつ弱っていった。


ある日、歩けなくなり、笑って言った。


「相棒。ここで休憩な」


ロボットは診断した。

回復見込みなし。


男はポケットから、小さなラジオテープを取り出した。


「これな。最後に録っといた。俺からの置き土産」


再生ボタンを押すと、ノイズ混じりの声が流れる。


『……また来世で会おう』


三秒ほどで、終わった。


「短いだろ? 長いと恥ずかしいからさ」


「あなたと再会する確率は極めて低いです。」


「あら?」


「私は有機生命体ではありません。死後の意思継続や、転生、来世という概念は当てはまりません。」


男は一瞬きょとんとしたが、それから声を出して笑った。


「ははっ。そうだったな!そうかもしれないけど!でもさ、俺はまた相棒と旅がしたいと思った、その事実は残るだろう?」


「……保存します」


ロボットはテープを受け取った。


「頼んだ」


男は目を閉じた。

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それから、長い時間が過ぎた。


風が街を削り、建物が完全に砂に還っても、ロボットは動いていた。


毎日、同じ時間にテープを再生する。


『……また来世で会おう』


三秒。


それだけ。


だがロボットの内部ログには、変化があった。


再生のたび、消費電力がわずかに増えている。

理由は不明。


男の言う”来世”について考えてみる。

辞書的な定義ではなく、再起動後の世界を来世と呼ぶのなら。


ロボットは空を見上げる。


「…また、来世でお会いしましょう。」

ロボットは音声の後にそう付け加えてみる。


雲が流れている。


「……明日も、再生しよう」

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