第13話 臆病王子

「私は、あなたたちと関わりたい」

言葉に出して、一乃は自分自身でも戸惑った。


どうしてここまで執着するのか──。


変人だらけのこの部屋は自分の素を隠さなくてもいい空間だと思ったからか。才能ある彼らが、このまま埋もれていくのは『もったいない』と思ったからか。その答えはまだ出せない。けれど、ここから立ち去りたくなかった。


「…何を言っている?引かなければ秘密をバラすと言っているんだよ?」

「…いいよ?」

「いいだって?」

「…いいよ!…勝手にバラしなよ!あー!!スッキリした!学校でいちいち隠さなくてよくなるし!学校生活が楽になるなぁー!」

今度は反対に一乃が賢に詰め寄る。もうヤケクソである。



「……僕は、君のことがわからなくなってしまった」

ポツリと賢が呟いた。


さっきまでの知的で整った態度が、見る見るうちに崩れていく。頭を抱え前髪をぐしゃぐしゃと掻く。

「え……?」



「教師に命令されれば嘘までつく真面目で権威に流されやすいつまり行動原理は正義感や価値観じゃない無難に波風立てず評価されることだそれが君のはずだそんな生徒が諦める正当な理由と静かな日常を与えられたら普通は引くはずだなぜ君は…」

一乃は目を見開く。賢は明らかに様子がおかしくなっていた。


「なぜ僕たちに執着するこの脅しでなぜ屈服しないなぜ…」

彼は頭を抱え、早口でブツブツとプロファイルを唱え続けた。


「権力への従順さを読み間違えたのか教師の命令がそんなに大事なのか違う…この子はこの子の意思で僕たちに歯向かっている……!なぜだ……!」

「ちょ、ちょっと、不死原くん…?」



賢はふらりと後ずさりする。

「ぼ、僕に近づくな!……初対面の人や、性格が読めない人は……に、苦手なんだ……」

すっかり昼間の臆病王子に戻ってしまった。今までの光景が嘘のようだ。



「…ちっ、いつものか、面倒だな」

画面越しの大夜が呟いた。

「このまま終わらせよう。完全に弱みは掴んだし、勝ちだろ。後は適当に納得させて帰らせれば……」

「ち、違う……!」

賢が反論する。


「従ってないじゃないか!脅しっていうのは、相手が屈してこそ成立するんだ。それなのに……!『バラされても構わない』なんて言われたら……っ、意味がないじゃないか!」

顔は青ざめ、冷や汗が伝う。賢の言葉はヒステリックに、そして弱々しく揺れていた。


「ここまで情報が揃っていて、なぜだ…。実際にSNSの分析は合致していた……なのに、分析しきれない……こんなこと初めてだ……ひひぃぃぃ……!」

一乃と視線が合った瞬間、賢はビクッと震えて、部屋の隅に丸まり、小さく身をすくめた。



「……あーーー!もう、もう終わり終わり!!」

密葉が大声をあげた。


「まだ登場は早かったか……。賢、大丈夫だよ〜、すぐ帰ってもらうからね。えっと、一乃ちゃん、今日はとりあえず帰ってもらってもいい?秘密は絶対バラさないから!」

異様な光景に一乃は唖然としつつも、ホッと胸をなで下ろす。



けれど……気になることが一つ。



「えっと、それなら……その……その絵は……」

ぴくっと、くまの着ぐるみが反応した。賢はまだ独り言を呟いている。亜衣が、とてとてと一乃のもとに歩み寄り、イラストをそっと差し出してくれた。


「ありがとう……!ほんとすごいね……絶対、大事にする!」


目を輝かせながら恭弥のイラストを両手で抱きしめる優等生。

照れてもじもじするくま、パニック状態の王子、そして状況をまとめようと必死な探偵。

そんな光景を見ていた大夜は、自室で1人吐き捨てた。



「……なんだ、このカオスな空間は」

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