不登校部

Y@Scientific Creator

第1章 白いカードと黒い声

第1話 空席の優等生

波風立てない。目立たない。普通に、無難に。



私立の名門。帝栄学園高等部2年2組。束原一乃つかはらいちの。整えられた黒髪、皺一つない制服。いつも通り。



数列の授業。教室に響くのはチョークの乾いた音と、先生の抑揚のない声。

生徒たちに背を向けたまま、先生は黒板に次々と数字を並べていく。いつも通り。



一乃の席の隣には、——誰もいない。

代わりに机の上にはノートPCとマイク、スピーカーが置かれ、録画カメラが作動している。

これも…いつもと同じ。



無人の隣の席からPCが反応し、スピーカーから声が響く。

『先生、疑問があるのですが』

数学教師である田島が嫌悪感を隠さずに視線をPCにやると、質問が続く。

『なぜこの数式が成り立つのか、背景を解説していただけますか?』

隣の席のフジワラが、授業で発言するたび、一乃は心臓がぎゅっと縮む。


「それは…高校の範囲ではないし、試験にも出ないし…今は覚えることが大事で」

『覚えることが大事であればなおさらです。試験に出なくても、丸暗記よりも理解してから記憶する方が近道では?人間の脳が、無意味な情報の羅列よりも、論理性のある情報の方が記憶としてとどめやすいのは言うまでもないでしょう。それとも解説できないということでしょうか?』

淀みなく並べられる論理的な言葉。


『それと、先ほど書かれた数式、間違っています』


この一連のやりとりは、もう何度目になるのだろう。クラスの何人かがくすりと笑い、数人は無言で顔を伏せる。

「また始まった…」「不登校部だよ…」「てか、先生も毎回論破されんなよ」という声。


一乃は動揺を顔に出さないように、唇をぎゅっと結ぶ。


いつも通りの、普通じゃない授業だった。

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