蝶
田中昂
蝶
蝶が飛んでいる。ひらひらと飛んでいる。菜の花の蜜を吸って、またひらひらと飛んで行く。
アイスコーヒーの入ったグラスの涙を、指でそっとなぞった。指が少し湿ったのが嫌で、急いでハンカチをポケットから取り出す。しかし、ハンカチは蝶になって飛んで行ってしまった。
蝶が飛んでいる。ひらひらと飛んで、今度は桜の蜜を吸いに行った。
カロンと柔らかい音を立てて、アイスコーヒーの中の氷が溶けた。ストローで数回クルクルとかき混ぜれば、ストローはタンポポになった。少し困って、もう一度クルクルとかき混ぜれば、タンポポは彼岸花に変わってしまった。仕方なく、ストローでアイスコーヒーを飲むのはやめて、家に帰ることにした。
家が燃えている。どういうわけか、燃えている。朝まではちゃんとあった家は、もうほとんど無くなってしまっていた。まあいいかと庭に行くと、育てていたナスがいい感じに焼けていた。しかし、醤油も箸も燃えてしまって使えないから、外に出た。
とても寂しそうな道があって、「明るい家族計画」だかなんだかが書かれた自動販売機の置いてある道だ。いつかはあそこも蝶になって飛んで行ってしまうのだろうか。
蝶が飛んでいた。ひらひらと飛んでいた。
蝶はいつかに吸った蜜に毒が含まれていたらしく、ピクリとも動かなくなっていた。
蝶 田中昂 @denntyu96noboru
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