最強の使い魔として異世界召喚された私、ジバク霊なのでのんびり死霊ライフを満喫する

倉辺るねる

第1章 初級死霊術師試験編

第1話 初めまして、ジバク霊です

 目の前の試験管に入っている液体は、ついさっき完成した不老不死の薬『ヨミガエール』。

 不死はまだ実験中だけど、不老効果は動物実験で確認済み。

 この発明ならノーベル賞は間違いないと思うんだ。


 特許料で大金持ちになれるのかな。

 超有名な大学から教授のオファーが来たりするのかな。

 芸能人やセレブに求婚されちゃったりするのかな……うへへ。


 記者会見では「人類の幸せのために研究を続けることが、私の幸せです」なんて答えて――


「杉井さん、俺たちそろそろ帰るよ」


「もえちゃんはまだ残るの?」


 突然後ろから声をかけられ、驚いて試験管を落としそうになる。


「え、あ……う、うん。もう少し……やって帰ろう、かな……」


 2人から顔をそらし、視線を泳がせながらしどろもどろに答える。


「そう? じゃあ先に帰るね。メリークリスマス!」


「メリークリスマス!」


「…………」


 眩しい。眩しすぎる挨拶。

 引きこもり陰キャコミュ障の私には、顔をそむけたまま軽く手を振るのが精いっぱい。


 今日は日本中のカップルが浮かれまくっているクリスマス・イブ。

 私は、同じ研究室のこの2人が2か月前から内緒で付き合っているのを知っている。

 はいはい幸せそうでなによりですね。

 どうせこいつらも今からどっかで食事でもして、それから……そのまま……


「くそ、リア充爆発しろ!」


 目の前の保管庫を思いっきり蹴り飛ばし、試験管をあおる。

 ぐいっ! ぷはーっ!

 ……あ、勢いで飲んじゃった。まあいいか。


 突然、パリン! と派手に割れる音が響く。

 保管庫の上に置いてた薬品ケースが落ちて、中身が飛び出してるっぽい。

 机の上の試験管やフラスコも割れて、なんだか怪しげな煙が立ち上ってきた。


「ヤバ……」


 次の瞬間、周囲が白く光り輝き、爆風が私の身体を吹き飛ばした。

 私、リア充じゃないのに爆死? 理不尽すぎるっ!


 キラキラと輝く光の中を飛んでいるような感覚。

 下に見えるのって三途の川?

 人生の最期は最愛の人に看取られたかったなぁ……

 結局、年齢イコール彼氏いない歴のまま死んじゃうのか……

 そういえばゲームのクリスマスイベント、まだクリアしてなかったな……


 ……えっと、ずっと意識があるのはなぜ?

 それに何か声が聞こえるような?


――ココニキテハダメ――


 我に返った瞬間、キラキラが消え目の前に現れたのは現実的な景色。

 誰かの部屋? と思ったのも束の間、ドゴン! と背中から後頭部に衝撃が走る。


「うわっ!」


「成功した?」


「っ…………!」


 誰かの声が聞こえるけど、あまりの衝撃と痛みにうめき声すら出ないし身体も動かない。

 どうやら壁にぶち当たった感じ。これって爆発のせい?


「なあ、どうなん?」


「多分、成功……してる」


「お前には見えるのか?」


「うん……黒髪の可愛い女の子で、白いコートと黒いスカート。それと……」


 コートじゃなくて白衣なんですけど。てか可愛い女の子って、まさか私のこと!?


 片目をこじ開けると、色白で銀髪の男の子が、褐色で茶髪の男の子に私の姿を説明してるっぽい。

 見た感じ中学生くらいの外国人だろうか、どちらも背丈は私より少し低いくらい。


 銀髪くんはなかなか私好みのショタ……幼さが残りながらも、整った顔立ちのお子様。

 それに23歳の大学院生を「可愛い女の子」って言うくらいだから、性格だってとっても良いに違いない。


「それと?」


「ピンクのパンツ穿いてる」


「マジか! パンツ見えんの?」


 前言撤回。「マジか!」は私のセリフだよ!

 そりゃ壁にもたれて膝を立ててるんだからパンツも見えるよね!

 恥ずかしい格好してるの気づかせてくれてありがとう。お姉さん泣いちゃう。


 銀髪くんは頬を赤く染めて顔をそらしている。

 「どこ? どこ?」と興奮気味にキョロキョロしてる茶髪くんに、銀髪くんは「そっちの壁際」とあらぬ方向を指さした。


 あれ、もしかして気を遣ってくれたのかな?


 ようやく落ち着いたので、何事もなかったようにスカートをはたきながら立ち上がる。

 銀髪くんはこちらを見てビクッと肩を震わせ、一歩後ずさった。

 隣の茶髪くんは銀髪くんの様子を不思議そうに眺めているだけなので、やっぱり私のことは見えてないっぽい。


 パンツのことはさておき、まずは状況把握しなきゃ。

 ランプと蝋燭の明かりで見える室内には、机とベッドが2つあって木造校舎の保健室とかログハウスのような印象だ。

 開け放たれた窓の外には星空が見える。


「え、と……ここはどこ?」


「え? こ、言葉を……しゃべった!?」


「なに言ってんだ? ただの死霊が話すわけないじゃん」


 ちょっと待って。こいつ私のこと「死霊」って言った?

 失礼な茶髪だな。見た目ちょっと陽キャのヤンキーっぽくて苦手なタイプだし。

 よし決めた、私は小動物系の銀髪くんとだけ話そう。

 引きこもりのコミュ障舐めんな。


「私の、名前は……杉井すぎいもえ。日本人、なんだけど……言ってること、分かり、ます?」


 普段知らない人とは話さないからカタコトっぽくなっちゃった。

 銀髪くんはこくりと頷くと、緊張した表情で私の方に一歩近寄る。


「僕はニコラ・フェザール。彼はルームメイトのダリル・キューブリックです」


「急にどうしたニコ?」


「あ、ごめんダル。自己紹介してる。彼女の名前はスギイモエ・ニホンジーンだって」


「イモエって変な名前だな」


 それ、学生時代のトラウマになってるあだ名だからやめてぇ!


「名前は『杉井もえ』だけ。日本人は、種族っていうか……属性、かな」


 不思議なことに、日本語っぽくないこの子たちの言葉が理解できる。

 意思の疎通もできてるし、どこかに自動翻訳機でもあるのかな?

 というか、これって異世界転生?

 私にはとんでもないチートスキルが備わっているのでは?


「よかったな、ニコ。死霊の使い魔が召喚できたんなら試験を受けられるじゃん!」


「うん……でもこの人、本当に死霊なのかな?」


「そりゃ『契約召喚』の魔法陣から出てきたし」


「でもスケルトンとかレイスには見えないんだよ」


 ちょっと待って。なにその不穏なワードは?

 ゲームやアニメでしか聞かない単語ばかりだけど、人並みに沼を嗜む私じゃなかったら聴き流しちゃうところだよ?


 そもそも私が死んでるかどうかなんて、自分で確認すれば分かることだからね。

 手首の脈よし、頸動脈よし、心臓の鼓動よし! うん、全部動いてないな。

 はい死亡確定!


 ……マジか。こういうのって、異世界で生き返ってチート無双するのが王道でしょ……?


「つまり私は……死霊術師のあなたに、召喚された幽霊……ってこと?」


「はい……やっと成功しました。お姉さんが僕の初めての人です」


 ズキュゥゥン!

 ニコくんが上目遣いで言ってるセイコウは召喚のことで、大人の階段のぼる方じゃないのは分かってるけど……

 こんな絶望的な状況なのに、なんだか言い方と仕草が私の性癖にストライク過ぎて心臓がトゥンクしそう。死んでるから止まってるけど。


「明日の試験、使い魔対決で勝てば『初級死霊術師』に合格だな!」


「うん、まあ……」


 明るく笑う茶髪のダルに肩を叩かれ、ニコくんは気が重そうに答える。

 ……ってちょっと待って。今とんでもないことサラッと言わなかった?


「は? なんて?」


 思わず真顔で問いただした私に、ニコくんが丁寧に教えてくれた。

 ここは魔法を習得する『ノーブル魔法学院』で、2人とも1年生。ニコくんは『死霊術科』、ダルは『治癒魔法科』。


 でもニコくんは何度やっても召喚に失敗するので、このままでは死霊術師の適正なしと判断され、進級はおろか退学させられる可能性もあるという。


「ちなみに、使い魔対決って……なにを、するの?」


「簡単に言うと、使い魔の能力で相手の術師をギブアップさせたら勝ちです」


 ふんふんなるほど。

 その試験で私が相手をぎゃふんと言わせて、ニコくんを合格させればいいのね。

 なんだ、簡単なこと……じゃなぁぁあい!


「いやいや無理無理無理無理、絶対ムゥゥリィィ~~ッ!」


 体力ないし運動めっちゃ苦手だし、筋金入りの陰キャコミュ障にバトルなんてできないからね!?


「だいたい私の能力って――」


 突然、机の上に置かれた蝋燭とオイルランプが激しく燃え上がった。

 驚いたニコくんとダルが慌てて炎を消して回る。


「ふぁ~、今のなんだ?」


「分からないよ、ダル」


 おや、これってもしかして私の能力?

 試しに私が蠟燭を手に取って、心の中で着火をイメージすると、ぶわっと激しく火が灯った。


「うわっ、蝋燭が浮いてる!?」


「すごいよダル、彼女が持ち上げて火をつけたんだよ!」


「はあ? 死霊が火を操るって、そんな訳ないじゃん!」


 おおん、ニコくんどういうこと?


「死霊は火が弱点なので、普通は自分から火に近づかないんです。リッチーみたいな高位の死霊でも火を操るなんてできません」


 つまりそれが私のチート能力ってことね。幽霊だけど。ぐすん。


「じゃあニコ、どれくらいの能力か外で試そうぜ!」


「そうだねダル。すごい死霊が使い魔になってくれて本当によかったよ……ありがとうございます、スギイモエさん」


 ニコくん、ちょっと涙ぐんでる。

 主従関係とか分からないけど、使い魔相手にこんなに礼儀正しい人はゲームでも見たことないよ。


「あなた、私の術師……なんでしょ? もえでいい……よ」


「わかりました、モエさん。じゃあ僕のことはニコって呼んでください」


「オレはダルって呼んでよ!」


 ごめんダル、きみのことはずっと呼び捨てにしてるよ。

 すっごく複雑だけど、ニコくんの役に立てるなら悪い気はしないな。


 2人に続いて部屋を出ようとした瞬間、何かにガンッ! と鼻をぶつけた。痛たた。

 え、ナニコレ? 扉からも反対側の窓からも外に出られないんだけど?


 部屋の出口でパントマイムしてる私を、不安そうな表情で見つめているニコくん。


「モエさん、大丈夫ですか?」


「な、なんで……? この部屋から出られないんだけど……あ!」


 ひとつ閃いた最悪の予感。

 もしかして私……幽霊っていうか、ここから出られない地縛霊なのでは!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る