第五話 エラーの正体
私は剣聖と共に戦場を走っていた。
時間が経つにつれて、王様とその親衛隊が切り開いた活路は、他の有象無象によって埋め尽くされていってしまう。
まるで魔物という名の細胞組織の再生を絶つ菌のように、我々は周囲の切り裂きながら、奥に見据える櫓を目指す。
きっと、あそこにはこの軍隊を御する頭が居るハズだから。
「ふぅ、かなり進んできたが――ふっ!っと…中々奥には辿り着かんな。大将首の顔はハッキリと見えているが、まだ時間が掛かりそうだ」
「そこからは見えてるんだ。背が高いっていーなー」
敵軍をまるで草刈りをするように大剣を振り回して命を狩る剣聖の後ろに付随して、その影に取り憑くように歩く女の子がいつの間にかそこに立っていた。
「なっ!?いつ――」
「まず一体。ばいばい、おやすみー」
どんな魔法を使ったのか予測がつかないが、剣聖の太ももに彼女の手が置かれた瞬間に彼が後ろ向きに倒れたのは確かだ。
彼は倒れる直前に大剣を空に向かって投げたが意図を汲めない。
だが、彼の背が地面に着く前に彼女は再び私の目の前から消えていた。
まずは目の前の敵を倒さねば。
「ばぁ!」
「接近…」
「ぐぇっ!?んふふっ、やるじゃん」
彼女はまるで地面の中を泳いでいるように、底から飛び出してきた。
私はそれに反応し、剣のポンメルで彼女の側頭部を叩く。
頭を叩かれて横に倒れそうになった彼女は、私の目を横目で見ながら地面には倒れず、着水するように滑らかに地面に消える。
「今度こ――グッ!?ア゛ア゛ア゛!!」
私の背後から飛び出してきたであろう彼女の左腕は既に骨が見えるくらいに削がれていて、私が振り向く間に落ちて来た大剣が地面に深々と突き刺さっていた。
そして彼女は体勢を崩して失速し、私の真横の地面に身体を預けようとしていた。
「逃がさない」
「ァア゛!痛ッだァア!」
彼女の腹部に私の剣が刺さるが、そのあとすぐ地面に潜られたため深手を負わせることはできなかった。
しかし、まさか彼はこれを狙っていたというの?
そんなの未来予知の域に達している。
「はぁ…はぁ。痛い、痛いわ…痛いじゃないの…」
彼女は私から離れたところから現れて、左腕を垂らし腹部を右手で押さえながら私を睨みつけていた。
「ふっ…ふふっ…あははは!」
傷だらけのハズの彼女が笑っている。
その理由は分からない、この世界に来てからは分からないことだらけだ。
転移自体が常識外れなのに、その世界の住人も常識外れだ。
未来予知並みの予測をする味方と感情がおかしい敵と来た。
次に何が来てもこの世界の常識だと思うしかないかもしれないな。
「なぜ笑っているのか?って顔よね。想像してみて、劣勢の状況で最高の切り札が発動してみなさいよ!貴方も笑みが痛みよりも先に零れ落ちる程の感情の縺れを感じてみなさい!この感情が分かるから」
私の周りに影が掛かった。
背後に何かが立っている。
大きな何か…。
予測――剣聖…。
予測――しゃがめ。
「ッ…」
「は?なんで避けれんのよそれェ!」
私の予測結果の末の回避に驚くアイツに対して、私自身も更に驚いていた。
思考回路が固まる現象を驚きと名付けた今、様々なエラーが解決していく。
「あぁ…これが」
感情を有するAIとして開発された私が、決定的に今進歩した。
今までエラーとしてきた状況や乱れは、全て感情という言葉で説明が付く。
「感情…かぁ」
様々な思惑や恐怖、快楽が渦巻く戦場で私は感情を理解した。
この感情は焦りだ。
間一髪で避けたのは、先ほどまで地面に刺さっていた大剣。
これを振れるのは…ヴィルヴァルディルだけ…でも、彼は今あそこに
「――いない…」
彼が倒れていたであろう場所を見ても誰も居なかった。
疑問を抱きながら私がさっきまで居た場所の背後を見ると、見慣れた大男が見慣れた武器を持って立っている。
前後の関連性ではきっとこれもアイツの能力だ。
彼女の能力に制限が無ければ、私たちの負けと考えられる状況で私は焦っていた。
まだ一度も傷を付けていない剣聖との対面、勝てる確率を計算するのは放棄した。
ここからは状況判断と分析能力だけで食らいつく。
「剣…角度…方向」
それだけ分かれば回避するのは容易い。
でも――。
「剣以外もあるよー!」
即席の計算式に変数は付き物だ。
それ以外がすぐにやってくる。
彼女もそう、魔物もそう…。
「楽しそうだね」
「そっちも。まるでダンス!そうだ、踊りましょう!三人で!」
彼女は出血のせいでアドレナリンが出てハイになっているようで、意味不明なことを言いながら笑う。
目障り耳障り、どちらにしても邪魔な存在に過ぎない。
地面を泳いで跳ね回る彼女と、頭上を通り過ぎる轟音を連れた金属の塊は私を段々と追い詰める。
「そろそろフィナーレと行きましょう!っと――――魔法?」
余裕綽綽な彼女に火の玉のようなモノが飛翔する。
それを避けた後に地面から顔だけを出した彼女の言う通り、魔法だ。
「勇者様ー!それに剣聖様も!」
魔法は私の背後から飛んで来た。
当然魔法使いの彼女は私の――剣聖が居る後ろから来る。
あの子は彼が敵だとは思っていない。
「ダメッ!彼は――!」
「はい?」
間に合わない。
予測――死亡
分かってる。
足は動いたけど、この距離じゃ手が届かない。
剣聖が彼女を見ている間に攻撃を加えれば深手を彼に与えられる。
私が感情をエラーと認識していたあの時だったら、きっとこの選択肢を選んでいた。
けど、私は手を伸ばし走ることを選んだ。
「勇者様もそんな顔するのね」
剣聖が振った剣は宙を撫でた。
空を割く音が鳴る中、すぐ横で女性の声がした。
「へ?何が起きたの?」
「イバルディさん…」
「やっと追いついたわ、勇者様。はぁ…まったく、王様は血気盛んで…玉座に座らせておかないと、ああやって先陣を切ってしまうのが難癖ね」
槍を持った長身のメイド長は、開いた手で魔術師の肩を引き寄せて勇者の横に立っていた。
彼女の動きは、初対面の時と同じでまるで見えなかった。
異世界転移した少女型ロボット【ソメイ】の勇者体験日記 アスパラガッソ @nyannkomofumofukimotiiina
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