第四話 違和感と侵入
剣の指南が始まり二日目、この世界に転移してからは四日目に突入していた。
私が国外に出て、魔王を討伐しに行くまで残り二日となった。
「二日目にして大分動きが良くなってきましたね!休憩にしましょう」
私の身体には体力というモノが存在しないので、休憩無しに一日中稽古することが出来るのだが、研究員の意向――というか要求で、私は常に人間として振舞わなければいけないので、データ分析を兼ねて、これを休憩と称し誤魔化す。
ヴィルヴァルディルは伊達に剣聖という称号を持っているわけじゃないのは、この数十時間の間に証明されている。
まず圧倒的な反応速度、私とほぼ同等レベルのそれは、素人の付け焼刃で突破できるほど安くない。
それと体術のレベルも高く、大剣にかまけてるわけではないのもすぐに分かった。
「ヴィルヴァルディルさん、少し質問があります」
「ん?」
「なぜ、それほどまでに強いのに、魔王討伐の命につかないんですか?」
これなら魔王の強さが未知数であっても、彼一人で十分に魔王と渡り合えるのではないかと考えた末の質問を投げ掛ける。
「いや、ついたさ。結局片腕と片目しか持ってけなくてさ、仲間の魔術師が俺だけ逃がしてくれたんだ…」
そして彼は『実は』と枕詞を置いてからどこか遠くの空を見ながら話し始めた。
「俺は魔法戦士だったんだ。でも、魔王に魔力を奪われてね」
そこで、彼の身体にあった違和感の謎が解けた。
この世界の住人は皆身体から少しだけエネルギー波が放出されている。
それは、魔石が放つモノと同じような波動だったが、それが彼には無かった。
「今じゃ身体強化魔法も使えないただの剣士さ。剣聖なんて…実は昔の称号だしね」
そう言って下を向いた彼は、隙間風のように弱弱しい笑いを発していた。
「でも、十分強いじゃないですか」
「なぁに、無理して若人に食らいついてるだけで、君だったらあと一日もしない内に私を倒せるさ。飲み込みの速度は尋常じゃないしね」
そう言って、私の肩に手を乗せる。
これの意味は分からないが、彼の癖なのかもしれない。
そんな話をしていると、王宮を一瞬で甲高い鐘の音が満たした。
それはここから数十メートル離れた王宮の中心から鳴っているようで、ヴィルヴァルディルは何も言わずに立ち上がった。
「魔王軍が攻めて来たか」
「なぜ分かるんですか?」
「魔力は無くとも読めはする。それにこの鐘の音は基本的に魔王軍が攻めて来た時にしか使われない」
やはり私に一週間も悠長に待っている暇は無かったのだ。
「過去にも同じことがあったんですか?」
「あぁ、勇者が召喚されると必ずな。ただ、今までよりも特段に早い」
私は駆け出したヴィルヴァルディルを追い掛ける。
全力で走る彼は速く、まるで短い距離を瞬間移動しているかのように、一歩一歩が大きく、彼の大きい身体は長い廊下を通して、ドンドン小さくなっていった。
私が彼を追い掛けるごとに、他の兵士やメイドも武器を持って戦場に向かっているのを見掛けた。
その中には私にお菓子を作ってくれた女の子も居た。
私は途中で憩いの場に寄り、魔石を机の近くに掛けてあった革の鞄に詰める。
すると石がぶつかる音に混ざって、ズズッと何かを吸う音が部屋の中から聞こえた。
「うっ…うぅ」
辺りを見回すと、様々な色の触媒が詰められた棚の下で、とんがり帽子の両端を手で押さえて震える人が居た。
「どうしたの?」
「怖いぃ……」
質問してもまともな答えは返ってこず、代わりに頭を左右に振っておびえる始末。
その度に帽子の端から垂れたサイドテールが、しゃがんだ私の顔に当たる。
「早く逃げないと魔王軍が攻めて来ますよ」
「ひぃぃい…!」
私が逃げることを促そうとしても、彼女は震えたまま怖気づいている。
帽子を下から覗き込むと、鼻水にまみれた顔が見えた。
「拭いたらどうです。それ」
「え…ゆ、ゆ、ゆ…
彼女はそのままの体勢で私に抱き着こうとしたので素早く立ち上がって横に避けた。
すると、彼女は汚い声を上げて床に顔を激突させて倒れてしまった。
だが、それだけでは止まらずにまるでゴキブリのように地面を這って私の足に抱き着いて来た。
「ちょっと、そろそろこんなことしてる暇は無いんだけど」
外では一刻の猶予を争う事態、足元には変な人が居て思考回路がこんがらがりそう。
ここに来てからは研究所で実験を受けてる間には、絶対に受けれない刺激ばかりが飛び込んできて新鮮だ。
「あ、貴方に着いていっていいですか?」
「まぁ、良いけど」
これって、もしかして魔王討伐隊の仲間になりたいってことなのかな。
とりあえず魔術師は欲しかったから丁度良いや。
「じゃあ行こっか」
「いや…そうじゃなくて…実は腰が…抜けてて」
「あー…うん。乗る?背中」
「…はい」
彼女を背に乗せて遅れた分を取り戻す勢いで走る。
「あばばばあばぁ!は、速いぃぃ!」
幸い魔石が沢山あるから、充電には問題が無いので全速力だ。
後ろがうるさいけど、戦力になる可能性があるなら戦場に連れて行く。
途中逆方向から走ってきた団体が居たけど、なぜかみんなドン引きしたような表情をして私の肩の部分を見つめていたので見てみたら、鼻水がべったりついていた。
「ふっ!ふんっ!おぉ、遅かったじゃないか!って、背中の人は誰だ?」
王宮の廊下を駆け抜け、両開きの大きい門を超えた先にある桟橋を超えた先では、王宮の人たちが武器を取って魔物たちと戦っていた。
その中でも特に目立つのはやはり長身二人。
槍で魔物を串刺しにするイバルディと大剣を振り回すヴィルヴァルディルだった。
「急いで来たよ。ほら降りて、即戦力」
「ふぇ…?あ…あぁ、ま…魔物ォォオオ!?」
「本当に戦力になるのか?」
「魔力量は申し分ないと思うんだけど」
私は何も無策で連れてきたわけじゃない。
一見何も出来なそうな子だけど、内に秘める魔力量はこの場の誰よりも多かった。
ちなみに周りを見渡してみて、次点で魔力量が多いのは王様で意外だった。
「ここを突破されたら国民の命は無いと思え!」
王様はそう叫びながら先陣を切り、そのふくよかな身体からは想像もつかないような速度で走り、斧を振り翳してイノシシの魔物を両断した。
「メイドたちは直ちに円錐型の陣形を取れ!このまま中央突破を目指す!」
イバルディは一列に串刺しにしたゴブリンを振り抜きながら、私の後方から走ってきたメイドたちに指示を出していた。
「お、驚きましたか?」
私がその状況を眺めていると、背から降りた彼女が横から話し掛けて来た。
確かにこの光景を見て、私の思考回路は固まっていた。
普段は非戦闘員だろう彼らが、武器を持ち自らの声で士気を上げ、目の前の敵軍を背後の国民たちに辿り着かせないようにと戦う彼らの姿を見て、私は固まっていた。
「うん、驚いた」
「この国は他国との戦争を以てして成り上がってきた武装国家だから、みんな基本的に戦える…けど、国民は違う。あの人たちはこの国の頭脳として戦う戦略家だから、実践向きじゃないんだ」
「恐怖は無くなったの?」
彼女の目には既に恐怖の色は無く、敵軍を見据える兵士の目になっていた。
「えぇ、目の前の光景を見たら…そりゃあ」
なるほど、武装国家。
道理で王宮が一番前に防波堤として立ち、魔王軍の侵攻を堰き止めているような位置取りになっているのかよく分かった。
「え…っと、勇者様!行きますよ!」
「えぇ、私の実力を測る良い機会を逃すわけにはいきません」
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