婚約破棄されたので島流し(リゾート地)にしました
ぬまのまぬる
第1話 島流し
僕――アルベール・リシェスの婚約者はこの国の第一王女だ。
もうすぐ訪れる十八歳の誕生日に、一つ年上の彼女と結婚することが決まっている。
アンリエッタ・ルージュベルという名前の彼女は、豊かに波打つ金髪と深い青色の目の端正な美貌の持ち主である。
加えて5ヶ国語を操る教養と、優雅な所作で各国からは憧れの的だと言われていた。
そんな彼女と僕が婚約することになったのは、ひとえに僕の実家がそこそこ力のある公爵家だからにすぎない。
彼女自身はおそらく僕のことが好きではないだろうし、僕は……
「アルベール!」
明るくてよく響く声が、僕を物思いから引き戻した。
「今度2人で旅行でも行かないか?」
白い歯を見せて笑っているのは、幼馴染のジョルジュ。
彼は僕の秘密の恋人だ。
同性だから結婚はできないし、このことを知ったらプライドの高いアンリエッタは激怒するだろう。
「いいよ。どこに行こう?」
「イリス島はどうだ?温かくて海も綺麗で、魚がうまい」
「行きたいな」
ジョルジュと、島でのんびり暮らす生活を思い描く。
決して叶わない夢だと分かりながらも。
「なぁアルベール。いつか、2人でどこか遠くで暮らせたらいいな」
ジョルジュの言葉は、僕の心を深く抉った。
僕も、本当はそれを望んでいる。
このままアンリエッタと結婚したら、永遠に檻の中だ(そう思うのはアンリエッタには申し訳ないけど、たぶん彼女は僕に興味がない)。
「ジョルジュ」
僕は言った。
「アンリエッタとの婚約を解消してもらおうと思う」
「え」
ジョルジュは戸惑う顔を見せた。
「このまま、みんなに嘘をつきながら付き合うよりも、全てを捨てて君と一緒に生きていきたい」
ジョルジュの返事を待たずに、僕は駆け出した。
「婚約を破棄したいですって?」
従者に通された冷たく静まり返った奥の間で、アンリエッタは恐ろしいほどの美貌を僕に向けた。
「申し訳ございません。私には、どうしても忘れられない思い人がいるんです」
「相手はルヴァン伯爵かしら?」
「え」
なぜだか言い当てられてしまった。やはり各地に彼女の密偵がいるという噂は本当だったのだろう。
「……その通りです」
アンリエッタの白い頬が微かに赤く染まった気がした。
「なんということ。わたくしというものがありながら、こんな裏切りは許せません」
深い青色の目が僕を捉える。怒りさえも感じ取れないほど静かなその目がかえって恐ろしかった。
「あなたは島流しです。もちろん、ルヴァン伯爵も!」
その声はどこか楽しそうに聞こえた。
*
「アンリエッタ様。島流しに、なぜこのような住居や従者が必要なのですか?」
訝しげに問いかけてきた宰相に、私は答えた。
「島流しとはいえ、アルベールは公爵令息です。それくらいの格式は必要でしょう」
「左様でございますか。裏切り者に随分と温情をおかけになるのですね」
宰相が地図を見ながら眉を顰める。
「しかも、イリス島ですか。ここは大変温暖で住みやすい環境です。こんなところに追放しても大した罰にならないのでは?」
「それは、庶民にしたらそうかもしれないわ。でも、ずっと贅沢三昧だったアルベールとジョルジュにとっては不便で辛いはず。とても良い罰でしょう」
反対されないように、きっぱりと私は言い放った。
宰相が出ていってしまうと、一つ深呼吸をする。
「ついにジョルジュ×アルベールが公式カプになったわ!!!!見守ってきた甲斐があった!!!!」
私は元々アルベール自身に恋愛感情はなかった。
彼が浮気をしようと、誰を好きになろうとどうでもいい。
しかし、密偵から「アルベールとジョルジュが付き合っているかも」と聞いてから、世界はバラ色に染まった。
ジョルジュは武芸にも優れ、引き締まった体型と日に焼けた肌が品の良さの中にも野性味を加えている好青年。
一方アルベールは、銀色に近い金髪が儚げな美貌を際立てる、いまだ美少年という方がふさわしいような美青年。
この二人が付き合っているなんて、素晴らしすぎて全力で推すしかない。
しかし、一刻の王女である私がそんな趣味全開なことを言うわけにはいかない。
そう考えると、島流しは我ながらいいアイディアだった。
この国を離れれば二人ものびのびと愛し合えるに違いない。
想像するだけで尊い。
もちろんイリス島へ向かう従者には、ちゃんと密偵を忍ばせている。彼らの様子を逐一報告してもらうように。
そうだ。私は勝手にジョルジュ×アルベールだと思っていたが、実際はアルベール×ジョルジュなのかもしれない。それはそれで悪くない。
ジョルジュの方が背が高く逞しいが、そういうタイプが受なのも意外といい気がする。
本当はどちらなのか、しっかり報告してもらわないといけない。
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