出発

耳元で携帯のアラームが鳴り、手を伸ばし止め

目に映る景色を眺める。

カタカタと部屋を撫ぜる扇風機の羽音、立て掛けられた制服、机に置かれたお気に入りの小説。何処か懐かしい夢を見ていた様な気がしたがすっかり忘れてしまった。布団に朝の匂いと温みが残る中アオイは制服に着替えるとリビングに向かい、朝食のバターをたっぷり塗ったトーストを齧りながら牛乳でそれらを流し込んでいると画面の中で今日もまた、知らない場所で知らない誰かが亡くなったというニュースが綴られていた。毎度こうしたニュースを見る度に自身が望む、望まざらずとも人生は今確かにはっきりと意思を持ち終わりへと向かっているのだと、否応なしにそう実感させられる。しかしその現実を目の当たりにする中でも日々の生活は自身の感情が乗る間もなく忙しなく通り過ぎている。

履き慣れたローファーの感触

頬を撫でる風


何が正しくて、何が間違っているのか

味気ない程に変わり映えしない日常にずっと何かを待っている様な感覚。そんなどうしようもない感情が、生活の中に横たわっている。図書室に着くとカウンター席にリョウタの姿があり

アオイも紺色のリュックを置き横に座った。

「アオイ、今日の貸し出し当番何時まで」

「一三時」

「終わったら何するん?」

「別に何も。そっちは」

「俺も別に何も」

「なーリョウタ」

「なに?」

「暇ならどっか行こ」

「どっかて?」

「川とか、廃校探索とか」

「別にええけど」

「探すからパソコン貸して」

アオイは貸出用のパソコンを自分の方に寄せると、カタカタとキーボードを打ち込む

「何や今日は積極的やな。何かあったん?」

「別に、それよりこことかは?」

そう言いパソコンをリョウタの方に寄せる

「青葉台中学」

「隣町にある廃校なんだって、山の方にあって近くに綺麗な川もあるらしい。どう?」

「んーまー外は暑くてかなわんからな、丁度ええかもな。」

「じゃ決まり」

二人はそんなやりとりをしながら、カウンター席で貸し出し委員の仕事をこなす。やがて一三時になり、午後の担当が図書室に来ると引き継ぎをし二人は校舎を出た。外はクーラーの効いた部屋とうって変わり、肌を刺す様な陽射しが全身を襲う。

「でどうやって行くん?」

制服をパタパタと扇ぎながら坂を降りるリョウタがアオイに尋ねる。

「ここから電車で行けるみたい。大体三十分くらいかな」

「飯はどないするん?」

「持ってきてるから少しくらいなら分けたげる」

「それは期待してええやつなんか」

「文句つけるならあげん」

「冗談やんか、待ってや」

リョウタを置き去りにしようとするアオイの足音とそれを追いかけるリョウタの足音が、遠くから聞こえるチャイムの音と共に夏の昼下がりの中に溶けていった。

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