第4話 半妖の男

 黒い腕を掴んだまま、僕は扉の奥をじっと見つめていた。一瞬だが、子供の姿が見えた。視認して1秒も経たないうちに、僕は手に入れる力を強めた。その直後、掴まれていた腕が燃え始める。


「先輩、今の」

「あぁ、アタシにも見えた。あれが今回の犯人だろう」

「引きずり出しますか?」

「……いや、やめておこう。まだ向こうの霊現象能力が把握しきれていない。一先ず、神崎さんを助けようか」

「わかりました」


 僕は神崎さんに近づき、まとわりついている腕を焼き尽くす。


「えーっと、大丈夫?神崎さん」

「大、丈夫……えっと、夜刀君……だよ、ね?」


 恐怖のせいなのか、涙ぐみながら僕を見る神崎さんの目が上下に動いていた。まるで僕が誰だか認識していないみたいだ。


「うん、そうだけど……やっぱりそうだよね、似合ってないよねこんな姿。というかそうだと言って!?」


 僕は綿帽子を外し、少し長く尖がった三角の耳をピコピコと動かしながら振袖を揺らしながら神崎さんに詰め寄る。


「え?あ、いや、全然!むしろよく似合っていると思うけど……?」


 神崎さんの言葉に、俺の意識は遠のく。先輩から可愛い顔と言われたあの日から、僕は何故か周りからの印象を張り付けられていた。それが、僕はとても苦痛だった。今でこそだいぶマシにはなっているが、それでもその評判は消えることはないだろう。


「くそぉ……もういっそのこと先輩のこと呪おうかなぁ……」

「夜刀くん、いくらオカルト好きのアタシでもそれだけは勘弁してもらいたいね。キミの呪いだなんて洒落にならない」


 僕の軽口に先輩がわりと真面目な声でツッコム。


「……もうこの際夜刀君の花嫁姿は置いとくとして……え?あれ?夜刀君に耳と尻尾が見えるのは……気のせい?」


 足に力が入らない神崎さんを抱えて腕が届かない範囲まで退避すると、神崎さんが僕の恰好について聞いてきた。いつもの黒髪がきつね色に変わり、短かった神が延ばせば腰まで届きそうな長さで、それを簪で留めている。お尻の方、つまりは尾てい骨あたりから出ている少し太くて長いきつね色の尻尾をなびかせながら不思議そうにしている神崎さんを見る。


「神崎さん、キミは狐の嫁入りという言葉を知っているかな?」


 僕が説明しようとしたら、先輩が口を開けた・


「え?狐の嫁入り……って、確か晴れているのに雨が降る現象……ですよね?」

「そう。それが狐の嫁入り。だが、オカルトでは違う」


 先輩が僕の方を見ながら説明を続ける。扉の方を見ると、性懲りも無くまた腕が伸びてきていた。僕はそれを掴み、焼き続ける。射程距離外とはいえ、相手はこの世の理を外れた存在、油断も慢心のしない。


「時は江戸時代、場所は山に囲まれた田舎。時刻は丑三つ時深夜2時、山の中を照らすいくつもの明かりがあった。その明かりは、長い列を作りながらゆくりと山の中を進んでいたとされる。気になってその明かりを見に行った数人の村人は、ただ一人を除いて行方不明となった。帰ってきた一人の村人曰く、『あれは魔性の化物だ、妖狐の嫁入りを見たら呪われる』とのこと。それから、狐の嫁入りは各地でみられるようになった」


 先輩が説明し終えると、神崎さんは首を傾げていた。一度に、しかも大量に訳の分からない情報を聞かされて混乱しているらしい。


「夜刀くんはな、半妖なんだ」

「……半妖……ですか?」


 後ろで会話している先輩がと神崎さんを見る事は無く、僕はずっと伸びて来る腕を焼いていた。そして、ある一つのことに気づいた。


「(腕の射程距離が延びている?それに、腕の数も増えてる……)」


 手早く伸びてきたを焼き、すぐに別の腕を焼く。段々と増えてきた腕の数を見て、早めに終わらせないとマズイと、入部してから今日に至るこの2ヶ月の直感が告げている。腕の数が減ってきたところで、一瞬だけ後ろを見る。


「そのままの意味だ。彼は半分が人間で半分が妖怪……狐の嫁入りの血を引いている」

「……なる、ほど?あれ?でも狐の嫁入りって妖怪なんですか?」

「良い質問だ。妖怪とは、想像の怪物……であって現象ではない。狐の嫁入りというのは妖狐の群れが引き起こす、ただの霊現象にすぎない」


 なんてまだ解説を続けていた。相変わらずの先輩に呆れつつ、危なくなるまでは話させてあげようと思いながら先輩の話に耳を向ける。


「ま、詳しいことは後でみっちり話そう。夜刀くん、


 先輩の言葉に、僕は一瞬驚くがすぐに頷く。伸びてきた腕を一度に全て焼き払い、数歩下がって先輩と神崎さんを抱える。


「舌噛むと危ないので口開けないでね」

「わ、わかった」


 脚に力を入れ、大きく息を吸い込む。その瞬間、勢いよく駆け出し、腕が出てくる前に扉に向かって走る。


「……ここが開かずの間の中」


 扉の奥は、畳が敷かれた部屋だった。周りを見渡すと、セミの鳴き声が聞こえる。夏休みに行った祖母の家に近い、そんな気配に一瞬だけ気が緩む。


「先輩……これは一体……」

「霊現象……としか言うほかあるまい」


 先輩ですらこの状況に動揺しているらしく、クールな顔が崩れている。


「邪魔モノ……ハ、出テイケ!」


 突如、子供の声が響き渡ると、空間が一瞬だけぼやけ、姿を現す。その姿を見た先輩は、僕の前に出て子供を見下ろす。


「キミがこの霊現象開かずの間の正体か」


 子供の口が大きく開き、不気味な笑みを浮かべると、子供の背中や床から黒い腕が生えてくる。


「見るのも会うのも初めてだが……随分と気色悪い姿をしているのだな―――」


 先輩は子供を観察し、そして名前を言った。


「―――座敷童というものは」


第一章 わらべ揺蕩たゆた幽玄ゆうげんの星 開幕

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世にも奇妙な探偵部 34フルフル @34fulufulu

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