第25章 — 世界が応答する

静寂が戻った。


世界が落ち着いたからではない。

――音を立てるのを、恐れたからだ。


アレン・ノクティルは、砕けた回廊の中心に立っていた。

胸の鼓動はまだ荒いが、先ほどの圧は内側へと引き戻されていく。


床には人々が倒れている。

意識を失った者。

震える者。

そして――空が瞬きしたのを見たかのような目で、彼を見る者。


アレンは、ようやく彼らを認識した。


「……チッ」


手の甲で顔を拭い、汗と涙を乱暴に拭き取る。

呼吸が整い、肩が下がる。


叫びは終わった。


残ったのは――もっと厄介なものだった。


【システム状態:安定化中】

【感情出力:抑制】

【警告:観測者確認】


「やっと役に立つ情報を出す気になったか」

アレンは低く呟いた。


アクシオン記録区の壁は、もはや完璧ではない。

無数の亀裂。

砕けた記録水晶から、消えかけの光が漏れている。


ここは神を記録する場所だった。


――今は、彼を記録した。


規則正しい足音が響く。


慌てたものではない。

訓練された動き。


黒い制服の集団が現れ、手にした装置が淡く光る。


警備ではない。

兵でもない。


観測者だ。


「局所的な崩壊を引き起こしたな」

先頭の男が冷静に言った。

「名と所属を名乗れ」


アレンは彼らを見つめた。


そして、一度だけ笑った。

乾いた、感情のない笑い。


「所属、か」

彼は一歩踏み出した。


観測者たちが一斉に身構える。


アレンは、彼らの直前で止まった。

紅い瞳は、静かで、空虚だった。


「アレン・ノクティルだ」

「そして俺は――まだこの世界が制御下にあると信じてる側には属していない」


装置が乱れる。


【記録不整合検出】

【データ衝突】


先頭の男が眉をひそめる。


「……お前は、何者だ」


アレンは、わずかに首を傾けた。


「無視しちゃいけなかった存在だ」


誰にも見えない背後で、

砕けた水晶が一度だけ脈動した。


激しくはない。


――理解するように。


記録区の奥深くで、

古い何かが“更新”される。


学生でもなく。

脅威でもなく。


“変数”として。


アレンは振り返らずに歩き出した。


その声だけが、回廊に残る。


「伝えろ」

「ルネスラは、忘れられていない」


「――俺もだ」

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