第23章——裁きなき裁き
それは逮捕ではなかった。
“護送”と呼ばれていた。
白い回廊が、果てしなく続いている。
磨き上げられた床は反射しすぎて、境界が溶けていた。
両脇には天使たちが並ぶ。
無言で、整然と、前だけを見て。
誰一人、アレン・ノクティルと目を合わせない。
手首のすぐ外側に、光の鎖が浮かんでいた。
触れていないのに、重い。
一歩ごとに、監視されている感覚が骨に染みる。
「……彼女はどこだ」
返事はない。
聖域を名乗るには、あまりに反響する声。
回廊の終わりにあったのは、
審議の間。
巨大で、円形で、
そして——玉座だけが並んでいた。
椅子ではない。
それは“裁き”そのものだった。
一つ、また一つと、
翼を畳んだ存在が降り立つ。
神ではない。
だが、神に仕える者でもない。
管理者。
調停者。
血を流したことのない“均衡”の観測者。
アレンは中央に立たされた。
壇上はない。
弁明もない。
名も呼ばれない。
沈黙。
やがて——
「罪状を述べよ」
反響しない声。
必要がないからだ。
アレンは、笑った。
壊れた音が喉から漏れ出る。
「……罪?」
「もう彼女を殺しただろ」
空気が揺れた。
不快感。
だが、疑念ではない。
「口を慎め」
別の声が告げる。
「お前は神域撹乱の罪に問われている」
アレンは、ゆっくり顔を上げた。
紅い瞳が燃える。
「……名前を言え」
誰も答えない。
語られるのは、
均衡。
禁忌。
感情的汚染。
「彼女は危険だった」
「破綻の起点だ」
その瞬間、アレンは叫んだ。
言葉ではない。
呪いでもない。
胸の奥から引き裂かれる、獣のような声。
膝が床に落ちる。
光が、ひび割れた。
「彼女は人だった!!」
「笑って、怒って、興味ないふりで本を読んでた!!」
声が割れ、また高くなる。
「それを……数値で処理したのか?!」
沈黙。
冷たく、完全な沈黙。
やがて、中央の玉座が告げる。
「判決は既に下されている」
アレンの呼吸が乱れる。
「……なら、なぜ俺を呼んだ」
“見届けさせるためだ”
言葉にはされなかった。
だが、理解できた。
光が奔流となる。
内側で何かが壊れる。
比喩ではない。
裂ける感覚。
崩壊。
自分ではない悲鳴。
翼が白熱し——
消えた。
アレンは床に崩れ落ち、血を吐きながら痙攣する。
「刑罰を宣告する」
平然とした声。
「追放」
死より重い言葉。
「神性剥奪」
「記録抹消」
「天界外放逐」
床に伏したまま、
アレンはかすれた笑いを漏らす。
「……裁判なし」
「……遠回しな処刑だな」
答えはない。
光が、彼を包んだ。
そして――
天は、彼を手放した。
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