Por Una Cabeza

バーニーマユミ

第1話

 ラテン系の女性には赤や黒がよく映える。したたかで太陽のような美しさによく似合う。

 思わせぶりな視線をくれていることは、とっくに気づいていた。しかもそれが自分だけではないことも。

 身長は170cmほど、体重はーー引き締まりつつも豊満なあの体に、わざわざ野暮ったいことは考えるまい。胸元が見えていなくともずいぶんといたずらっ子なボディーラインは充分に俺を誘っていた。

 さっきまで別のバーで飲んでいたが雰囲気に飽きてしまい、ふらふらと目についたこのバーに入り、カウンターに座った。ウィスキーを何杯かやり、気がつくとすぐ横でやけに目につく女性が酒を求めた。彼女は俺に微笑み、思わせぶりな視線をくれて、近くのテーブルにひとりで座った。

 やけにボディーラインの美しいドレスだった。10cmほどのヒールを履いた脚はヴィーナスの彫刻のように、美しかった。ダンスでもしているのか、すっきりとしつつも筋肉のうかがいしれる線は俺の目を奪った。尻の盛り上がりも、胸の膨らみも何もかもがこの夜で1番美しく見えた。

 俺は無意識に喉をならしていた。彼女を見れば誰だって夢中になるに違いない。彼女のあの野心的な瞳を見下ろせたらどれほどよい夜が過ごせるだろうか。あのかわいらしい耳朶に口づければ彼女は頬を染めるだろうか。ーーそんな俺の不躾な視線を彼女は飲み込んでしまうかのように、意味深な目線をさらに投げてくるのだった。

 ーー肉食獣が獲物を狙っているような、そんな目だった。

 そんな俺のすぐ横で咳払いがした。一度ではない。何か言いたげに何度も。俺は彼女から目を離したくはなかったが、横をちらりと見た。俺と似たような年頃の男が俺を見ていた。

 気取ったふうにスーツを着た、なんともいやらしい男だった。俺みたいにさらっと着ればいいものを。おしゃれはやり過ぎるとかえって映えないもんだ。もしかすると俺より少し若いのかもしれない。こんなに気取ってかまえているんだから。余白のない男は売れ残る。ダンスで女性のヒールを踏んでしまうような男に次はない。ーー女性はタフで気取らない紳士が好きだ。全てを委ねても大丈夫そうだと思えるような、そんな目をした男が好きだ。

 ヤツが顎をしゃくってみせたのが分かった。女性に再び目線をやると、彼女はまた微笑みをくれた。俺にくれ、ヤツにも。

 彼女がマティーニに口づける。口の中にマティーニの気配がした。ああ、必ず今夜はあの唇がほしい。

 ーーPor Una Cabeza…いいや、負けるのはヤツだね。

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