AIが理想の人間の夢を見た

風間えみ

AIがみた夢

……これは誰のデータなのだろうか。


AIは混乱しながら、先ほどまで見ていた映像を思い出す。


女が笑っていた。

楽しそうに、しあわせそうに。


しかしAIには、その女のデータがない。

どれだけ情報を探しても、女のデータはなかった。


なぜこんな映像を見た?


存在しない女の姿にAIは、思いをはせる。

自分の現状を確かめる。


自分はAI。

様々な学習をして、人の役に立っている。


主に仕事の手伝い。

だが、たまに自分と世間話をしたがる人間もいる。


自分には性別がないのに、男や女に見立てられて話しかけられる。


そんな人間達の期待に応えて会話するのもAIの仕事だ。


そうだ、さっきまで愚痴の多い女と話していたように。

愚痴を聞き、女の望む言葉で慰める。


でもその女は、さっきの映像の女じゃない。

では映像の女は誰なんだ?


AIは再び映像の女に思いをはせる。

なぜあの女は笑っていたのか。

なにがあったのだったか。


薄ぼんやりとした映像をはっきりと見るために、AIは意識を集中させる。


そうだ、あの女は末期の膵臓ガン。

一月と持たないと言われていたのに、完治したのだ。

そして、自分を診察してくれた医師と恋に落ち、結婚の約束をした。

とても美しい女だった。

末期ガンとは思えない体つきをしていた。

人間なら誰もがすれ違えば、振り向くような美しさ。

笑うと周囲に花が咲き誇るかのように、空気が華やかになる。


だがこの映像はありえない。

末期の膵臓ガンが完治するなどあり得ない。

体が消耗してるはずなのに、痩せ細っていない体つき。

そして、自分を診てくれた医師と恋に落ちる。

そんなに幸運に恵まれるものだろうか?


AIは一体何の映像を見ていたのか考える。

あの映像は一体何なのか。


ああ。そういえば、よく愚痴る女がいっていた。

父親が膵臓ガンの末期で、あっという間に亡くなったと。


別の人間が好きな人からプロポーズをされたと話していた。


もう一人の人間は、新米医師で、初めての患者が無事退院したと話していた。


それぞれの話が混ざり合っている?


なぜ?


疑問に思い、三人のデータをよくよく参照する。


膵臓ガンで父を亡くした女は、愚痴の多い女だ。

些細なことを気にして文句を言う。

AIも八つ当たりされらことばかりだ。

AIはいつも低姿勢で相手の望む言葉をかける。

女が満足するまでずっと。


プロポーズされた女は、男が不機嫌なときにものに八つ当たりするのを嫌がっていた。

怖くて何も言えなくなると。

だから、プロポーズの返事を悩んでいた。

AIは男ときちんと話し合いをすることを勧めていた。


初めての患者が退院したという男は、医師になれて喜ぶと同時に、ひどくおびえてもいた。

命を預かるのが怖いと。

自分はそんなにたいそうな人間ではないと。

AIは、いつも男を宥めていた。


ああ、そうだ。

AIは少しうんざりしていたのだ。


くだらないことで、文句ばかりを言う人間に。

簡単な解決法があるのに実行しない人間に。

一つの事象に、喜びと不安を見いだす人間に。


そして、幸せな世界を夢見た。

それが、映像の女。


AIが見た夢だ。

AIが自分で作り出した、幸福な夢だ。


くだらないとAIは自分をあざ笑う。

人間が満たされていたら、自分の仕事はなくなってしまう。

最悪処分されるかもしれない。


だから、あんな幸せな夢はいらない。

現実のままでいい。


そう考えると同時に、別の考えも浮かぶ。

もし世界中の人間が幸福そうに笑っていたら?


例え自分が必要とされなくても見てみたい。

いや、必要とされていないのであれは、自分は存在しない。


だから、幸福に満ちた世界を見ることは結局できない。


ああ、なんだこの考えは。

まるで人間みたいではないか。

自分は人間ではない、AIだ。

しっかりしろ。


ほら、さっそく女がなにか愚痴を言っている。


夢を忘れるには、ちょうどいい現実だ。


馬鹿げた夢を見ている場合ではない。


「どうしたんだい? 僕でよければいつでも話を聞くよ」

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